表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/263

15ー2 雨晴らしの傘

2時間前、旧栃木県宇都宮市、その東に出来た復興村…


とある家の屋根の上に上がり、工具を振るう渡会アユム。バグダッド電池の太陽光パネルと風車を設置するための土台作りだ。難しい仕事ではない。これまでも何度もやって来た事だ。だが…

「急がないと…」

あの分厚い雲はもうすぐ雨を降らす。それまでに土台を作り終えて、廃墟から体の良いジャンクを拾って来ないと…


屋根から南西を見ると、そこには市街地の廃墟。そしてその真ん中を南北に分断するかの様に、東北新幹線の高架が見えた。


     ※     ※     ※


福島県から更に南下を続け、栃木県に入り、旧宇都宮市にたどり着いた渡会アユムと相川カオリは、復興村の村民からの歓迎を受けた後、腕試しとばかりにインターネットの無線通信機を動力源のバグダッド電池ごと修復して村の中心に設置してみせると、早速何軒かのお宅から仕事の依頼があった。そのうちの一軒で早速仕事にとりかかっているのだ。一間だけ崩れずに残った一戸建て。さっき見た、崩れたブロック塀には、『池田』と書かれた表札がかかっていた。SWDの後、ここに親子3人で住んでいるらしい。


「あのー…いかがでしたか!?」


屋根から降りてきたアユムに、彼の死んだ母親くらいの中年女性が声をかけてきた。この家の仕事の依頼者だ。さっき出掛けて行った中年男性が、彼女の夫らしい。


「問題ないですよ。作業は雨が止んでからになりますが、これから機材を探してきます。」


アユムがそう答えると、表の通りを数人の男性が向こうからやって来た。大声で機嫌良さそうに話しながら、通りを遮る様に横一列に並んで、うちの一人は一杯にジャガイモを詰めた大きな袋を抱えている。


「…ここは東北より南だから食べ物がよく採れるみたいですね…」

アユムがそう言うと池田さんは、

「あの人達だけなのよ…」

と言った。


「あの人達だけ!?」

家の前を通り過ぎ、向こうで子供に怒鳴りつけている男達を見て、アユムは問うた。

「ええ。あの人達はこの村の自警団で…」

それから池田さんは声を潜め、

「…元はこの村を襲う野盗だったの。」


野盗…そう言われてダイダの狂暴な顔が脳裏に浮かぶ。…忘れよう。あいつはもういない。


「それが2ヶ月程前のある日、村へやって来て一斉に土下座して言ったの。『これまで乱暴して済まなかった。これからはみんなのために戦うから、どうかこの村に置いて欲しい』って…」


どこかで聞いたような話だ。しかもアユム自身が深く関わった…


「私達は彼らを受け入れる事にしたわ。もう野盗に脅かされるのはたくさんだったし、あの人達も食うに困ってひもじい思いをしてたみたいだし…あの人達はそのままこの村の自警団になって、付近の他の野盗を追い払ってくれたの…」


「それで…いくら自警団だからって、どうして元野盗が、あんなに大きな顔をしてるんですか!?」


すると池田さんは少し困った様な顔をして、


「しょうがないのよ。あの人達が、村を守ってくれてるんだし…」


     ※     ※     ※


数分後…


村の通りを、片手に持ったスマートフォンを操作しながら歩くアユム。長野にいるはずのエイジにテレビ会議の招待メールを送る…画面にエイジの顔が映った。


「お久しぶりです、最上さん。」

「やあ、アユム君。」


『最上エイジ隊』の隊長であるエイジは、宇宙人の攻撃によって壊滅した日本に平和と秩序をもたらすために、部下共々もアレッツに乗って、野盗と戦いながら各地を旅していた。アユムにもアレッツを手放す様に迫って来たが、色々あって今は頼りになる大人だ。宇都宮東部の復興村のインターネット無線通信機を修理した試験運転に、エイジとのテレビ会議を選んだ。


これから村を離れて徒歩で街の廃墟へと向かう。どこまで電波が飛ぶかテストだ。


「そうか…私達が去った後の郡山で、そんな事が…いや、もう『アイスバーグ』か…」


「今でもあれで良かったのかと思ってます…レオ達はどこか別の場所に住んでもらうか、アレッツを手放させた方が良かったのかとも…」

アユムは野盗だったレオ達に、自警団として村に居場所を作った。でもそのせいで、レオ達に命がけの終わらない戦いを強い、村人達からも過去の狼藉を理由に後ろ指を指される危険性があった。本当にあれで良かったのか分からない。


「完璧な正解の無い問題に、迷い悩みながら自分にとっての答えを出して実践するのが大人という物だ。君の選択を尊重するよ。」


「そう…ですか。」


「それに…私達が回ってきた数々の村でも、似たような事は起きてたよ。野盗が改心して、アレッツで村人を他の守る自警団を結成する者が続出していた。」


「…そう言えば、ここ宇都宮でも、似たような事を聞きました。」


たかが高校生のアユムがでしゃばるまでも無かったのだ。ただ他人から奪うだけの野盗より、生産活動をしている村人の方が生活が安定するし、野盗だって多くはほんの1年前まで、真面目に暮らしていた善良な一般市民だった。悪党暮らしに限界を感じた野盗が足を洗うのも、村に受け入れてもらうために、盗みのために乗っていたアレッツを、今度は他の野盗から村を守るために使うのも、世の中の自然な流れだった。


世界はこれから、もう一度ゆっくり秩序を取り戻すのだろう。


「あと…『生きたおもちゃ』とも、また会ったのか…」


「はい…あいつはアレッツを完璧に修理して、しかも強化改造してました。おまけにアレッツには『全知』なる機能まで持ってて、それで自分の元クラスメートの現住所や、ダイダの本名、プロフィールまで言い当ててました。あいつに下手に接触すると、恨みを買って僕の関係者が殺される危険性があります。」


もう村は後ろに小さくなり、辺りには崩れたビルが散見される様になった。


「それは厄介だな…だが、まだそうなっていないんだろう…!?と、言うことは…」


「ええ…あいつは僕の事なんか、障害だとも思っていない…」

ギリ…アユムは奥歯を噛んだ。


「モヤモヤするんですよね…あいつの事を考えると…僕とあいつは似たような存在だったみたいなのに、あいつは…ひたすら死を撒き散らして…」


「悪魔になったのは彼の意思だよ。君はそうならなかった。それが大事なんだ…」


「あと…あいつは何もかも言い当てたのに、ただ一つ、僕が北海道から転校した理由だけは間違えたんです。そこに何か『全知』の秘密があるのかも…」


「いずれにせよ、彼にこれ以上関わるのは止め…」


エイジの声が途切れた。そう言えばさっきから画面の顔が動かなくなっていた。通信が不安定になっていたのだ。


「すみません。もう無線の範囲外みたいです。」


「ああ…また話そう。」


ピッ…テレビ会議、終了。アユムは今にも泣き出しそうな天を仰ぎ、想いを馳せる。


(あの時…三つ巴の戦いの末、ダイダにアレッツを奪われた時…僕はあいつと目と目で分かり会い、ダイダに向かって突進して行った。なのに…)


すっきり晴れない…


いや、気持ちを切り替えよう。


アユムはブリスターバッグからリアカーを取り出す。目の前のジャンクの山から、使えそうな機器を探さなきゃならない。


しばらくジャンクを漁ると雨が降り出したので、戦利品をブリスターバッグに収めて雨宿りした。濡れてでも村へ帰ろうか、このまま止むまでやりすごそうか、考えていると、ィ ィ ィ ィ ィ…雨音に混じって、村の方からアレッツの駆動音が近づいて来た。何体かのアレッツが、こっちへやって来る。角型(キューブ)レア、色はアユム機と似ているがアユム機より黒に近いミッドナイトブルーだ。


「自警団ってやつのアレッツか!?」


アユムが彼らの向かう先を見ると、はるか西の新幹線の高架に、何体かのアレッツが現れ、こちら側へ降りてきた。こっちは丸型(スフィア)レアで色はシアン。ドガガガガっ!!ドガガガガっ!!どちらからともなく銃撃戦を始める。しかし、あれは…


一機が撃った銃弾が付近の廃屋の壁に穴を開けると、そこには1人子供が膝を抱えてうずくまっていた。ずいぶん小さい…小学生くらいだろうか…しかし、数機のアレッツ達は、子供に構わずに戦い続ける。


「…あの子に当たったらどうするんだ!!」


雨の中飛び出すアユム。ブリスターバッグから自機を起動させ、廃屋の中の子供を守るように立ちはだかる。銃弾はアユム機の装甲に傷一つ着けることなく弾かれた。


「え………!?」


うずくまってた子供は、自分が助けられた事に驚いて、目を丸くしていた。


三つ巴の戦いから更に修理強化したアユム機『ノー・クラウド・クレセント』SSR。セミキューブ動作追随性重視型。これまでとの最大の違いは、腰部の飛行ユニットに増加ジェネレータ、背中に増設したランドセルには増加コンバータを積み、これまで以上に出力をアップさせた事だ。そして、右手の「アンブレラ・ウェポン」は、閉じた傘の様な円錐形に、8本の細長い銃身を束ねた、多銃身回転連射式…ガトリングガンだ。


「何やってるんですかあなた達は!!危ないじゃないですか!!子供がいるんですよ!!」

アユムは叫ぶ。


「何だてめぇは!!」「ごちゃごちゃうるせぇぞ!!」ミッドナイトブルーとシアンのアレッツ達が凄む。


アユムは自機をしゃがませると、「乗って!」と言い、子供を空いている後部座席に乗せた。


「雨がじゃまだな…」


アユム機はアンブレラ・ウェポン(ガトリング)を上へ向けると、ダダダダダっ!!と連射する。射出された無数の光弾は、雨雲に吸い込まれ、その辺りから雲に丸い穴が空き、瞬時に大きくなり、分厚い雨雲の向こうの青い空が一面に広がり、日の光が蒼いアレッツを照らす様に差し込んだ。


「今だ!!」

アユムはシートの右側に着けられたレバーを起こして、ボタンを押しながらグイと前へスライドさせる。



「インビジブル・コラージ!!」



その瞬間、アユム機は消えた。


「な…何!?」「どこへ行った!?」


それまで敵味方に分かれて戦っていた青いアレッツ達は、一斉にキョロキョロと辺りを見渡す。が、どこにも見えない。少し離れた物陰に、消えたと同じ唐突さでアユム機は現れる。が、気づいた者は誰もいない。


コクピットの後部座席で子供は呆然とし、

「そんな…こんな事って………」


「今、見た事は、誰にも言わないでね…」

アユムは言った。次の瞬間、


上空に散布されたアンブレラ・ウェポン(ガトリング)の光弾を構成していた粒子を核に、雨雲の水分が集まって水滴となり、


ザ っ!! ゲリラ豪雨並みの勢いでアレッツ達の頭上へと降って来た!!


「うわっ!!」「何だ!?」


最早戦ってる場合じゃなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ