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14-6 白河の関を越える

アユム機は、先に、銃撃で、『六本腕の天使』の背面の腕を撃破、ただこの時点でアユム機も左肩に一撃食らい、肩アーマーが弾け飛んだ。


次に接近して、カオリが操作する右腕で『天使』の斬撃を受け流しつつ左腕を2本、アユムが操作する左腕で残った右腕を1本斬り、内部ケーブルが露出する。ここでアユム機も右膝をやられる。


そして着地の瞬間に右腕で肩口を深く斬りつける!!「ぐああぁぁ!!」


が、損傷したアユム機の右膝はバチッと火花を発して崩折れる。その時、ケーブル1本で繋がっていた『六本腕の天使』の右腕が、吹っ飛びながら一瞬、アユム機の後ろ下方でアユム機の方を向く。悲鳴を上げながら『生きたおもちゃ』もそれを見逃さなかった。光弾を射出!!「左っ!!」カオリの叫びにアユムは自機の体を交わす。腹のパイプを1本折られる。もう少し遅かったらコクピットをやられていた…


両機は倒れ、それぞれのコクピットからアユムとカオリ、そして『生きたおもちゃ』が出てくる。


「相討ち、だな。」「ああ…」


アユムは自機をブリスターバッグに収納し、『生きたおもちゃ』は『六本腕の天使』をフィギュア大に戻す。その時、


「グェハ、グェハ、グェーーーッハッハッハ!!」ドンゲンドンゲン…


ダイダ機が3人目掛けて駆けて来た。アレッツより一回り小さい、腹が4本のパイプだけで構成され、背中にコクピットが着いている、『プロトアレッツ』だ。アレッツより弱いがこっちは生身だ。あんな物に轢かれてはたまらない。


「くそっ!!」「カオリさん、危ない!!」

『生きたおもちゃ』はギリギリ体を交わし、アユムはカオリを庇い、ブリスターバッグとフィギュアを落としてしまう。それを、プロトアレッツを乗り捨てたダイダが拾う。


「グェフフフフフ…強ぇアレッツは、奪っちまえばいいんだぁぁぁ…」

ものすごく嫌な笑顔をしたダイダが『天使』のフィギュアに頬擦りすると、『生きたおもちゃ』に怖気が走った。


「でかくなるるぇ、アレッツ!!」

ダイダはフィギュアを掲げる。が、何も起きない。


「…そいつは俺の物だ。他の誰にも動かせない…」

『生きたおもちゃ』が言った。


「なるるぁ、こっちだぁ!!」

今度はアユム機のブリスターバッグを掲げる。が、やはり何も起きない。


「くそっ!!こいつもかよ!!」

ダイダはフィギュアとブリスターバッグを地面に投げ捨て、


「だったるるぁ……こうだぁぁ…!!」

懐から取り出したのは、ライターと…ガソリンの入ったポリタンク!!バクダッド電池全盛のこの時代のどこに残っていたのか…!?


「お、おい…」「やめろ…」いじめられていた頃の、恐怖、無力感がよみがえったかの様な二人。


「グェフフフフフ…やっぱり、ロボットのおもちゃは、燃やさねぇとなぁぁぁぁ~~~!!」


ゆっくりとポリタンクの蓋を開けようとするダイダ…アユムと『生きたおもちゃ』は、目と目が合う…意志疎通は一瞬だった。


「ダイダぁぁぁぁぁっ!!」「うおおおおぉぉぉっ!!」


2人はダイダ目掛けて突進する!「グァ!?」さしものダイダも2人分のタックルと、これまでの不摂生とここ数日の不調で、よろけ、手に持ってた物を落としてしまう。2人はそれぞれ拾った。アユムは自分のブリスターバッグを、『生きたおもちゃ』は………ポリタンクとライターを!!


バシャッ!!尻もちついたダイダに、液体がかけられる。その揮発臭と寒気に身を縮めるダイダに、ポッ、と、ライターの火が近付けられる。火の向こうには、『生きたおもちゃ』のニタァと歪んだ笑顔。


ポイ…火のついたライターが投げ落とされ、


ボッ!! ダイダは火だるまになる!!


「グェアァァァァァっ!!グェア!!グェア~~~っ!!」


生きたまま丸焼けにされる家畜の様な悲鳴を上げて、ダイダはもんどり打つ。その際付近の廃屋に触れ、あっという間に廃墟全体に延焼する。


「グェアァァァァァっ!!」ゴロゴロゴロゴロ…いくら転がってもダイダに着いた火は消えず、そのまま近くを流れていた川にドブン!と落ちた。しばらくブクブクと泡が上がったが、やがてそれも上がらなくなった。


「何故…!?」アユムは抗議する様に言ったが、


「ご挨拶だねぇ、渡会アユム。君が出来ない事を代わりにしてあげたんだよ。」

言いながら『生きたおもちゃ』は『天使』のフィギュアを拾い上げた。


「なんか白けちゃったから、今日はここまでにしよう。」


バタン!! 燃える柱が倒れ、2人の間を阻む。


「じゃあね。」行こうとする『生きたおもちゃ』に、アユムは「待て!!」と止める。


「お前…どうしてダイダの本名を知ってた!?半々グレだった事も、出身地の事も…」


もはや燃え盛る炎であいつの表情が見えない。


「『全知』の能力。俺はそう呼んでる。俺の機体に備わってる能力(ちから)だ。」


「ぜんち………」アユムはその言葉を反芻した。


「じゃあ今度はこっちから質問するよ、渡会アユム。さっきの戦いで、『インビジブル・コラージ』、だっけ!?あの必殺技を使わなかったのは何故だい!?」


あの動画を見た時から、あの必殺技は自分を倒すために編み出された物だと思っていた。なのに…


「…あんなの使わなくても勝てると思ったからさ。」


「………そうかい…俺の思い上がりか…」

去って行こうとする『生きたおもちゃ』は、ふと足を止め、



「…『インビジブル・コラージ』は、『打ち歩詰め』。」



「………っ!!」図星を突かれたアユム。

「待てっ…待てよ、お前…」

火の向こうの『生きたおもちゃ』を追おうとする。


「お前、こんな事続けて何になるって言うんだよ!!自分と過去に関わった人たちを皆殺しにして、その後に何が残るって言うんだよ!!」

「アユム、危ない!!」カオリが後を追う。


「いじめ、いじめられの悪縁に、誰よりも囚われてるのは、お前………」


炎の向こうには、もう、誰もいなかった。あいつが去ったであろう方向を、しばし見つめていたアユムは、ボソッと言った。


「カオリさん…僕、初めてあいつに会った時から疑問だったんです。どうやってあいつは、かつての自分のクラスメート達の現住所を調べたんだろうって…」


「あいつが言ってた、『全知』の能力のせいだったのね。」


「ええ…これから先、あいつとの関わり方を慎重にしなければいけません。もし、あいつが、僕達が旅をしている理由に興味を持ったら、ルリさんや、カオリさんのお母さん、仙台のユウタ達を殺される危険性があります…」


「私達は、私達の旅を続けましょう…」


アユムはブリスターバッグから2台のスクーターを出し、2人はそれに乗って、南下する旅路を急いだ。目の前に見える山々を越えれば、いよいよ関東である。


第三部 南東北編 完


     ※     ※     ※


一方、『生きたおもちゃ』は、


(『インビジブル・コラージ』は、『打ち歩詰め』。まだ完全に分かった訳じゃ無いが、手の打ちようはありそうだ…)


彼もまた、彼の旅を続ける。血と炭と灰で舗装された、復讐の旅を…


     ※     ※     ※


数日後、とある復興村へたどり着いた『生きたおもちゃ』。付近を歩く2人連れに、「村長はいるか!?」と訊ねたところ、2人は小声でヒソヒソ話すと、「少しお待ち下さい」と言い残し、逃げるように村の中へと入っていった。


しばらくして、壮年の男性がやって来た。彼が村長だろう。彼は『生きたおもちゃ』に言う。「何か…ご用でしょうか!?」と…


「…俺の名前と、ここへ来た理由は分かっているはずだ。」『生きたおもちゃ』は言った。


「存じております。ですが、あなたがお探しの者は、この村にはおりませんよ。」


「ああ、それも知っている。幼稚園での同級生は、ここへ来る途中で行き倒れていた。」


「でしたら、うちの村にはご用は無いはずです。どうかお引き取り下さい…」


「…この村でもう何箇所目だと思っている…!?あいつは俺の復讐相手だというだけで、住んでた村を追われ、移り住んだ村もその事がバレると追い出され…」

『生きたおもちゃ』の言葉には沸々と怒りがこもってきた


「ですから、私達は知りません。」


「…この村に来た時点で、既にあいつは疲労困憊のボロボロだったはずだ。それをお前らは、追い返したんだな…」


「ですから!私達は関係ありません!!」


「…いじめの傍観者は、みんなそう言うんだ!!疎かにした時間の報いを受けろ!!」


叫び、『六本腕の天使』を呼び出し、復興村は灰になった。


「………安心しな。あいつを追い出した村は、みんな焼いてやった…」


『生きたおもちゃ』は、腰から下げたクラス名簿から、行き倒れていたあいつの名前を探して、赤ペンで消した。


ああ、この世には、報いを与えなければならない奴が多すぎる…

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