14-4 他人の褌で 相撲を取る
何でこんな事になったんだろう、と、アユムは思った。旧福島県南部の復興村に来たはずなのに、そこは廃墟になっていて、ダイダと『生きたおもちゃ』が、アレッツ戦を行う事になった。
巻き込まれては大変と、アユムとカオリも自身のアレッツ『ノー・クラウド・クレセント』を呼び出し、コクピットに入った。
『生きたおもちゃ』の機体、『六本腕の天使』の姿はこの間と変わっていない。アユム達が郡山にいた間に直してしまった様だ。ろくなマテリアルを持っていないだろうというアユムの推測は外れてしまった。対するダイダ機は、汎用型のレアリティR、パーティクルキャノンにシールド、ブレードと、バランスの取れた機体構成だ。
「グェフフフフフ…いくぜぇぇぇぇ~~~っ!!」
ダイダ機は右手のパーティクルキャノンを構え…タタン…タタン……タタタン…と、『六本腕の天使』の周りに散射する。
「……ん!?」
機体内の光る空間の中で、『生きたおもちゃ』はダイダの意図を酌みかねていた。
「ねえ、アユム…あれ、ロックオンしてるの…!?」アユム機のコクピットでカオリが言った。
「してないでしょうね…それに、連射モードなのにトリガーをカチカチやってるんだと思います。」だからあんな風に何発かずつ射出される。
「くそっ!!」
ダイダ機は使えないパーティクルキャノンを投げ捨て、
「うおおおぉぉ~~~っ!!」
ブレードを腰に差したまま、握りしめた拳をグルグル回してドンゲンドンゲンと駆けていく。
「…何なのお前…」
『六本腕の天使』は右腕の一本を無造作に前に突き出すと、先端から光弾を射出、ダイダ機の胸を貫いた。
「グェア!?」コクピットからダイダが這い出て来ると、ダイダ機は糸が切れた操り人形の様に膝から崩れ落ちる。悲鳴を上げて逃げて行くダイダ。『生きたおもちゃ』は呆然と、
「本当に何がしたかったんだろう…ところで渡会アユム、アレッツに乗ってるって事は、次は君が俺と戦うって事でいいよね!?」
『天使』の腕をアユム機に向ける。
「アレッツ戦の最中に生身を曝せって言うの!?」
「そうよ!あんたなんかとは関わりたくもないわよ!!」
と、そこへ…
「てめぇ…よくもやるるぃやがったなぁぁぁ…」
真っ黒に両腕だけが赤いアレッツがまたもや現れた。乗っているのはもちろんダイダである。
「ダイダ…どうして2機もアレッツを持ってるんだ!?」
アユムの問いにダイダは、
「グェーーーッハッハッハ!!近くの野盗からギッてやったのよぉ!!」
そう言えば、奥羽山脈の峠でも、そういう事を言ってたっけ。
今度の機体はロングバレルのパーティクルキャノンを持った狙撃型。なのにダイダ機は、「うおおぉぉ…」と叫びながら、パーティクルキャノンをブンブン振り回して突進して来る。
タァァァン! 『六本腕の天使』の光弾の一撃で右腕を吹っ飛ばされるダイダ機。
『生きたおもちゃ』は光る空間の中で、
「思い出した。あの動画の中で、渡会アユムのアレッツにやられてたの、こいつだわ。」
正確にはあの時と機体は違うが、悪趣味なカラーリングは同じだ。
「グェ……」コクピットの中でダイダが呻いた。今度はアユムが、
「あのさダイダ、その機体もさっきの機体も、他人の物…自分でビルドした物じゃないの!?」
どうもこいつさっきから、自機への理解が浅すぎる…と言うより無さすぎる。パーティクルキャノンの基本的な使い方を知らなかったり、ブレードを装備しているのにマニピュレーターで殴ろうとしたり、狙撃機で接近戦を挑もうとしたり…どれも自分で作った機体なら起きないミスだ。
「うるるっせぇ渡会!!このウジ虫野郎が!!」コクピットの中でダイダがわめく。『生きたおもちゃ』は呆れて、
「ひどいな渡会アユム。君、ウジ虫なんて言われてたの!?」
「こいつからはさんざんひどい事をされ続けて来たけど、ウジ虫呼ばわりは初めてだ。」
「まあ多分、こいつは自分の乗る機体の事を全く理解していないな。」
「それにしても…こいつ、北海道にいた時は人の嫌がる所を的確につついてくる狡猾さを持ってたけど、内地に入ってからただ狂暴なだけのバカになった様な気がする…」
「弱い者いじめの輩なんて、こんなもんじゃないの!?」
『生きたおもちゃ』と、アユムとカオリの言葉は辛辣だった。
「うるるっせぇクソ渡会!!ウジ虫みてぇに俺の体を這い上がって来んじゃねぇ!!」
タァァァン!! 余程腹に据えかねたのか、アユムは無言でダイダ機の胸を撃ち抜いた。『生きたおもちゃ』は冷めた声で、
「これでようやく邪魔者は消えたね、渡会アユム。」




