14-3 思い知らせた 背中の痛み
「お前ら…早く離れろっ!!」
アユムのその言葉に、ダイダと、『生きたおもちゃ』は、各々の手を離した。ダイダは『生きたおもちゃ』の胸ぐらを掴もうとした手を、『生きたおもちゃ』は、腰から下げた『六本腕の天使』に伸ばした手を…そして、
「ぐええええぇぇぇっ!?渡会!?この、虫ケラがああああっ!!」
ダイダは嫌がってる様にも喜んでる様にも聞こえる声を張り上げ、
「やあ、渡会アユム。久しぶり…という気がしないね。あの動画見たよ。」
『生きたおもちゃ』はすまし顔で言った。
「ダイダ…それにお前も…何でこんな所に2人でいるんだ!?」
「『ダイダ』………!?」『生きたおもちゃ』は、アユムがそう呼んだ巨漢を頭のてっぺんから足の先までじろじろ見回し、その無遠慮な視線にダイダは「グェ…」と不機嫌そうな声を上げる。アユムは『生きたおもちゃ』が、フィギュア大の『六本腕の天使』を何やらいじってるのに気づいた。そして『生きたおもちゃ』は、
「ふうん………結構、優しげな本名なんだね…」
と言うと、アユムは息をのみ、ダイダは憤怒と羞恥の赤と、驚愕の青が入り混じった顔色になった。『生きたおもちゃ』は続ける。
「半々グレとして北海道警…旭川方面からマークされてるね…最終学歴は中卒…クラス名簿に渡会アユムの名前もあるね。君ら同郷だったのか…3年の2学期に停学!?中学を停学って、何をやったんだい!?…『渡会アユムへのいじめによる』…何をやった!?何を…何を……」最後の声は氷点下まで冷えきっていた。それに相反して、ダイダは上機嫌で言った。
「グラスウールって知ってるかぁぁぁぁぁ~~~~~!?理科の実験で使う奴。あるるぇを渡会の背中に入れて、バンバン叩いてやって、ワンワン泣かせてやったのよぉぉぉぉぉ~~~~~!!」
嫌な記憶をほじくり出されてアユムは額を押さえ、『生きたおもちゃ』は、「背中…」と呟いた。そんな事したら、グラスウールが砕けて細かい針になり、背中に激痛が走るだろう。ダイダはますます調子に乗って、
「あん時は楽しかったなああああ、またやりてぇなああああ。グェーーーッハッハッハ!!」
獣の鳴き声の様な笑い声を上げる。そして『生きたおもちゃ』は、
「背中………背中だな。」
前触れもなく腰から下げたフィギュア大のそれを掲げると、それは彼の隣で、全高約10mの、何本も腕を持った天使の様な姿になり、1本の腕を振りかざすと、ダイダの頭越し、奴の背中に振り下ろした。
ザ ク ッ!!
「………」「………っ!!」
一瞬の、いきなりの出来事に、アユムとカオリは言葉も出なかった。先から光剣の出ていない、ただの腕の一撃、しかもかすめただけ。だが、
ダイダの背中はぱっくりと裂け、血がどくどくとにじみ出て、
「グエアァァァァァ~~~っ!!」
聞いたことは無いが、屠殺される獣の断末魔の様な悲鳴を上げた。
「てめぇ何しやがる…あ、アレッツ乗りだったのか…」
届かない背中を両手で押さえようとするダイダに、『生きたおもちゃ』は早口で、
「そう言えば自己紹介がまだだったねぇ俺の名前は『生きたおもちゃ』幼稚園から高校までずっとこう呼ばれてまさにその呼び名通りの扱いを受けていじめられ続けてこんな世の中になってアレッツを手に入れたから歴代のクラスメートを全員探して殺して報いを与えてやるためにこの名前を名乗って旅をしてるんだこれでもう分かったよね俺が何でお前にあんな事したかまずは背中さあ次は命をもらうよ。」
『生きたおもちゃ』の口調が段々昂って行く中、ダイダは背中の痛みを興奮で消した。
「………つまり、お前は誰かのおもちゃって事は、俺のおもちゃでもあるって事だなぁぁぁぁぁっ!!」
ダイダはブリスターバッグを掲げ、全身真っ黒で腕だけ血の赤色のアレッツを呼び出す。コクピットの中、ダイダの背中の痛みはこれから始まるお楽しみの悦びで消えた。
「いじめたるるぁぁぁぁぁ~~~~~っ!!」
「やってみろよおおおおおっ!!」
『生きたおもちゃ』も、『六本腕の天使』に乗り込んだ。
…えー、その頃、アユムとカオリは、
「…やっぱりろくでもない事になった…」
「あたし達、完全に蚊帳の外よね…」
「僕、主人公のはずなのに…」




