14-2 最キョウと最キョウと、最キョウ
村人が灰になったら、『生きたおもちゃ』は村中を漁り、食料やまだ使えそうな品を物色する。これまでもずっとそうして来たが、村人を殺す時の火加減を誤ると建物に引火して食料等が燃えるから加減が難しい。
集めた食料の中から生でも食べれそうなものをかじると、足元の黒焦げ死体が恨めしそうな顔で見てる気がした。文句があるなら昔の自分に言いな。
食事をしながら、今回報いを与えてやったさっきの女の名前をクラス名簿の中から探し、赤ペンでピッ、と消す。これで完了だ。
「ふう………」
聞こえて来るのは川のせせらぎだけ。誰もいないのが一番落ち着く…『生きたおもちゃ』は心の拠り所である、『ウォーク・ストレンジャーの手記』を口ずさんだ。
「いじめとは、人が4人集まれば成立する。即ち被害者と加害者と扇動者と傍観者である。」
川のせせらぎにかき消されて、もう一つある村の入口から、誰かがやって来るのに気づかなかった。ヨロヨロと覚束ない足取りの、むさ苦しい巨漢である。
「眠い…腹へった…」
『生きたおもちゃ』は、そいつの接近に気づかない。
「いじめとは、人が3人集まれば成立する。即ち、被害者である少数派の1人と加害者である多数派の2人である。」
「ここは…どこだ…!?」巨漢も『生きたおもちゃ』に気付かず、ヨロヨロと歩いて来る。
「いじめとは、人が2つ集まれば成立する。即ち、攻撃される弱者と攻撃する強者である。」
「俺は、なんでこんなとこに…!?」ヨロ…ヨロ……
「従って、いじめ、弱者攻撃の無い世の中を作るには……」
「………帰りてぇ………」ヨロ…ヨロ……
そして2人…『生きたおもちゃ』とダイダは、復興村跡の広場で、鉢合わせた。
「……」「………」
お互いの出現に戸惑う事しばし、最初に行動を起こしたのは、ダイダの方だった。
「………お前ぇ、なんでこんな所に1人でいんだ!?」
「………(何だ、この男は…!?)」
「…まあいいや。食い物持ってるるなるるぁ全部寄越しやがるるぇ…」
「………(怖い…そして…)」
何を言っても何も言わない『生きたおもちゃ』に、ダイダの怒りが頂点に達するのは一瞬だった。
「何とか言えよ、お前ぇ~~~!!」
ダイダは『生きたおもちゃ』の胸ぐらを掴もうとする。同時に『生きたおもちゃ』も、
(ああ、こいつは…俺をいじめてた連中の同類だな…)
腰から下げてた『六本腕の天使』を起動させようとする。その時、
「お…お前ら…」「な…何でこんな所に…!?」
男女の声がした。村の入口には、いつの間に来たのか、さっきの声の主…渡会アユムと、相川カオリが立っていた。ダイダも『生きたおもちゃ』も、互いの対処に頭が一杯だったのと、スクーターの駆動音が川のせせらぎにかき消されたため、ここまで接近されるまで気づかなかったのだ。
一方のアユムは、ダイダが『生きたおもちゃ』の胸ぐらを掴もうとする目の前の光景に、叫んだ。
「お前ら…早く離れろっ!!」
この時アユムは、その言葉をどっちに対して言ったのか、自分でも分からなかった。
彼が知る中で、世界最キョウのいじめっ子と、世界最キョウのいじめられっ子。どっちが『最凶』でどっちが『最狂』かはともかく、
そんな2人が出会ってしまえば、どんなろくでもない事が起きるか分かった物じゃないからだ。
第14話 三つ巴




