14ー1 大罪の街 天罰の村
北海道某所、アユムの故郷の街…
元アユムやダイダの担任だった女教師や、阿部をはじめとする元クラスメート達が、小さなスマートフォンを覗き込む。映っているのは、『ウォッチャー』が公開したアユムvsダイダのアレッツ戦の動画だ。
蒼い機体が消え、黒い機体がバラバラになり、またアユムが現れる。
「これ…渡会だよな…!?」「黒いのはダイダみたいだけど…」「あの渡会が、ヒーロー扱いだぞ…」
画面の中のアユム機の左右カメラアイの色が違う顔がアップになり……そこで動画は固まり、中央にグルグル回る円が現れる。
「何だよ、こんなところで…」「くそっ、またか!!」「やっぱり壊すんじゃ無かったな…」
アユムが撒いた「DHMO」の意味が分かった後、ひとしきりアユムに悪態をついた元クラスメート達は、嫌味ったらしくあいつが残して行ったバグダッド電池つきのインターネット無線中継機を壊してしまった。が、後になってやっぱりあった方がいいということになり、直してみたのだが、元のように順調には動かず、頻繁にフリーズする。
「それにしても、これたぶん内地だろう!?宇宙人が滅茶苦茶にしていった世界で、何でここまで届くんだ!?」
「…直して回った奴がいたんだろう。北海道からあそこまで、ずっと。だからここまで、電波に乗ってケーブルを伝って飛んできた。」
「渡会…あいつ機械いじりが好きな変わった奴だったが…そんなにすげえ奴だったのか…」
今更気づいたところで当のアユムは遥か南の空の下である。すると女教師が言った。
「これがいじめをやってはいけない理由の一つなのよ。いじめられた人間が、いじめを乗り越えて社会に有益な人物に成長しても、彼をいじめた共同体は、その恩恵を受けられない…」
(あんたがそれを言うなよ…)阿部は思った。アユムへのいじめの首謀者はダイダだが、元クラスメート全員がグラスウール事件に緩やかに関わった共犯者だし、いじめを一番止めるべきだった女教師は見て見ぬふりをしてしまった。
「くそっ!!こんなんだったらあいつの両足へし折って、くたばるまでこき使ってやるんだった…」
元クラスメートの乱暴な言い種に、阿部は、
「いい加減にしろ…俺達がそんなだから、渡会はここを出ていったんじゃねえか!!」
「阿部くん…」
女教師は声を低くして、
「…それ以上言ったら、あなたや瀬田さんがこの街に居づらくなるわよ。」
「………すみません。」
阿部は引き下がらざるを得なかった。ああ、ここはもうだめだ。アユムもダイダもいなくなったのに、この街はまだ、いじめの相手を求めている…
※ ※ ※
旧福島県某所…
山間にも関わらず、広く深い川が側を流れている以外、これと言った特徴の無い復興村…
その中央広場には、いくつかの奇妙な人型があった。
一番目立つそれは、全高10mくらい。頭のてっぺんが丸くつぶれ、翼のように大きくせり出した肩からは左右何本もの腕が生え、両足は尻尾の様に細く、1本にそろえられて地面からは浮いている。色は骨のような白。『六本腕の天使』と呼ばれる謎の機体だ。村人達が恐れと嫌悪と、そして諦観の混じった目で見つめる中、平然と立つ、髪を伸び放題に伸ばした男、『生きたおもちゃ』。
「…もう一度言うよ…そいつは俺が中学生の時のクラスメートで、俺をいじめてた張本人だ。だから報いを受けさせた。」
そう言って『生きたおもちゃ』は、目の前の人の形をした炭を指差す。
「それで、だ。この村にはもう一人、俺の元クラスメートがいる。そいつにも報いを受けさせるから、連れて来て欲しい。言っとくけど、耳障りな悲鳴なんか上げないで欲しい。でないと、そいつみたいになるし…」
と、1体目の人型の炭の隣のもう1体の人型の炭を指差し、
「…それから、無駄な抵抗も面倒だからしないで欲しい。でないとそいつらみたいになるから…」
と、今度は隣に転がるアレッツの残骸を指差す。
これが、村人達の諦めの理由だった。こいつを止める手立ては、自分達には無い。自分達が生きるも死ぬも、こいつの胸先三寸だという事が…
「嫌あああああああああ~~~~~~ッ!!」
1人の女性が男に引っ張られて連れて来られる。
「やめて、やめてあなた、お願いよぉぉぉぉぉ~~~!!あ"あ"ッ!!」
男は無言で張り倒した。女と男の関係は察しの通り。女の腹は丸く膨らんでいた。その父親も察しの通り。お腹の子供は、この村の住人にとって、復興の希望の光だった。つい、さっきまでは…
男に張り倒されて女は『生きたおもちゃ』の足元に転がり出る。女は『生きたおもちゃ』の足元にすがり付き、
「お、お願い、この子は…この子だけは産ませて!この子が産まれたら私は命を差し出します。だから、この子…この子だけは…」
『生きたおもちゃ』は女を冷ややかな目で見下ろし、蹴飛ばすと、
「…いじめっ子の子供はまたいじめっ子になるし、いじめられる側になるかもしれないだろう。」
ボ ッ ! 『六本腕の天使』の腕のパーティクルキャノンが射出され、女は炭になった。
「これでまた1人…いや、2人かな…!?」
『生きたおもちゃ』はクラス名簿から彼女の名前を探す。それを見ていたさっきの男は、
「な…なあ、あんた…これでもう、この村に用はないだろう!?」
だが『生きたおもちゃ』は男をさらに冷ややかな目で睨み、
「10年前、俺もああやってクラスの連中から生け贄にされたものさ…」
ヒュンヒュンヒュン!! 『六本腕の天使』の4本の腕から、パーティクルキャノンが乱射され、村人も村もことごとく焼き尽くして行った。
「…ったく…、人でなしのくせに人のふりをするんじゃないよ…」
もし、この村の住人達がアユムの故郷の街の事を知ったら、彼らの方がまだましだと思ったろうし、アユムの故郷の街の住人達がこの村の事を知ったら、自分達はまだましだったと思ったろう。
いじめの報復に、火で焼かれるより、水を撒かれる方がましに決まっている。




