13-12 超新星消滅
日が沈みかける中、ホワイトドワーフを撃破した翌日、村人達とパンサーズとの間で長い話し合いが行われ、
パンサーズは氷山レオをリーダーとした郡山復興村の自警団となった。
強大なホワイトドワーフと懸命に戦う彼らの姿に感銘を受けたのだろうか。村人達は、パンサーズを受け入れる事、特に、彼らがこれからもアレッツに乗り続ける事について、一切異論を挟まなかった。そして、最後にホワイトドワーフと戦ったパンサーズの構成員の中からも、追加の脱退希望者が出た。残った者達の目は、命の炎が燃え尽きるまで戦う決意に満ちていたし、彼らを追い出して代わりに自警団に入ろうと言う者も、一人もいなかった。余程あのホワイトドワーフ戦が、パンサーズと村人達にとって、衝撃的な事件だったのだろう。
氷山村長は、責任を取って村長を辞任した。どのみち彼は忙しすぎたのだ。これまで副村長を勤めていた男が繰り上げで村長になった。ずっと村長の仕事を見てきた彼なら、卒なくこなすだろう。氷山氏は農場の経営は続ける事になり、自警団も平時は農場を手伝う事になった。一緒の時間が増えるのだから、レオとも話をする機会も増えるだろう。
犬飼は、おやっさんに弟子入りした。物作りが好きそうなのでエンジニアにも興味があったらしい。ただ、非常勤で自警団のメカニックも続ける事になった。おやっさんは彼を『俺の最後の弟子になるだろう』と言っていたが、犬飼の様に堅気に戻りたい者は大勢いたので、最後の弟子を取るのはもう少し先になるだろう。
そして村は、新たな体制となったのを期に、混乱の中、皆を導いた偉大なる初代村長の名を取って、『アイスバーグ(Icebrug:氷山)』と改名した。
※ ※ ※
「うーーーん…」
犬飼は目の前に並んだ14枚の麻雀牌を見渡し、
「通れっ!!」
その内の1枚を羅紗が張られた卓上にタァーーンと出す。
「「「ローーーン!!」」」
一緒に雀卓を囲んだおじさんAからCが、自分の前の牌を一斉に倒す。
「ぎゃあああああ!!」
犬飼は叫んで頭を抱える。
「兄ちゃん、弱すぎるぜぇ!そんなんでどうやってカジノ作って稼ぐつもりだったんだあ!?」
「ま、これに懲りたら二度と賭け事なんかに手を出すなよ!!」
「おやっさんの修行は厳しかろうが、立派なエンジニアになれよ!!」
「はい…ありがとうございます。」
これではどっちが元アウトローか分からない。
向こうでは篭を背負ったおかみさんが、「これでようやく山に野草やキノコを採りに行けるわ。」と言っていた。なんかここ、村の外より中にヤバい人が多かった気がする。
※ ※ ※
「やったのは本来カジノのギャンブルの対象にならない一人用ゲーム、しかも勝っても賭けをうやむやにして逃げるつもりだった…」
「はい…だから、カオリさんが思ってる様な事じゃ無いんです。」
アユムはカオリに、色々ありすぎて棚上げになってたギャンブル疑惑の言い訳に懸命だった。
「ま、確かにあの時のあんたは変だったからね…」どうせ最後はあたしが乱入する事まで計画の内だったのだろう。そんな役をさせたのが、ちょっと腹立つ。
「…まあいいわ。これ以上あんたと気まずいのも嫌だし…」
「僕も…ここでカオリさんに居なくなられたら困ります。」
「…何であんたが困るのよ…!?」
「…か、カオリさんのお母さんを探さなきゃならないでしょ!?」
アユムの台詞の前に一瞬の間があった。おまけにそれはアユムではなくカオリの側の事情だ。
「…ま、そうよね。」
「おい、アユム…邪魔だったか!?」
そこにレオがやって来た。
「ち…ちょうど終わった所です。」
何故アユムもカオリも赤くなってるんだろうか。
「ふん…てめえ俺にさんざんこっ恥ずかしい事言わせやがったな!!ブッ倒してやるから勝負しろ!!」
凄むレオだったが、
「と、言いてえ所だが、『パンサーズ』も『アイスバーグ自警団』も私闘は厳禁なんだ。ましてやお前は村を救った恩人。団長自らが禁を破る訳にゃいけねえ。」
「レオさん…」
彼は妙にサバサバした口調で、
「しょうがねえから勝負はお預けにしといてやる!!」
じゃあな。後ろを向いて去り際にレオは、
「…ありがとうよ。俺達に赦しの機会を与えてくれて…」
※ ※ ※
一方、村から離れた場所から一部始終を眺めていたソラは、
「たくましいワネ…どれだけ奪わレ、壊さレ、踏みにじらレ、汚されテモ、立ち上がリ、手を取り合っテ、作り直シ、どこまでも歩んでイク…」
それからソラは遥か天を仰ぎ、
「アナタ達は、いつまで己がしでかした事に目を背けてるのカシラ!?」
※ ※ ※
「修理屋さん、元気でな!!」
「今までありがとうな!!」
ここは郡山復興村改めて『アイスバーグ』の南の出口。旅立つアユムとカオリのスクーターを見送りに、村じゅうの人達が集まっている。そしてアユムは、あれだけ忙しい日々の中、ちゃんとスクーターを直してたらしい。
「ま、お前から教わった事を、己の復習がてら、若いのに教えてみるわ。」
「首都圏からの帰りにまたここを通るんだろう!?絶対寄れよ!!もっといい村にしてやるぜ!!」
おやっさんとレオが言った。
「はい!皆さんもどうかお元気で!!」
来た時とは比べ物にならない元気を取り戻したアユム。
「カオリちゃん、これ…」
おかみさんがカオリに、1枚のメモを渡す。数種類の野草やキノコのイラストと、群生地の特徴が細かく描かれており、これらを指定の量、水と混ぜ合わせて、出来るのは…見なかった事にしよう。
南へと走って行く2台のスクーターを、一堂は見えなくなるまで見送った。ようやく並んで立てる様になったレオと氷山氏は、
「変な奴だったぜ…突然現れて、星降る夜の後の問題も、その前からの問題も、全部解決して去って行きやがった…」
「『スーパーノヴァ』…本当に超新星みたいな子だったね。」
真昼の空にも明るく輝き、超新星は消えた。またどこかの空で、新たな星となり夜道を照らすため…
※ ※ ※
アユムと並んで走るカオリのスクーター。胸のポケットに入れたおかみさんのメモが、受けた風に吹かれて宙へと舞い、遥か後方、一人旅立とうとするソラの足元に引っ掛かる。ソラはそれをつまんで内容を読み、ニヤリと笑った。




