13-11 野盗の末路
「『パンサーズ』の皆さんですけど…アレッツ乗りとして、村に置いていただけませんか!?」
どのくらい沈黙が続いただろうか…
「「「何を言ってるんだお前(君、あんた、貴様、てめえ)は!!!」」」
村人、パンサーズ全員の大合唱であった。
「平和なこの村に、アレッツ乗りなんかいらん!!」
誰かの叫びに、アユムは言った。
「平和、なんかじゃなかったですよね!?豊かなこの村は、パンサーズをはじめとする野盗から狙われていました。『パンサーズ』が解散しても、村を襲う相手が他の野盗に変わるだけです。」
「ま、まさか…」
おやっさんはアユムの言いたい事が読めた。
「『パンサーズ』の残党には、アレッツの自警団として、この村を守っていただきましょう。」
「や…やっぱり…」娯楽室にいたおじさんAが呆れ声で言った。
「今の世の中、平和も平穏もただでは手に入りません。誰かが戦って、平和を脅かす者を排除しないと。この僕が、アレッツを駆って北海道から旅をして来た様に…自警団として命をかける事で、元パンサーズにも村に居場所が出来ますし。」
すると村人の一人が手を上げて言った。
「元犯罪者に犯罪の取り締まりをさせるのはいいアイディアだと思うよ。…その元犯罪者が、100%信用出来るなら…」
「私達は村に受け入れるのにも難色を示してるんだからねえ…」
「彼等は地元出身でこの村にも関係者がいる上、リーダーの氷山レオ氏は村長の息子です。他の野盗と比べてギリギリ信用出来るんじゃ無いでしょうか!?」
「あいつらまた、村人に危害を加えるかも…」
「自警団なんかにしたら増長し出すかも…」
「修理屋さん、あんたがずっとこの村に居て戦ってくれる訳にはいかんのか!?」
「僕は元々、南へ向かう旅の途中です。それに、あの動画で有名になりすぎましたからね。ここに居ては却って皆さんに迷惑がかかります。」
「そんな…あんた無責任じゃないか!?」
「問題解決したら後は知りませんなんて…」
「いや、そもそもこの問題は、この村の者が解決しなきゃならなかったんだ。勝手を言ってるのは私達の方だ。」
「何だよお前、あのガキの肩を持つのかよ!?」
村人達が言い争う中、レオがむくっ、と立ち上がると、
「アユム、俺達の事を考えてくれた事には感謝するが、俺が親父の立場だったとしても、俺達をアレッツから引き離すぜ。」
「そうだ。自警団を作るとしても、アレッツに乗るのは元から村にいた誰かにしないと…」
難しい問題なのは分かっていた。反対意見が多発するのも…だが…
「この村には即戦力が必要なんです。パンサーズにはそれを期待してるんです。何故なら…この村を脅かす危機は、野盗だけじゃ無いからなんです。ソラさん!」
ここでアユムは、村人達とのやり取りを遠巻きに傍観していたソラに声をかける。
「あの時の記録は、残ってますか!?」
アユムの意図を瞬時に察したソラだったが、ちらと山の方を見ると、
「ええ、あるワヨ。だけど…モノホンが来たみたいヨ。」
「え…!?」
ソラに促されて見上げると、山の頂上には四つ脚の巨大な影!!『パンサーズ』が運用している様な獣型アレッツに似ているが、頭部と、そして腹部のコクピットブロックが無かった。
「あああ…」「あ、あれは…」
パンサーズも村人達も驚愕の声を上げた。アユムが続けて言った。
「最悪のタイミングで出てしまいましたが…あれこそが、この村にアレッツ自警団が必要な最大の理由です。」
首無しの獣は、首の生えてた所を麓のこの村に向けると、尻尾の先のパーティクルキャノンを村へと向けた。
「『ホワイトドワーフ』…アレッツと似て非なる、アレッツを超えた存在です。見ての通り人が乗っていないので、野盗と違って説得も懐柔も出来ません。」
それにしても…ここはホワイトドワーフまで獣型なのか…
「あ、あ、あ…」
レオが、ガタガタと震えていた。今までの彼を思えば柄にもない。
ウ ィ ィ ィ ィ… ホワイトドワーフの尻尾に光が集まる。
「く…クソぉぉぉぉぉ!!!」
レオは吼えると、ブリスターバッグから自機を出し、山頂の獣型ホワイトドワーフへと駆け寄った。
獣型アレッツは首の下、胸元にサブカメラがあって、首無し獣型ホワイトドワーフもそのサブカメラで周囲の状況を認識しているらしい。サブカメラでレオ機が接近して来るのを見留めると、ホワイトドワーフは立てていた尾を何故かだらりと下ろし、後ろ脚の間に挟んだ。この村を襲撃しろと言う最後の命令とレオ機への畏怖との板挟みで硬直する隙を突いて、レオ機が急旋回して首無しホワイトドワーフの右側面に回り込み、右前脚に噛みつく!
「お前ら…お前らもやれ!!」
ホワイトドワーフに噛みついたままのレオ機が叫んだ。
「こいつを撃破しろ!!こいつは首が無いから前以外が死角だ!!みんなで横や後ろから攻撃しろ!!」
未だ驚愕から覚めやらぬ一同だったが、
「お、お前ら行くぞ!!」
大神が自機を取り出すと、パンサーズ達は次々とアレッツを取り出し、ホワイトドワーフへと向かって行った。
「もうすぐ日が沈むぞ!!なるべく空を見るな!!」「日が沈む前に片付けるぞ!!」「閃光弾焚け!!俺達だけ夜目が効かないのは不利だ!!」「根津の弔いだ!!」パンサーズ達が口々に叫んだ。
虎や、狼型のアレッツが、ホワイトドワーフへと群がって行く。村人達も壮絶な戦いを見守った。中には拝むように両手を合わせる者さえいた。
ホワイトドワーフは、何故かパンサーズの機体に一切反撃して来なかった。獣型アレッツに噛み付かれて苦しそうにさえ見えた。バキっ!!大きな音を立ててホワイトドワーフの右前脚が根本から折れると、ホワイトドワーフのサブカメラが苦痛を訴えるかの様に金色に光った。




