13ー7 豹は死んだ
さて…
呑気にワイワイ騒いでいたアユム達とは裏腹に、『パンサーズ』のアジトは、ひっくり返る様な大騒ぎだった。
「な…何だこりゃあ!!」
彼らの下にも届いた動画を観て、レオは仰天していた。動画に踊った字幕の数々。『超新星現る』『豹は死んだ』…これじゃあ、『パンサーズ』の機体が、あの蒼いのの妙な技でやられたみたいじゃねえか!!あの黒いのは他所から流れてきた奴で、うちとは無関係だ!!他のメンバーも、この動画を観て大騒ぎしている。
※ ※ ※
『パンサーズ』アジト、通信室…
「待てよお前ら!!俺達と戦争しようってのか!?」
犬飼はパソコンの前で叫んだ。彼の後ろには大神が立って、モニターに睨みを効かせている。モニターはいくつものウィンドウに分割されていて、そのいずれにも、明らかに堅気には見えない、むさ苦しい男達の顔が写っていた。そいつらは口々に言った。
『悪ぃがお前らとの友好関係も今日までだ。』
『お前ら動画を見なかったのかよぉ!』
『パンサーズ・アー・デッド!!ってなぁ!ひゃっはっは!!』
『あの村は俺達で根こそぎしゃぶり尽くしてやるから安心しな!!』
『それにあの蒼いのを倒せたら、俺達が同業に一目置かれるぜぇ!』
『行きがけの駄賃にお前らの所にも挨拶に行ってやるぜぇ!じゃあな!!!』
「待てよお前ら!!待てよ、待………」
犬飼は叫んだが、ウィンドウは次々と閉じられていった…
※ ※ ※
数十分後…
『パンサーズ』アジトの端の人目につきにくい場所に1箇所、フェンスが破れた所があった。あたりをキョロキョロ見渡しながら、そこをくぐって外へ出ようとする犬飼…
「待ちなサイよ!」
ソラの声が飛び、ビクっと震える犬飼。
「きゃ…客人…うわ!!」
ソラに首根っこを掴まれ、来た道を戻される犬飼。あっという間にレオや大神をはじめとする、パンサーズのメンバーが待つ中へ放り出された。レオに睨まれた犬飼は、
「れ…レオ君…ち、違うんだ、これは…」
しかしレオは冷静な顔で、
「犬飼…お前が逃げ出すって事は、ここはいよいよお終いって事か!?」
犬飼はためらいながらも、深く首を縦にふる。重い沈黙が、一同の間を横切る。
「ジャ、ワタシ抜けるワネ。バイビー!!」
ソラがおどけてそう言って、手を降ってその場を出ていこうとした。
「待てよどこ行くんだ!!」
「実はワタシもコッソリ逃げようとシテ、犬飼クンを見つけたノ。盗賊ごっこはオシマイヨ。」
ごっこと言われて腹を立て、レオは「てめぇ!!」と叫んで、ソラの胸ぐらを掴もうとするが、逆に掴み返され、ソラは低い声で、
「これはモラトリアム…分かってたんデショ!?」
その言葉にレオは力なくへたり込む。
「アト…落合は多分、『ウォッチャー』ヨ…」
例の動画の最後に字幕が出ていた。”by Watcher”と…
「バカな!『パンサーズ』結成にはあいつも…」
「怪しむべきだったノヨ。あんた達ミタイなチンピラに、アレッツビルドサイトにも出てナイ獣型のレシピを提供した人物、アイツがいなくなった後ニ、アノ動画が拡散サレタ…」
俺達は全員、あいつに踊らされてたのか…
「これハ餞別ヨ。」
そう言ってソラは似合わないサングラスを外してレオに渡す。フレームに隠しカメラと小型マイクが付いていた。そう言えばこいつ、あの蒼いのと知り合いみたいだった。クソっ!!こいつも俺を…
見渡すとこれまで数々の荒事に手を染めてきた百戦錬磨の構成員どもはみんな、不安そうな、心細げな顔をしている。
もう、こいつらを束ねるのは不可能だ…
「おい、待てよ客人…」
再び、リーダーの顔に戻ったレオが、ソラにサングラスを投げつけると、
「こんな物はいらねえ!餞別代わりと言うなら、一っ働きしてもらおうか!!」




