13ー5 おやっさんの 卒業試験
同日、午後、おやっさんの工場…
「………」
アユムが描いた車椅子の設計図を、厳しい目で凝視するおやっさん。
「………」
それを、神妙な面持ちで見守るアユム。
おやっさんは厳しいままの視線を設計図からアユムに向けると、
「…まあ、こんなもんだろう。ただし、今後も研鑽と工夫を続ける様に。」
渡会のじいさんは、立派な跡継ぎを遺した様だ。こいつの幼い横顔に、幾度となく往時の師匠の面影を見た。
「ありがとうございます!!…で、次は…」
「お…おう…」
おやっさんへの卒業制作として、自分の家のバグダッド電池を、廃墟での資材選びから修理、設営まで全部やってもらった。
「風車…よし。太陽光パネル…よし。室外機…よし。屋内配線…合格です。」
おやっさんは鼻を親指でこすり、
「おう!へへ…俺もまだまだ捨てたもんじゃねえな…」
元々エンジニアとして経験豊富な人だ。SWDで何もかも失った心の傷で、俯いてただけだ。
「僕がいなくなった後の、この村のバグダッド電池の世話をお願いします。」
アユムがそう言うと、おやっさんは少し寂しそうな顔になり、
「お前…やっぱり行っちまうのか…」
「ええ…ここで頼まれてた修理も全部終わりましたしね。パンサーズの事を解決出来なかったのは申し訳ありませんが…」
「村長に追放食らったんだってな…すまんな。妙な事押し付けたばっかりに…」
「じゃあ、せめて壮行会をしないとね…」
キッチンの方からおかみさんの声がした。その隣りでカオリが、むすっとした表情で、おかみさんの洗い物を手伝っている。
おやっさんはアユムに向き直り、
「ところでお前…どうした、そのほっぺたは。向こうでむくれてるカオリちゃんと関係あるのか!?」
※ ※ ※
ダイダ撃退後…
アレッツを降りてブリスターバッグに収納し、外で待ってたカオリの元へ行くと、
パ シ ン!!
いきなりカオリはアユムの頬をひっぱたいた。
「カオリ…さん!?」
呆然となるアユム。カオリは涙ぐんだ目で叫んだ。
「あんた…言ったよね!?無茶な事はするなって!!
全く…なんて事すんのよ!!!」
※ ※ ※
再び現在、おやっさんの工場…
「…それでカオリちゃんと気まずくなって、相談できずに独断で村長に交渉に行って決裂、追放食らった事を話したら余計にヘソ曲げ出して、しかもこの間娯楽室で賭け事してた事も尾を引いて、冷戦状態、か…」
アユムの頬には、あの時カオリに叩かれた手形が残っていた。面会した村長にも指摘された、あれだ。
「とりあえず、相手が許してくれるまで謝っとけ。俺が言えた事じゃねえが、それが夫婦関係、男女関係を長続きさせる秘訣だ。」
「………僕とカオリさんとは、そんなんじゃありませんから…」
アユムは伏し目がちに言った。
「じゃ…じゃあ一体、どんな関係だ!?北海道からずっと一緒に旅をして来たって…」
「僕はSWD前に、クラスの女の子に告白されたんです。今は関東の方にいるその子にもう一度会って告白の返事をするために旅をしてて、カオリさんはそれを手伝ってくれてるんです。」
おやっさんは額を押さえ、
「ちょ…ちょっと待て…お前、車椅子はこれから出産を控えた妊婦のために作ってるって言ってたよな。それの女は誰だ!?」
「高校のクラスメートです。同じ高校で出来た親友の幼馴染で、彼女のお腹の子の父親は、その親友です。」
しばしの沈黙の末、おやっさんは、
「アユム、お前………大丈夫なのか!?」
※ ※ ※
同時刻、キッチン…
洗い物をしながらおかみさんは、むくれたままのカオリに、
「男の子なんだから、必要な時に冒険が出来たほうが甲斐性があるわよね。でも、それが過ぎれば、隣りにいる女は不安よねえ…」
「………あたしとあいつは、そんなんじゃありませんから…」
「あの子は誠実な子よ。賭け事にしたって、一時の迷いか、何か理由があるんでしょうから…」
「………」
カオリはむすっとしたままだ。
「………」
おかみさんはカオリにコップを差し出し、カオリはそれを受け取ると、おかみさんは酒瓶の中の液体を注ぎ、自然な動作でカオリがコップに口をつけ…
「カオリさん!!大変です!!」
突然、アユムがキッチン乱入してきた。
「わっ!!あ、アユム!!どうしたの!?おやっさんと話をしてたんじゃないの!?」
カオリは持っていたコップをシンク脇に置き、おかみさんは「ちっ…」と舌打ちをする。
「見て下さい!!こんな物が配信されてたんですよ!!」
アユムはブリスターバッグに接続されたタブレットを出す。




