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13ー2 馬の尿する 枕元

その日は、二人が修理したスクーターの試運転をしたり、キーホルダーを作ってもらった名工の事を呑気に思い出したりしていた頃から、西の空に黒い雲が集まっており、心配していたら案の定、夕方からその雲の一端がこの郡山復興村の上空にも差し掛かり、まとまった雨が降って来た。


おやっさんの工場の窓から、夜空を眺めるアユム。


今夜は星が見えない。


だが、見えないだけで、星はきっとそこにある。


目指す先は定まっている。アユムは首から下げたラピスラズリのお守り袋を握りしめる。僕が目指すは告白への返事という、僕にとっては過ぎた挑戦。この旅も、戦いも、パンサーズの問題も、全て乗り越えてやる…


     ※     ※     ※


星が見えないだけで、いつでもそこにある。

それが祝福ではなく、呪いになる男がここにいた…


福島県某所、廃墟となった街…


そこには、奇妙な家があった。


ザーザー降りの真夜中だというのに、その廃屋からは煌々と明かりが漏れていた。


廃屋の周りには、数人の野盗によって取り囲まれていた。


この時代の多くの日本人は、SWDのトラウマで星空の下を出歩けない。だから、雨夜というのは、野盗にとって絶好の稼ぎ時となるのだ。星も、自身が立てる物音も、雨が隠してくれるから…


そんな彼らが今夜の標的に選んだのが、この廃屋である。明かりがついているということは、誰かがいる。そいつを身ぐるみはいでやろう…


野盗達は玄関から、勝手口から、窓から一斉に入っていく。まずはここの家主を殺さなければ。しかし、バカな奴…こんなに明かりを灯していたら、自分たちみたいな野盗の標的にされるのに。そして…


こんなに明かりを灯していたら、眠れる訳が無いのに…


いた。


床じゅう壁じゅうに、懐中電灯やらろうそくやらを灯し、果ては床材をはがして燃やし、家の中に焚き火を作ってまで、眩しいくらいの中で、身体を横たえる人物…かなり大柄の、男だ…明らかに堅気ではないその風貌から、この廃屋の元からの住人ではないだろう。寝苦しいのか唸り声を上げている。明かりのつけすぎだっつうの…


よし、やれ…


野盗の首領が、男を取り囲む手下に合図を送る…


     ※     ※     ※


まぶた越しに見えていた眩しい明かりが少しだけ弱まり、男の意識が少しだけ、眠りに沈んだその時、


真っ暗闇の中、何かが見えた。


蒼いロボット…アレッツが立っている。


渡会アユムというくそいまいましい野郎が乗る機体だ。


そいつが両手に持った傘みてえな武器を振るう。


ヒュン! 武器の軌跡が光の線を描く。


まるで、あの夜見た、流れ星みてえに…


ヒュンヒュンヒュンヒュン!!!続けざまに蒼いアレッツは武器を振るい、その軌跡が幾筋も幾筋も重なる。


まるで、あの夜見た、流れ星の雨みてえに…


そして、その蒼いアレッツは言う。


「夜になったら空を見ろ!星はいつでもそこにあるぞ!!季節ごと、時間ごとに違う星がな!!!」


やがて、光の筋は火球となり、男の頭上めがけていくつもいくつも降って来た。


「星はいつでも、お前の頭上に降ってくるぞ!季節ごと、時間ごとに違う星が、お前を潰しに!!お前を燃やしに!!!」


男はたまらず、悲鳴を上げた。


「グェアアアアアアアア〜〜〜っ!!!」


     ※     ※     ※


ガシっ!「ぐぉ!?」


眠っていると思っていた男の右手が不意に動き、野盗の頭を鷲掴みにし、


ガン! 床に叩きつけられ、頭蓋骨を割られた野盗は悲鳴も上げられずに絶命する。


眠っていた男はゆっくりと上半身をもたげ、


「明かるるぃを、消すなぁぁぁぁぁ〜〜〜…っ!!」


充血し、深いくまの出来た目を開ける。


「星が、降って来ちまうだるるぉう〜〜〜…っ!!」


男は、ゆっくりと立ち上がる。どうやらさっき、男を取り囲んだ野盗の一人が、周囲の照明を遮ってしまった様だ。


「や…やれっ!!」「「「おう!!」」」


野盗が一斉にかかってくるが、


ドカっ!バキっ!ゲシっ!!!


男は、何人もいた野盗を、一人残らず殺してしまった。その最中、床の焚き火を踏み散らかして飛び火し、廃屋に引火する。


雨が降りしきる中にも関わらず、廃屋はあっという間に炎上し、そこからさいぜんの男が、フラフラ、ヨロヨロと出てきた。


「今夜も、眠れなかったじゃねぇか………」


ダイダ…


奥羽山脈の峠でアユムと戦い、敗北したトラウマで、星空への恐怖心を人一倍こじらせてしまい、暗い所では眠れなくなってしまったのだ。かと言って、明かりを照らした場所では眠れる訳がなく、精神的疲労から運良く意識を手放せても、アユム機にやられた時の悪夢を見て目覚めてしまう夜を繰り返し、


不眠と不摂生な暮らしは彼の肉体も精神も蝕んでいたが、持って産まれた強靭な肉体のせいで、未だ素手で何人もの人を殺せる膂力を有していた…


雨に打たれ、燃え盛る廃屋を眺めるダイダ。わずかな所持品も、おるるぇを襲った野盗どもも、その持ち物も、全部燃えちまった。だがこれだけは盗ってやったぞ。ブリスターバッグ。アレッツ。暴力の道具。誰かを殴り、何かを壊し、誰かを泣かせてる時だけが、この意識混濁(モヤモヤ)と疲労を忘れられる。


「また…食い物と、寝床を、探さねぇとな…」


と、つぶやくと、疲れた心身を引きずって、いずこかへ歩み去った…

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