13ー1 歩兵
アユムは、ずっと疑問に思っていた事があった。
果たして僕は、強くなりたいのだろうか、と…
1年前、宇宙人の砲撃でめちゃくちゃにされた世界、墜落した宇宙船から発掘された人型ロボット兵器『アレッツ』が、野盗たちによって弱者から物品を強奪する手段として用いられている世界で、
今までずっといじめられ、他人から蔑まれてきた自分の事を好きだと言ってくれた少女と再会し、告白の返事をするために、
アレッツに乗って旅をしてきた。
だが、アユムは思うのだ。
この危険な世界を旅したい。その道連れとなってくれたカオリさんを守りたい。そのためにアレッツでの戦いも厭わない。だが、
僕は、本当に強くなりたいのだろうか、と…
例えば、今、アレッツビルドアプリの画面に出ている、閉じた傘の様な武器…尖った円錐形とも、8本の細い砲身を束ねた物とも見える、『アンブレラ・ウェポン(ガトリング)』。僕のアレッツがこれを、両腕に装備する頃、『6本腕の天使』は、腕を12本に増やしているんだろうな、と…
そして、強いと言えば、ダイダ…あれも、強い。
だが、あいつみたいになるのは、こっちから願い下げだ。
強さは、追い求めるときりがない。そして、強い奴とは、僕が弱い事を理由にいじめていた奴らの事だ。
だから、
僕が目指すのは、強い弱いとは別次元の、目の前の障害を、問答無用に、確実に排除できる何かだ。
※ ※ ※
1時間後…
ウィィィィィ…
郡山復興村のまわりを、アユムのスクーターが走る。
軽く村を一周し、走り始めた村の入り口に近づき、ブレーキを握りしめ、停車させ、キーを回す。スクーターの動力は止まった。
この村に来たときは調子が悪かったので、村の仕事の合間をみて修理したけど…快調だな。
「アユムーーーっ!!」
後ろからカオリさんが自分のスクーターで走って来て、停車した。
「カオリさん、スクーターの調子はどうですか!?」
「何とも無いに決まってるでしょ!?…元々何とも無かったんだから…」
『生きたおもちゃ』との事で錯乱したアユムが、自身のスクーターを直そうとして、カオリのスクーターを分解してしまったのだ。しかしそれも組み直した。
ふと、アユムはスクーターに刺さったキーを抜いてみる。キーホルダーに、カオリとおそろいの将棋の駒が着いている。カオリのは、『香車』、アユムのは、『歩兵』…
アユムは思った。将棋のルールの中には、二歩、打ち歩詰め、行き所の無い駒は打てない等、歩の使い方にまつわる物が多い。それはとりも直さず、取った駒を自分の駒として使える将棋のルールの中で、この歩という駒が、いかに使い勝手が良いかを示す物だ。
だから…
僕が目指す境地は、この手の中に握られている、小さな駒のそれだと…
そこに至る道程は、あの不思議な夢の中で見えた。そして道程を舗装するモジュールも、一つ一つ作っていき、ついに全部、揃った。
そろそろ、旅立つ時かもしれない。そのためにも、
『パンサーズ』を、何とかする。
これは、そのための力でもある。
第13話 見えない勇気
※ ※ ※
「あ、あのさ、アユム…」
カオリさんが、香車のキーホルダーのついた鍵を手に持って、言った。
「前から気になってたんだけど、このキーホルダー、下の方に、何か、ものすごい達筆で、名前が彫ってあるのよね…」
「普通は王将に入れる物だそうですけど、歩や香に入れるのは珍しいですよね。」
二人のキーホルダーは、平泉に来る前に出会った、天童の駒師だったという男性に、アユムの仕事の報酬代わりに作ってもらった物だ。
その名前をスマートフォンのインターネットブラウザで検索してみると…最高級の駒を作り、様々なタイトル戦で使われた駒を作った駒師の名前がヒットした!
どうやらアユム達はとんでもない雲上人に、キーホルダーを作らせてしまったらしい…
「は…早くあの人が、駒師として仕事が出来る世の中が戻ってくるといいね。はは…」
「アユム…ごまかすんじゃないの…」
もし無事にこの旅を終えられたら、とりあえずこの駒は家宝にしよう…




