12ー9 兵藤レオ
いつか見た夢の再現だった。いや、この状況が想定されたから、あんな夢を見たのか…もっとも、生きた巨大キメラとロボットのライオンの違いはあるが…
「う あ あ あ あ あっ!!」
「う お お お お おっ!!」
アユム機はブレードモードのアンブレラウェポンで斬りかかり、レオ機はたてがみの装甲で防ぎつつ、前脚の爪と口のパーティクルパイルバンカーで応戦した。
「あなたは、村長の息子さんなんですね。」
アユムはパーソナル通信でレオに話しかけた。
「俺に親なんていねえ!!」
「あ、あなたの姓は母親の物だそうじゃないですか!!」
「てめえ誰から聞いた!?家庭の事情って奴に口を突っ込むな!!」
「今からでもやり直せます!!お父さんとちゃんと話し合って…」
「やり直すって…どっからだ!?
根津がやられた時からか!?
野盗の親玉になった時からか!?
宇宙人が攻めてきた時からか!?
おふくろが死んだ時か!?」
「レオ…さん…」
「ここまで俺達がこの村にどんな事をして来たと思ってる!?分かんねぇのか!?
もう、手遅れなんだよおおおおお!!」
アユム機はレオ機に押し倒され、レオ機の口からパーティクル・パイルバンカーの光が漏れる。
「僕だって…昔は俯いていた…」
押し倒された蒼いアレッツのコクピットでアユムは思い出していた。プラモを燃やされ、クラス総出で背中にグラスウールを突っ込まれた日々を…
「でも…いろんな人に助けられ、いろんな人に出会って、僕は…」
アユムは首から下げたラピスラズリのお守り袋を握りしめる。
「海を渡って、働いて、直して、戦って、ここまでやって来たんだ!!」
「アユム…」アユムの操縦席の後ろで、カオリが切なげに呟いた。
「だから…あなただって、やり直せます!!」
そんなアユムの台詞に、アユム機を見下ろしたレオは、
「強えんだな、お前は…」
レオのその言葉に、アユムの脳裏に一瞬、ダイダの顔が浮かぶ
「違う…」
アユムの声が低くなり、リアシートのカオリもその異変に戸惑う。
「僕は…強くない…」
アユム機の右腕に力が入り、
「僕は…
弱いんだぁぁぁぁぁ!!!」
レオ機をひっくり返し、
「虐げられし者の恨み、思い知れっ!!」
ザ ク っ! レオ機の左前脚を斬り落とす!!
「ぐおおおおおっ!!」
コクピットで苦悶の声をあげるレオ。
「コクピットから出て下さい!!その機体は潰します!!」
「はいそこまで。」
今度は空から声がする。そこにいたのは紫の魚型アレッツ、ソラ機。
「悪いケド、まだワタシはこの野盗団にいたいノヨ。レオチャン、コレ!!」
ソラ機は追加ブースターを切り離すと、追加ブースターはアユム機をかすめて飛び、3本足で起き上がったレオ機の背中に装着される。
「レオ君!!こっちは救出完了です!!」
村外れで犬飼がいつの間にか、村に捕らわれていたパンサーズのメンバーを救出していた。
「よし、引き上げるぞお前ら!!蒼いの!!お前次は絶対に倒す!!」
捨て台詞を残したレオ機は空を飛びながら、ソラ機とともに去って行った。
※ ※ ※
この戦い以降、村の空気が微妙に変わった様な気がした。
浮ついた、それでいて緊張した様な…
パンサーズを次々と倒し、レオ機と互角に戦える、正体不明の蒼いアレッツが現れ、
一時とはいえ、野盗を捕虜に出来たのだ。
それはとりも直さず、自分たちが野盗に怯える暮らしの終わりを意味していた。
と、同時に、
野盗がいなくなった後の事を、
野盗だった者たちをどう扱えばいいかを、
それぞれが考えなければならない事を意味していた…
そして…
「渡会アユム君、君が蒼いアレッツのパイロットだったんだね。」
村長に呼び出され、そう言われて、アユムとカオリはようやく気づいた。昨日から村人たちがどうにもよそよそしかった理由、おやっさんが言ってた、『噂』の内容に…
2人は村人たちが見ている前で、蒼いアレッツを呼び出したり乗り降りしてしまった。
正体不明…でも、何でも無かった…
「この村を守ってくれてありがとうね。おやっさんとも互いに教えあってる事が終わったら、また、旅立つんだろうけど、それまでに出来れば、パンサーズは全滅させて行ってもらうと助かるね。」
じゃ、下がっていいよ。村長は最後に言った。
「レオさんは…パンサーズのヘッドは、あなたの息子さんなんでしょう…!?」
「アユムっ!!」
アユムがボソっと言い、カオリがそれをたしなめた。
「…それがどうしたね!?」
村長の声が一段低くなった。
「確かに私はあの男の父親だ。だがそれ以前に、私はこの村の村長で、農場の管理もしている。あの男とその手下どものせいで、この村がどれだけ迷惑を被ってるか分からないのかね!?
そして、私はあの男の父親だ。なら、子の不始末は親が始末をつけるべきだ。私には戦う力が無くて、あのライオンの鼻っ面を殴る訳にも行かないから、君にお願いしてるのだがね…」
「………僕は、中学まで、クラス中からいじめられていました。」
「いきなり何の話だね!?」
「僕の父は、僕をいじめから救うために、これまでの生活を捨てて、引っ越してくれました…」
「ご立派なお父様だねぇ…だが、私はそこまで立派な父親じゃないよ。」
「その父も、母と一緒に一年前に亡くなりました。」
「ご愁傷様。だが、今ならありふれた話だ。」
「でも、あなたもレオさんもまだ生きています。」
「親子がいがみ合うのも、こんな世の中になる前からありふれてる。」
「レオさんの父親は、あなただけなんですよ!!」
「父親にもなっていない君に、何が分かる!!」
「………」アユムは、次の言葉が出なかった。
「もういいかね!?下がりたまえ。私も村の恩人にあらぬ罪を着せて追放なぞしたくない。」
失礼します…カオリが代わりにそう言い、アユムの頭を無理やり下げさせ、村長室を出ていった。
バタン…ドアの音がして、村長室の前の廊下を歩み去る二人。不満そうなアユムに、カオリは、
「…さすがにあれは言い過ぎよ。」
ま、あたしも止めなかったけど…
一方、一人、部屋に取り残された村長。脳裏に浮かぶは数年前の病室。顔に布がかけられた最愛の女性の側で、幼い息子が、泣き腫らしたすごい形相でこちらを睨む。
『今更、何しに来やがった…!!』
その声に、村長はよろけ、病室のドアを出ていこうとする。その背後に浴びせられた罵声…
『逃げんのかよ!!』
再び、村長室の氷山氏…
「その通りだ…私は、また、逃げてるんだ…」
※ ※ ※
同時刻、『パンサーズ』アジト…
バキっ!!「ぐぇっ!!」バキっ!!「ぐぉ!!」
村に捕虜にされていたメンバーと、最後に勝手に交渉に行った犬飼が、レオに殴られる。
「いいかてめえら…もう二度とあんな勝手な真似をすんな!!」
「「「は…はい!!」」」
わらわらと散っていく一同。入れ違いにソラがレオに近づく。
「大目に見てあげなさいナ…あの子達もこの群れヲ思って、良かれとおもっテした事デショ…ま、方法はともあれネ…」
レオは飄々としたソラを睨み、
「客人が余計な事を言うな!!ここの事は全部俺が決める!!」
だがソラは肩をすくめ、
「色々背負い込みすぎなのヨ…」
「てめえ!!」
レオはソラの胸ぐらを掴もうとするが、ソラに振り払われ、ドン!軽く押されただけなのに、レオはよろけ、へたり込む。
「やっぱりネ…立派なガタイだから分かりにくいケド、アナタ、栄養失調ネ。」
ソラはレオに右手を差し出す。
「最後にまともナ食事ヲしたのはイツ!?あんた、自分の分の食料も部下ニ分けてルんデショウ!?部下達もそれヲ知ってるカラ、どんなにひもじくてもアナタについていってるし、群れのためを思っテ色々勝手な事モしてるんデショウケド…」
ぱしっ!レオはソラが差し出した手を振り払い、自分の部屋へと去って行った。
自室でレオは、ソファに座り込み、頭を抱える。
いくら奪っても足りない食料、失敗した畑作り、突然現れた村の用心棒、この野盗団を取り巻く敵たち、戻らない根津、黙したままの落合、あの星が降ってきた夜、自分を頼って、集った手下たち…
全てが、限界だ…
「だからって…どうすりゃよかったんだよ、親父ぃ!!」




