12ー7 モンテカルロ必勝法
1人目、おじさんC…
カードをよく切って、縦横5枚、合計25枚並べる。
「お…ラッキー!」
1列目3枚目と4枚目が6、2列目3枚目と3列目4枚目が8、4列目2枚目と5列目2枚目がクイーン。
「これで3組6枚…へへへ…ついてるな…」
おじさんCが6枚のカードを取り除き、左上へと詰めていく。
「おお!またもラッキー!もうこの時点で1組並んでるぜ!!」
3列目3枚目と4列目4枚目がジャックだ。それからおじさんCは空いた場所にカードを並べていく。
「おおおまたまたついてる〜〜〜!!」
新たに並べた5列目3枚目と、4列目2枚目がエース。これでまた、2組4枚。合計5組10枚だ。
だが…おじさんCは本当はついていない。最初に並べた時点で、2列目2枚目と4枚目が2だった。間の8が取り除かれ、本来横に並ぶはずだったが、1列目3枚目と4枚目の6も取り除いたので、2枚の2は、1列目5番目と、2列目1番目に分かれてしまったのだ。そして…
「………あ。」
おじさんCは事態に気づいた。さっきの2回目で、2列目までのカードが動いていない。そして、空いた場所を詰めた時点でもう、同じ数が並んだ場所が無い。
「カードを置けるのは、右下の4箇所4枚だけ…もし、この4枚に、隣接する4、5列目のカードと同じ数が無ければ、俺のゲームはここで終わり…」
おじさんCがカードを並べる手が震える。1枚…だめ、2枚…合わない。3枚………まただめ…4…ま、い…
「お!」
最後に並べた5列目4枚目と5枚目のカードが3だった。
「やったあああああぁぁぁぁぁぁ〜〜〜!!」
勝負に勝ったかの様にガッツポーズするおじさんC。だが…
「……………あ。」
事態は全く変わっていない、それどころか、前より悪化している。空きはさっきカードを取り除いた5列目4枚目と5枚目だけ。ここに周りと同じカードが来なければ、おじさんCは終わりだ。
カードを並べる…同じ数の隣り合わせ、無し。おじさんC、合計6組12枚。
「実はこのモンテカルロって、コンプリートするのが難しいんですよ。今、やってみて分かったと思いますけど、動かないカードが左上から段々積み上がっていって、一旦動かなくなったカードは、取り除くのが難しいんです。」
「くそっ!」アユムの説明に、おじさんCは悪態をつき、
「へっへっへ…次は俺だな。」おじさんBがカードを片付け、切り混ぜ、並べる。
「あ………」
並べた25枚に、同じ数が隣り合う組み合わせは、無し。
「お…終わりかよ…」がっくりするおじさんB。モンテカルロは最初の並びでもう詰みという事も多いのだ。おじさんB、0組0枚。
「つ…次、俺だ!!」おじさんAがカードをひったくり、切り、並べる。
「さっきまで見てたら、同じ数のカードの間が、3枚以内になったら、そう簡単には取り除けなくなる。そうなる前に、取らなきゃ…」
「ほら、そこ取り除けますよ…」
「お、おお、サンキュー…あ。」
アユムの助言もあり、おじさんAは、健闘した。だが…ここまでだ。おじさんA、10組20枚。
「じゃ、最後僕ですね。その前にちょっと待ってて下さい。カオリさんに帰るの遅れるってメール打ちます。」
「あの姉ちゃんか…」「確かに怖そうだ…」
そう言ってアユムはスマートフォンを操作すると、カードをまとめ、シャラシャラと3回リフルシャッフルする。それを睨みながらおじさん達は思う。
(もし、こいつが11組以上取り除いたら、こいつが勝っちまう…)
(落ち着け…これまでやってみて分かったが、このゲームはやっぱり、トランプの最初の並びの運しか、勝ち負けの要素が無え…)
(だから、条件は、こいつも同じのはず…)
アユムがカードを片手で1枚1枚並べると…
「ここと、ここと、ここと…」
アユムは並んだ同じ数のカードを取り除いて行く。
「ほら…左上に動かないカードが…」
「あ!下から同じ数、来た。」
「何だ…結構順調だぞ…」
次、次…カードを取り除いては、詰めて、置いて行く…おじさん達の表情が、段々焦って来た。
(こいつ!イカサマしやがったか!!)
(待て、トランプは俺達の見てる前で封を切った新品だった。)
(おまけにこいつは、例のシャラシャラ…って切り方をしてるから、俺達の時よりよく混ざってるはずだ。)
(それに、並びは結構ランダムだぞ。仕込んで揃えた様子が無え!)
(さっきのスマホは!?メールと称して怪しげなアプリを使ったとか!?)
(あんな物でトランプの並びを操作出来る訳無えだろ!!)
おじさん達、テレパシーでも使えるの!?
ついには山札が無くなり、場札も4列、3列と減っていく。そして…
A、Q、A、Q。
「の、残り4枚で…」
「ま、まあ、これで、僕の勝ちですよね。」
渡会アユム 24組48枚
おじさんA 10組20枚
おじさんB 0組 0枚
おじさんC 6組12枚
「くそっ!も、もう一度!」
「もう一度だ、小僧!!」
「今度はお前が最初にやれ!!」
おじさん達が本気になってきた。だがそこへ、娯楽室のドアがガラっと乱暴に開き、
「ア〜ユ〜ム〜っ!!」
憤怒の形相のカオリが入ってきて、
「あんた…何やってんの!?賭け事!?あたし達2人の食い扶持を!!」
怒りを抑えようと平静を保とうとしているのが却って怖い。
「ちょっと、いらっしゃい!!」アユムの耳を引っ張り、娯楽室の外へ連れ出そうとするカオリ。
「痛っ!痛たっ!!」引っ張られるままについていくアユム。
「み、皆さんごめんなさい。今日はここまでで…」
アユムとカオリが出ていった後、呆然としてたおじさん3人は、
「………俺達もお開きにするか。」
「ああ…」
※ ※ ※
村の中を耳をカオリに引っ張られるアユムだったが…内心、計算どおりに行った事に安堵していた。
モンテカルロに必勝法は、ある。それは、モンテカルロをプレイするためだけのトランプを作る事。
モンテカルロをプレイした後のトランプには、同じ数が並んだ組み合わせが多数ある。どんなに念入りにシャッフルしても、同じ数の並びは高い確率で残る。ましてやおじさん達は、普通のヒンドゥーシャッフルしか出来ない。同じ数の並びがいくつもあるカードを完璧に1枚ずつ交互のリフルシャッフルを3回すれば、斜め右下の1枚右隣りに同じ数のカードが来る。誤差が入れば縦か斜めに並んでくれる。
だからアユムは、手本と称して1回、その後自分は最後でいいからと言っておじさん3人に先にプレイさせて3回、合計4回モンテカルロをプレイした、同じ数の並びをたくさん含んだカードを作った。3回目のおじさんAに助言したのも、自分の番に同じ数の並びを多くするためだった。
まあ、24組取り除けたのは出来すぎだが、最後の4枚が取り除けなかったのが、モンテカルロのコンプリートが難しい所だろう。
そして、全てのギャンブル共通の必勝法は、勝ち逃げする事らしい。ましてやモンテカルロは、何度も遊べば遊ぶほど、順番による有利不利は無くなる。だから、自分がプレイする前にカオリにスマートフォンで『僕は今、村の娯楽室でギャンブルをしています。』というメールを送り、終わる頃に乱入させてお流れに出来る状況を作った。勝つ気は無かった。負けなければ、あの場から逃げられればそれでよかったのだ。
何もかもうまく行って、本当に良かった…
「あ、アユム、あんた今夜、ご飯抜きだから。」
………やっぱり詰めが甘かった。
本話はあくまでフィクションです。シャッフルの不徹底を指摘されない場合、普通のヒンドゥーシャッフルで横並びの多発に期待した方がコンプリートしやすいと思われます。
私もモンテカルロ専用のトランプを作っていますが、それでも初回の並びで詰む事がたまにあります。




