12ー6 モンテカルロ
翌日…
廃墟でジャンク拾いをしていたアユムは、ふとおもちゃ屋の廃墟を見つけ、
自身がかつて、ロボットアニメのプラモデルを夢中で作っていたのを懐かしくなって、覗いて見ると、
そこには、見知った顔があった。
「犬飼…」
パンサーズのメンバー、ソラの動画に映っていた人物である。だが、向こうはアユムの事を知らない。あの蒼いアレッツのパイロットである事さえも…
「…何で俺の名前を知ってんだ!?」
そう言う犬飼だったが…野盗のはずなのに、凄みが無かった。
「あ…その…」
アユムもオタオタ…犬飼は思った。こいつは堅気で、俺が野盗なのを知ってるのに、どうこうするつもりが無いらしい…その内に、お互いが相手に危害を加える意思も力も無い事に薄々気づいた。
「………」
「………」
お互い、会わなかった事にして、別れよう…そういう空気が流れかけた時、
「…遊び道具を、探してるの!?」
アユムが言った。犬飼が広げたリュックの中に、麻雀セットやら、トランプやらが突っ込まれていたのだ。
「あ…ああ…」
犬飼が返事をした。
(野盗も娯楽に飢えてるのかな…!?)
アユムはそう思い、
「あ、あの…だったら…」
※ ※ ※
「お、おおおおお〜〜〜!!!」
歓声を上げる犬飼。アユムが彼を連れて行ったのは、100均ショップの廃墟。
「トランプだけじゃなく、サイコロに、花札も…!!」
「麻雀も、ポータブル版とかカード版でいいならあるよ。」
ああいう所のおもちゃコーナーには、今、犬飼とアユムが言った物まで揃っている。
「ほら、サイコロなんか、6面だけじゃなく、4面、8面、12面、20面、10面も2つ…ルールブックとキャラシートがあれば、テーブルトークRPGが出来るよ。」
「あー…それはいらなかな…」
「あ、そう…」
友達のいないアユムは、知識としては知っていたけど実際にやった事は無い。
「しっかしお前、頭いいなぁ…俺達の所に来るなら、俺の弟子にして、アレッツの事を教えてやるよ!!」
「あ…あはは…」
目の前にいるのが、あの蒼いアレッツをビルドした張本人である事を知らない犬飼の無遠慮な物言いに、アユムも苦笑い。
「…ま、『向こう』に居場所があるなら、そこにいた方が利口だな…」
犬飼は軽い口調で言ったが、やっぱりパンサーズの内情は大変なのだろう…
「じゃ、こんな世の中だが、頑張って生き抜けよ。じゃあな。」
そう言って100均ショップで手に入れた戦利品て脹れたリュックを背負い、去って行く犬飼の後ろ姿に、アユムも、
「そっちも………!!」
後ろを向いたまま手を振る犬飼。奇妙な出会いに、アユムも、そこに並んでいたトランプを1組、手に取った。
※ ※ ※
1時間後、郡山復興村…
今日も今日とて、ほうぼうのバグダッド電池の修理に精出すアユム。おやっさんには課題を出し、今、工場で初歩的な物と取っ組み合っているはずだ。その日、アユムが修理を行う場所は、普通の家庭では無かった…
「ツモ!タンヤオのみ!!」
おじさんAがタァン!と麻雀牌を倒すと、他の3人から「ああ〜〜〜…」と、悲鳴が上がった。
『娯楽室』と呼ばれる、村の建物。あちこちから拾ってきた雀卓やら将棋盤やらが並んでいて、村人たちは空いた時間を楽しむことが出来る。ここの電気系統の修理が、今日の仕事だったのだ。だが…
「チクショー!!持ってけドロボー!!」
おじさんDが放り出したのは、点棒ではなく、数本のニンジン…壁には『賭博行為禁止』の貼り紙があるが、守られていない様だ。
「クソっ!スッカラカンだ!!今日はもう帰るぜ!じゃあな!!」
おじさんDの逃げ口上に、おじさんA、B、Cは、「またどうぞ〜〜〜!!」と声を上げた。どうやらあの3人が、ここで一番強いらしい…
「修理終わりました。失礼します…」アユムは娯楽室を出ていこうとした。ここが今日の仕事場だと言った時おやっさんが言ってくれた。『出来ればあそこには行かない方がいい。そして、絶対にあそこにいる3人の誘いには乗るな』、と…
だが…
ポン。アユムの肩に置かれた手。
「あんちゃん…麻雀くらい出来るだろぉ〜〜〜!?」「俺たちと遊んで行かないかぁ〜〜〜!?」「ルール知らねぇなら教えてやるからさぁ〜〜〜!!」
………どうやら、おじさんAからCは、アユムを新たなカモにしようとしているらしい…
「ぼ…僕、麻雀は出来ないですよ…」
そう言って逃げようとしたが、
「まあまあそう言うなよ…」「お前、結構稼いでんだろう!?」「あちこち回ってるみてえだし…」
北海道からこれまでの稼ぎを、全部剥ぐつもりか!?そ、そんな事させない…
「そ…そうだ…じゃあ、こういうのはどうですか!?」
そう言ってアユムは、廃墟の100均から拾ってきたトランプを取り出す。
「ポーカーかブラックジャックか!?」
「いえ…一人用ゲームですけど…『モンテカルロ』って言うんです…」
「「「モンテカルロ…!?」」」おじさん3人の声がハモる。
「いいですか!?お手本で1回やってみせますから、見ててください…」
そう言ってアユムは、おじさん達の目の前でカードの封を切り、シャッフルしてみせる。カードを2つに分け、短い縁を合わせて山型にし、シャラシャラと1枚置きにはじく様に落として行く。『リフルシャッフル』という手法だ。
「ほう…うまいもんだ…」おじさんBが感心の声を上げた。
「ちょっと…練習したんです…」
アユムが言った。ずっといじめられていたために遊びは常に一人だった。トランプも、家族以外に相手がいないためにシャッフルの技と、一人遊びについてだけ詳しくなっていった…
「まず、カードを縦5枚、横5枚、左上から右、下へ順に並べていきます。」
そう言ってアユムは25枚のカードを並べてみせる。
「そして、同じ数のカードが2枚並んだら、取り除きます。この場合は、ここと、ここ…縦でも横でも斜めでもいいです。」
3列目の左から2枚目と3枚目に9のカード、4列目の中央と5列目の右から2番目にキングが並んだので、取り除く。
「空いた部分は順番に詰めていって、山札からカードを補充します。」
アユムは9のカードを2枚取り除いた空間に、同じ列の右2枚のカードを左に詰め、そこに下の段の左2枚のカードを入れ、同じ要領でカードを詰めて行って、最後に空いた5列目の4つの空きに、山札を4枚並べる。
「こうやって場札をどんどん取り除いて山札から補充して行って、場札も山札も全部取り除いたら上がりです。」
「へえ…」
「まあ、これは1人用ゲームですから、取り除いたカードの組数が一番多い人が勝ちにしましょう。僕は麻雀は出来ませんから不利になりますけど、これなら平等でしょう!?僕は一番最後でいいですから、まずは皆さんどうぞ。」
そう言ってアユムは場札を全部片付け、シャッフルする。おじさん達は向こうを向いてヒソヒソ話し始めた。
(どうする!?俺達は初めてだが…)
(どうもこのゲーム、最初のカードの並びが全てを決めて、プレイヤーの腕が関与する余地は無さそうだしなあ…)
(あのガキはやり込んでる様だが、イカサマのしようも無いか…)
それから3人は、こっちを向き直り、
「「「よし、やろう!!」」」




