12ー5 動物園にて
引き続き、アレッツ野盗団『パンサーズ』アジト…
「あのー、お客人…」
眼鏡の男がソラに話しかける。大人しそうな、一見、野盗とは思えない男である。
「ナニカシラ!?」
ソラが振り返ると、眼鏡の男は一瞬ぎょっとした表情になり、
「あ、あの…あなた、強いですね…あなたのアレッツも、すごいですね…」
「あら…アリガトウ。アナタ達のアレッツもすごいワネ…」
「あ…ありがとう…ございます…あの…」
その時、ガンガンガンガン…という、鍋を叩くような音がアジトじゅうに響き渡る。
「何ノ音!?」
今度はソラがぎょっとする番である。
「あ…続きは一緒にメシでも食いながら話しましょう。俺、犬飼って言います。」
眼鏡の男…犬飼は、ソラを音のする方向へ誘った。
「ところでお客人…そのグラサン、何ですか!?」
ソラの目には、不似合いなサングラスがかけられていた。
「これ!?野盗として凄みヲ出すためヨ。ホラ、ワタシの顔って、セクシーすぎるデショ!?」
ソラはサングラスをくいと上げてみせ、犬飼は、「は…はは…」と、こわばった笑みを浮かべた。
※ ※ ※
数時間後、郡山復興村…
「ソラさん…大胆な事するわね…」
「確かに…パンサーズがどんな人たちか聞きはしたけど…」
アユムのタブレットには、ソラが送ってきた動画が映っている。そこには、こっちに向かって話しかける犬飼という野盗。ソラが新しくかけたサングラスのフレームには、隠しカメラとマイクが着いているのだ。『パンサーズって、どんな人たちですか?』そんなアユムのメールに、数時間後にソラが送ってきたのが、この、『パンサーズ』アジトの隠し撮り動画だったのだ。
「それ、さっき襲ってきた魚に乗ってた奴が撮ったのか!?」
後ろで見ていたおやっさんが言った。アユムがソラにメールを送った後、アユムとカオリはおやっさんの工場へ移動した。おかみさんの提案で、これから毎日、おやっさんの工場で一緒に食事を取ろうという事になったのだ。
動画の中で犬飼がソラに、『ソラさんは何でうちに入ったんですか?』と尋ねると、ソラは、
『こういう世の中ヨ。力を持ってテ真面目に生きた方ガ馬鹿を見るデショ!?』
と言った。胡散臭い格好でそういう事を言われると、言ってる言葉の方まで嘘に聞こえるのが不思議だ…犬飼とソラは、野盗どもの行列に並び…大鍋の前に出た。
※ ※ ※
動画内、つまり、今から数時間前の『パンサーズ』アジト…
「………」
ソラと犬飼の手の中には、蒸したジャガイモが1個だけ。他の皆にも同じ物が配られた様だ。
「…これが、夕食!?」ソラが言ったが、
「今日の食料配給ですよ。」犬飼が、それが当たり前であるかの様に言った。
※ ※ ※
動画を見ていたアユムは、
「何だこりゃ…あいつらこんなに食うに困ってたのか…!?」
「そりゃ俺達は物作りをしてるけど、あいつらはそれをただ盗むだけだからな…軌道に乗りさえすれば、こっち側の暮らし方の方が、安定するわな…」
おやっさんが言った。
※ ※ ※
再び動画内…
バ キ っ!! 一人の野盗が、他の野盗に殴られて吹っ飛ばされた。
「や…やめてくださいよ根古田さん…そんな事されたってグヘっ!!」バキっ!また殴られた。
「嫌ならさっさとお前のアレッツを俺に寄越しやがれ!!」
殴った側の野盗…根古田が言った。アユム達は知らないが、初日にエイジ隊にアレッツを撃墜された男だ。
さらに殴ろうとして振りかぶった根古田の拳は、後ろから誰かに掴まれる。そこに立っていたのは、怒り顔のレオ。
「へ…ヘッド…」「レオさん…」
「おい根古田!『パンサーズ』は私闘厳禁だって言ったろう!!」
レオに睨まれて萎縮する根古田。
「れ…レオさん…お、俺に新しいアレッツを下さいよ!!そしたらあんな村、ブッ潰して見せます…」
「根古田…てめぇは裏方だって言ったよな…」
「大神にはもう新しい機体が与えられて、何で俺は…」
「俺が決めた事に文句あんのかぁ!?」
ヒっ! 根古田は悲鳴を上げる。
「無ぇならさっさと仕事に行け!!」
レオが向こうを指差すと、根古田は背中を向け、逃げる様に走り去った。
「ケっ………!!」
悪態をつき、ノシノシと歩き去って行くレオ…
※ ※ ※
「あ…あれが兵藤レオ…名前通りライオンみたいな奴だな。氷山村長と、あんまり似てないけど…」
「すごい迫力だったわね…高いリーダーシップは父親譲りなのかしら…ねぇ、これ!!」
カオリが指差す中、動画の画面が切り替わり、次に映ったのは、アジトのどこかにある、明らかに小さな畑に見える風景。
「あいつらも畑を…」
だが…郡山復興村と比べて明らかに規模が小さい上、ジャガイモと思しきそれはヒョロヒョロに痩せている。満足な収穫が望めないのだろう。ノロノロと作物の手入れをしていた根古田が、『くそっ!やってられっか!!』と、シャベルを投げ捨てた。
「村から盗んだジャガイモを種芋に、自分たちで植えたのか…」
「でも明らかに、俺達と比べて知識も経験も足りなさそうだな…氷山の奴に見せたら、何か助言が得られるかもしれねぇが…」
動画はそこで終わった。
「アユム、これ…」
「ええ、多分…彼らの方が先に破綻しますね。それに、食うために真面目に働こうという意思もありそうですし…」
うまく持っていけば、彼らを更生出来るかもしれない。
パンサーズの側にも野盗を辞める動機がありそうだし、村の側にもそれを受け入れていいという人がいそうだ。
「それにしても…結局、ソラさんは何であっち側についたんでしょう!?」
「…さあ!?」
※ ※ ※
以下は、ソラが撮った動画の、編集で削除された箇所である。
ソラの隣で食事…蒸したジャガイモにかぶりつく犬飼。
「お客人のアレッツって、どうやって作ったんですか!?」
「アレッツ攻略サイトに、魚型の水中用可変機が載ってるデショ!?あれを、チョイチョイと工夫して、ネ…」
ソラがとぼけて答えた。
「それより、アナタ達の獣型アレッツもステキネ。」
「あ、ありがとうございます!あれ、全部俺がビルドしてメンテしてるんですよ。」
犬飼が嬉しそうに言った。
「ソウ…アナタがここのメカニックなのネ…あんなアレッツの作り方っテ、サイトに載ってなかったデショ!?どうやって考えたノ!?」
「子供の頃に、ああいうおもちゃだかアニメだかがあったんですよ。それが元になってます。」
犬飼の答えの前のわずかな間を、ソラは気づかないふりをした。
※ ※ ※
動画の削除された箇所、その2
畑の横で、シャベルを放り出して座り込む根古田。
「裏方の仕事っテ、どんな物がアルノ!?」
ソラが尋ねると、根古田は、
「この畑の他にも、調理とかゴミ捨てとか、盗みとアレッツに関わらない雑用、全部だな。」
「他にハ!?」
「あとは…『落合さん係』、だな…」
「何ソレ!?」
「ここの幹部で、ずっと引きこもってる人がいるんだ。その人の部屋の前に、毎日、食事を持ってく係だ。」
「ソレ…ワタシが代わってあげまショウカ!?」
「だめだぜ…雑用の中でも古参にしかさせられない仕事なんだから…」
「デモ…正直、面倒なんデショ!?」
「おい、根古田!!」
レオがやって来た。
「くっちゃべってる暇があったら、根津の奴を探しにでも行って来い!!」
「すんません、レオさん…」そう言いながら、根古田は退場する。
「客人も、妙な勘ぐりをするなら出て行ってもらうぞ!!」
「『好奇心はネコを殺す』…オオ怖…」
おどけるソラのカメラの視界外で、威嚇するレオの唸り声が聞こえた。




