12ー4 裏切りの空
…その翌日は最低だった。
「…なんであなたがそちら側にいるんですか!?」
アレッツのコクピットでアユムが言った。
「それハこっちノ台詞ヨ!!」
紫の魚型アレッツのコクピットで、ソラが苦々しげに言った。
例によって村に食料を盗みに襲って来た『パンサーズ』の獣型アレッツに混じって、ソラのアレッツの姿があったのだ。
「…あなたもアレッツを改造したんですね。それにその武器、どこかで見た事ありますね…」
ソラ機の両腕には、閉じた傘の様な武器が握られていた。アユム機が愛用しているアンブレラ・ウェポンそっくり…というより、そのものだ。
データを盗まれた機会に心当たりはあった。平泉の『ホワイトドワーフ』討伐。アユム機は空を飛ぶ敵に対応するため、ソラ機と合体した。可変飛行アレッツを作れるソラの事だ。その隙にアンブレラウェポンのデータを盗み見る事もできたはずだ。
「ワタシの機体にピッタリヨ。これを考えた人ハ天才ねェ…デモ一応、ガンモードの時は逆手持ちになるノガ、オリジナルと違うのヨ。」
「ほぼ同じでしょう、そんなの!!」
「ちょっと…落ち着きなさい…」リアシートのカオリが言った。
「武器データのパクリはまだいいです。村の食料を奪うのは、許しませんよ…」
「アラ…アナタもワタシの贈り物を喜んデくれたみたいダケド!?」
アユム機の腰には飛行ユニット。ソラからもらったデータで作った物だ。
「サア、いらっシャイ!!ワタシと遊んでもらおうカシラ!?」
コクピットのソラが妖艶に笑い、ソラ機は魚型に変型して空を飛ぶ。折りたたんだ両腕には、アユム機によく似たアンブレラ・ウェポン(ツイン)、ホワイトドワーフから移植した追加ブースターが加わり、尾びれは本来の脚と合わせて十字型に展開されている。遅れてアユムも飛行ユニットを広げて空に出る。
「ウォォォォォォォ!!」タタタタタ…
アンブレラ・ウェポンと追加ブースターを手に入れた事で、出力が上がったソラ機はまともな武器を運用出来る様になった。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」タタタタタ…
アユム機も本家アンブレラ・ウェポンを連射して応戦するが、空中戦ではやはりソラ機が有利だ。加えて、
「今のうちに…」
野盗襲撃に逃げて行った村人が残していった、収穫されたてのジャガイモが一杯に入った籠に、『パンサーズ』の獣型アレッツが近づこうとする。
「くそっ!!」タタタ…
それに気づいたアユム機が空中からパーティクルキャノンを射出して牽制する。
「どこ見てルノ!?」タタタ…「うぁっ!?」
その隙にソラ機が攻撃する。
空中で同心円を描くように飛び回るアユム機とソラ機。アユム機はソラ機を攻撃しながら、地上の獣型アレッツを牽制する。アユムはソラにパーソナル回線を結んで呼びかける。
「ソラさん…どうして!?いい人だって信じてたのに…」
「…知らないおじさんニ連いて行っちゃいけないっテ、ママに教わらなかったノ!?」
「……ママもパパも1年前に殺されましたよ…」
「…そうだったワネ。」
「でも…あなた達のヘッド、『パンサーズ』の兵藤レオには、まだ父親がいるんです。それもこの村の村長の。」
「…ソリャ、人の子なんダカラ、親ぐらいいるでショウ。」
「あなたがそっち側に着いたら、最悪、親殺しが起きるんです!」
「アンタがそっちにいるだけデモ、最悪、子殺しが起きるワネ。」
その時、ソラ機が不意にアンブレラウェポンを下げ、背中についた十字型の尾びれを見せる。
「どこへ行くんですか!?」
「下をご覧なサイ。」
地上では野盗のアレッツが、ジャガイモの籠を回収したところだった。
「あ………」
ソラさんとの戦闘に気を取られている間に…
「バイバイ。おしゃべりは楽しかったワ。」
アユム機が呆然と見送る中、獣型アレッツを伴ったソラ機は、山へ引き上げていった。
郡山復興村は、今日の収穫分を全部、野盗に盗られた。
※ ※ ※
30分後、『パンサーズ』アジト…
「ご苦労だったな、客人。久々の大収穫だ。」
ソラ達襲撃組を、兵藤レオをはじめとする『パンサーズ』一同が出迎えた。2〜30人はいるだろうか…
「あの村のクソ村長も妙な用心棒を雇った様だが…あいつがお払い箱になる日も近いな。」
レオは名前通りの肉食獣のような笑みを浮かべ、手下たちに、
「食い物は後でお前たちに分けてやる!」
と、叫ぶと、手下たちから一斉に歓声が上がった。
「解散!!」
その声とともに、手下たちは散っていった。
「ジャ、アタシも…」
「おい待ちな、客人…」
どこかへ行こうとするソラを、レオが留める。
「ナニカシラ!?」
「最初、あの蒼いののパイロットと何か話してたな…てめえら知り合いか!?」
詰問するレオに、ソラはヘラヘラと笑って、
「アレッツ乗りの世界は狭いのヨ。あちこちに色々としがらみがあるノ。………あなただってあるでショ!?しがらみ。」
「てめぇ!!」
レオはソラの胸ぐらを掴むが、腕をソラに掴み返されて、あっさり引き剥がされてしまった。
「………まあいい。妙な詮索しなけりゃ、強ぇ奴は大歓迎だ!!じゃあ、これからも頼むぜ!!」
そう言い残して、ノシノシと去って行くレオ。その後姿を見つめながら、ソラは、
「………そういう訳にもいかないのヨネ…」
※ ※ ※
同時刻、郡山復興村、アユムとカオリの宿…
「ソラさん、どうして野盗なんかに…削除削除、ソラさん、何考えてるんですか…削除削除、ソラさん、あなたの目的は何…削除削除…ソラさん…」
さっきからスマートフォンのメーラーにソラ宛のメールを打ちかけては削除してをずっと繰り返しているアユム。
「あのさ、アユム…」
カオリがアレッツの戦闘記録を、アユムのタブレットを拝借して閲覧しながら言った。
「やっぱり…さっきの戦闘で気になってたんだけど…これ見て。」
タブレットにはアユム機から見たさっきの戦闘の記録が映っている。
「ソラさん、定期的に撃って来ない時があったのよ。あんたの機体が…村や畑を背中にしてた時。流れ弾が村に当たらない様に気を配ってたのよ。ほら、これなんか、あんたの弾が後ろの畑に当たらない様に、わざと食らってる。」
「でも…最後は食料を奪って行ったんですよ!?」
「ちょっといいか!?」
おやっさんが入ってきた。
「お前、あの魚みたいなのとどういう関係だ!?ロートルエンジニアの見立てだが、お前さんの機体とあの機体は似てるな。別々の所から同じ様な所へたどり着いたみたいな…」
その言葉にアユムは、
「実はあの人の事、よく知らないんですよ…あの人…ソラさんとは、津軽海峡をアレッツで渡ろうとした時に会ったんです。」
「…無茶な事してたんだな…」
「あの空飛ぶ機体で本州まで曳航してくれて、それから、その…」
「…あたしの妙な意地でコンビ解消の危機に陥ってた時、あたし達の仲を取り持ってくれたのよ…」
「それから、弘前城の野盗を退治しようとした時にも、戦闘に向かない機体なのに加勢してくれて、平泉に巣食ってたホワイトドワーフ…すごく厄介な敵を、一緒に倒して…」
おやっさんは、ふむ、と言って、
「…それだけ聞いたら、いい奴みてぇじゃねぇか…」
「そうなのよね…浮世離れした所はあるけど、悪い人じゃないのよね…なんて言うか、今回、野盗に加勢してる事だけが異質みたいな…」
「そう…ですよね。」
アユムは妙にすっきりした様な顔になり、
「ソラさんは信頼出来る人。その信じられる人が向こうにいる。なら…」
スマートフォンをポチポチと操作し、
「送信、と。」
※ ※ ※
同時刻、『パンサーズ』アジト…
ソラのスマートフォンがメールを受信した。差出人はアユムだ。文面はただ一言、
『ソラさん、パンサーズって、どういう人達ですか!?』




