12ー1 コンシダレーション Episode 11
人形ロボット兵器の最も非現実的な部分は、前方投影面積の広さ…つまり、直立し、最も面積の広い側を前にさらけ出しているため、『的になりやすい』という点である。『リアルロボットもの』と呼ばれる、ロボットアニメにある程度のリアリティを与えた描写の作品であっても、その誹りを免れない。もっとも、アユムが小さかった頃、ロボットアニメをバカにしてた奴らは、そこまで理論立てて否定してた訳では無かろうが…
そういう意味では、昨日見た野盗『パンサーズ』のアレッツは、実に合理的な構造をしていた。四脚で歩行する獣型とする事で、前方投影面積を減らし、的になりにくくする、という点で。腹部にコクピットの立方体と球を組み合わせた物体が挟まり、その前方に胸部、後方に腰部があった。恐らく腰部に大型のジェネレータが1機、胸部にコンバータがあるのだろう。四脚で身体を支える構造のため、細い後ろ脚にはジェネレータは乗せられないだろう。前脚も移動用、頭部はセンサーと攻撃手段の複合、たてがみを生やせばシールドになる。そして尻尾の先端には攻撃手段…パーティクルキャノン。ジェネレータの移動用エネルギーを前脚に持ってきたり、コンバータの攻撃用エネルギーを尻尾に持ってきたりする必要があるため腹部は4本のパイプの他、上に背骨の様な太いパイプがもう1本通っていた。あんなのアレッツ改造サイトには載っていなかった。一体誰の発想なのか…
もっとも、そんな獣型アレッツも、アユムのアレッツ…『ノー・クラウド・クレセント』には、相性が悪かったが…なにせ空が飛べるのだから…獣型は上方投影面積が広い。格好の的だった。
平泉のホワイトドワーフ討伐に協力した報酬として、ソラさんからもらったデータを基に作成した。『ノー・クラウド・クレセント』の腰部に、新たに追加された飛行用ユニット。普段は陣羽織の裾の様に折りたたまれているが、展開すると翼の様に広がり、反重力と気流制御による浮力で、アレッツは非変形で空を飛べる。まあ、アユム機とソラ機以外に飛行可能なアレッツが確認されていない事から、すごい事をしてるのは事実だが、空を飛ぶとジェネレータを載せた脚部というアレッツ最大の急所を、上を見上げた敵にさらけ出す事になる上、撃墜されたら大変なことになるため、メリットがあまり感じられず、つい最近まで実装せずにいたのだが…
もし、他にも空を飛べるアレッツが大量に出現すれば、少なくともそいつらと同じ条件で戦えるだろう。想像したくもないが…
アユムの機体は空を飛べる様になった。あとは、これを有効利用するだけである。
「上空からの無差別絨毯爆撃なんてしたくないから、誘爆しない箇所をピンポイントで狙っての狙撃かな…!?」
アユムはブリスターバッグを操作し、余剰マテリアルで新たな武器を設計した。
>Ambrella Weapon(Sniper/Spear)
>Create? vOK/ No
ピ…っ! 作成開始。
※ ※ ※
同日、午後…
「直りましたよー、全部。」
アユムの声に、部屋に入って来た老人が、
「すまないねぇ…あんた、本当はすごい事出来る人みたいなのに、こんな事頼んで…」
「いえ…今丁度、仕事ありませんから…己の不始末のせいで…」
床に座り込んだアユムの周りには、いくつもの机や椅子が転がっている。今日、アユムが直した物だが、どれも彼が使うには小さすぎる。当然ながら、バグダッド電池が内蔵されていて座った者の操縦で走り回れるなんて事は無い。
ここは壊れずに残った小学校を利用した寺子屋、さっきの老人がここで村の子供に勉強を教えている先生、そして、子供たちが使う机や椅子の修理が、今日のアユムの仕事だ。
「ここ、学級文庫まであるんですね…」
教室の隅には、子供向けの本が何冊か並んでいる。ちなみにこれらを立てる本棚も、アユムが直した物だ。
「あちこちから焼け残ったものを拾ってきたり寄付してもらったりしたんだけど…まだまだ足りないねぇ…やっぱり、子供たちには本を読んでもらいたいから…」
「これから町の廃墟にジャンク拾いに行きますから、その時本屋跡を漁ってみますよ。」
「すまないねぇ…」
※ ※ ※
そうして市街地の廃墟をまわった昼下がり…
立ち寄った書店跡の店先に座り込み、あまりにも良い日和につい、寝込んでしまい、
夢を、見た。
とても不思議な夢を…
「………」
目覚めるとアユムの傍らには、居眠りする直前まで読んでた本。
こんな本、読んだから、あんな夢を見たのかもしれない。
でも…
あの夢で見た事、思いついた事。
あまりにも荒唐無稽な発想だ。でも必要な事は全て、アレッツに出来るはずだ。
野盗との日々の戦いをこなしながら、いくつものモジュールを作らなきゃならない。けど、
あれが出来たら、僕のアレッツは、きっと………
ピっ… ブリスターバックを操作し、とりあえず手がつけられる簡単なモジュールから作っていく。一通りの事を終えると、アユムは空を見上げる。
僕のアレッツと同じ色を纏う青年。
また、彼らに会えるだろうか…
おまけ
アユム復活の祝いの晩餐のはずの夕飯には、昨日アユムが食べ残したツナ缶が、山と盛られていた。当然シナシナのシオシオ。
カオリ「元気になったんだったら、それ、ちゃんと食べなさい。あたしの作った物を残すのは許さないわよ。」
アユム「ひーーーーーん…」




