9 夢と知りせば 覚めざらましを
第1、6、8話 僕はほんの少し魔法が使える 掲載
第2、5、7話 LightningS 〜僕はほんの少し魔法が使える・第三部〜 掲載
第5〜8話のあらすじ
アユムとカオリはフィリップ、モリガンと協力して、誘拐犯の一部を捕縛。フィリップとモリガンの孫にあたるウィル、ヴィッキーを加えた6人で、残る犯人の捕縛とウィルの婚約者エリナの救出へ向かう。最後に現れたのはキメラにコウモリの翼とサソリの尻尾が生えた身の丈数メートルの合成生物。アユムとカオリは自分たちが呼ばれた理由を悟り、ブリスターバッグからアレッツを起動させる。
アレッツのコクピットの中は、いつもの複座型。アユムが前下方、カオリが後ろ上方。
「カオリさん、あれ、大きい上に変な姿してますけど、生き物ですよね…」
「これは夢。そうとでも考えて割り切るしか無いでしょ。倒すわよ、あれ。」
ファンタジー世界の住人たちは、目の前の光景を呆然と見つめていた。左には巨大キメラ、右には蒼い巨人。幸いなのは蒼い巨人の方はあのアユムという少年が動かしていて、自分たちの味方らしい。それにしても…
フィリップは自分が着ている、深い青に金の差し色を入れた革鎧と、蒼い巨人を見比べて言った。
「…似てるな…」
「そうですよね。僕もそう思いました。」
蒼い巨人…アレッツの中からアユムの声がした。
一方でエリナを拐かした老人は、
「妙な物を持ち込みよって…じゃが構わん。やれ!」
けしかけられた巨大キメラが ガオーーーー と吠えた。
「『アンブレラウェポン』、ガンモード!!」
アユム機は閉じた傘に見える武器を構え、先端からパーティクル・キャノンを発射!!しかしそれは、巨大キメラの体皮が発する妙な光に阻まれてしまった。
「くっ…ブレードモード!!」
アユム機はアンブレラウェポンを持ち替えて、光の刀身で斬りつける。が、やはり光に阻まれてキメラは無傷だ。
「なんとかフィールドって奴か!?」
「防御魔法じゃないの!?」
ガン!ガン!!蒼い巨人は光の刃でキメラに何度も斬りつける。その力強く大地を踏みしめる両足に、ウィルの目は釘付けになる。
「何やってんの、ウィル!!そんな所に突っ立ってたら危ないよ!!」
ヴィッキーに手を引かれてウィルは名残惜しそうに後ずさる。
ヒュン!!「うわっ!!」キメラのサソリの尾が前に伸びる、アユムはそれを左腕の小型盾で躱す。
バサッ!!キメラはコウモリの翼を広げて空に逃げようとする。アユム機も陣羽織の裾に見えていた腰部パーツを翼の様に展開し、空中でキメラの背中に馬乗りになる。
「あ、あれ、空まで飛べるのか…」フィリップが感心した様に呟いた。
グルルルル…空中で翼を抑えつけられたキメラは姿勢を崩し、アユム機に背中を蹴飛ばされて地面に叩き落とされる。ドーーーーン!!
「今だみんな!!この世界はこの世界に住む僕らが守るんだ!!」
フィリップが号令を出しつつ、魔方陣形態に変形させたツァウベラッドの上から全員に強化魔法をかける。
「うおおおお!!」
フィリップと同じ顔に短く尖った耳を持ったウィルが裂帛とともに突進、腰に帯びた異国風の装飾の鞘から、わずかに刀身が反った片刃の刀を抜き、上段に構え、横倒しに落ちたキメラに斬りつける。
ブレードワン! ブレードツー!! ブレードスリー!!!
しかし、異邦の剣術もキメラに傷一つ着けられない。
「『エースオブワンド』!!『エースオブソード』!!」
ヴィッキーが腰のホルダーから取り出した、棍棒と剣が描かれた二枚のカードを掲げると、カードから火球と竜巻が飛び出し、キメラを襲う。が、やはりキメラには効かず、平然と立ち上がった。
「く…くそっ!!」
降りてきたアユム機が、ライオンの牙で咬みつこうとするキメラと取っ組み合う。
メ ェ ェ ェ ェ ェ!!
さっきからライオンの背中で耳障りに鳴くヤギの頭。
「あれが…防御魔法になってるのか!?なら…【サイレンス】!!」
フィリップが静寂魔法を詠唱する。が、それすら防御魔法に阻まれてしまった。
「おおおおお〜〜〜!!」
『ツァウベラッド・ロートⅡ』に跨ったモリガンが、ウィリーをしつつ駆け、アユム機の腰部の閉じた翼に前輪をかけ、そのまま翼を駆け登り、肩でジャンプ!
「りゃぁぁぁぁぁぁ!!」
空中でハルバードを構え、ヤギの頭に突進する!
ザシュっ! 手応えあり。だが、ヤギの頭はやはり傷一つ着かない。
「だめか…」
モリガンのロートⅡは、キメラの背中で着地し、ターンする。そこへ、
「モリガン!危ない!!」
キメラのサソリの尻尾が、後ろからモリガンを襲う!!
「へ…!?」
が、サソリの尻尾は、モリガンに刺さる直前に、アユム機の左手で掴まれ、間一髪モリガンは助かり、そのままキメラの背中を降りた。
アレッツのコクピットの中のカオリとアユムは、
「どうすれば、いいのよ…」
「あんなに大きくて、外が鉄壁の防御の敵…」
あんなに大きくて、外が鉄壁…!?
アユムの脳裏に何かがひらめく。
「これで…どうだ!!」
グイ!アユム機はキメラのサソリの尻尾をぐいと掴み、
「虐げられし者の恨み、思い知れ!!」
大きく開いたライオンの口に、突っ込む!!
ガ … … …
ヤギの頭の詠唱が止まり、ライオンの顔が青白くなった。
「やっぱり…外の防御が鉄壁でも、内側は脆い…」
アユム機が離れると、自らの毒に中たり、
ズシーーーン!! 巨大キメラは、倒れた。
「倒した…」「あの巨人が…」
フィリップ達が呆然と見守る中、アユム機の輪郭が光り、粒になってだんだんとぼやけて行った。
「僕たちはこれまでみたいです。みなさん、お元気で。」
アユム機は、光の粒になって消滅した。
※ ※ ※
西暦2053年 10月初め、郡山廃墟…
空の上には荒廃した地上を見つめる天使ウズメの姿。
「アユムさん…私はオリジナルの世界には干渉出来ません。でも、この戦いを通じて、あなたが何か得るものがあったら…
これが、何も出来ない私の、唯一の抵抗です。
そして、忘れないで。
弱者である事、他と違う事が、この世にいてはならぬ理由にはならないのです…」
※ ※ ※
「………!?」
アユムは、目が覚めた。
夢を、見た。
廃墟でジャンク拾いの最中に、つい、ウトウトと…
あの夢で見た事、思いついた事。
もしあれが出来たら、僕のアレッツは…
アユムは、集めたジャンクを積んだリヤカーを引いて、郡山復興村へ向かう。
妙に、清々しい表情で…
※ ※ ※
「アユム〜〜〜!!」
復興村の入り口に、何故かカオリが出迎えていた。
「いや〜、いい天気よねぇ〜〜〜…いい天気だからあたしもつい、ウトウトしちゃって…それで、変な夢を見たのよ…」
それからカオリは、アユムの顔を覗き込み、
「アユム…!?あんたまさか、妙な事、考えてないでしょうね!?」
アユムはにっこりと微笑み、
「………分かりますか!?」
エルヴンブライド Side 落星機兵ALLETS 完
第10話(僕はほんの少し魔法が使える掲載予定)に続く。




