4 詠み人知らずの ミッシングリンク
「謝罪…って…」「何…を!?」
エロ女神様に謝罪を申し込まれてキョトンとなるアユムとカオリ。
「事の発端は、あなた達がまだ産まれていなかった頃です…」
さて、どこから話すべきでしょうか…ウズメは天を仰いで、
「『クローズワールドオンラインの不具合事件』…『ラフカディオ・コーポレーション』……どちらの方が分かりやすいでしょうか…!?」
「あ、どちらも分かります。」「アユム、産まれる前の話なのに…」「ネットの又聞きです。まず、『不具合』ですけど…今から30年ほど前、MMORPG『クローズワールドオンライン』のプレイヤーの集団失踪事件が発生して、数日後にほぼ全員が帰還したんでしたよね。しかも帰還者たちの証言によると、『クローズワールドオンライン』の舞台そっくりの異世界に転移してて、プレイヤーがラスボスを倒した事によって帰って来れたって言う…」
「よく、ご存知ですね…」ウズメが微かに微笑む。遠い昔を思い出しているかのように…
「その後、帰還者のグループによって、電脳異世界『閉鎖世界』を管理、運営する会社が創られ、『閉鎖世界』をニート、ひきこもりの人生やり直しの場として提供した…たしかその会社が、『ラフカディオ・コーポレーション…』」
僕もいじめで引きこもってた時期があったから、お世話になる可能性があったんだ…
「これまでに100万人の人が、『閉鎖世界』へ移住しました…」ウズメが補足する。多そうに聞こえるが当時100億を越えていた世界人口のうちのたった0.1%である。この事業が成功と言えるのか失敗なのかは誰にも評価のしようがない。
「でも、僕が引きこもってた時にはもう、勧誘サイトが見つからなかったけど…」『グラスウール事件』の後、自殺するのと半ば同じ心境で、『閉鎖世界』のサイトを検索してみたのだ…
「その頃にはもう、ピロウ…私の友人で『ラフカディオ・コーポレーション』の副社長である人物は、現実世界への関心を失っていました。活動の拠点を既に向こうへ移していたこと、向こうでは現実世界の25倍の速さで時間が過ぎることも原因の1つでしょうが…」
その事についてピロウは何も語らなかった。自分の居場所が欲しくて人工の異世界の運営に手を出したら、いつの間にか異世界の神様になってしまっていた人間の心境なぞ、余人に理解出来る物ではない。
「かつて私とピロウが友人たちと交わした雑談によって、この世界の外には未来改変に失敗してカオス状態の物質とエネルギーに分解された世界の残滓が漂っており、それを完璧な『世界の設計図』どおりに組み上げれば、平行世界…いえ、異世界を作る事が出来ると分かっていました。ピロウは…現実世界への関心を失い、人工異世界の創造に血脈を注ぐようになってしまったのです…」
「は…はぁ…」壮大過ぎる、だが何故だか引っかかる話に呆然とするアユム。
「そこで…初めにした謝罪の話なのですが…」
ウズメはアユムとカオリに深々と頭を下げる。
「ごめんなさい…現実世界の惨状は私達も感知しています。でも…ピロウはこの難局に、何もする気が無いみたいなんです…本当にごめんなさい…」
ウズメ達が人工異世界の創造・管理者なら、宇宙人の艦隊戦のとばっちりによって壊滅させられた現実の地球を捨て、生き残った者たちで人工異世界に移住した方が良さそうだ。だが…
「あなたが天使だと言うなら、カナコの足だけでも元通りに出来ませんか!?」
アユムの真摯な視線にウズメは目を伏せ、
「ごめんなさい…オリジナルの世界には干渉出来ないのです。」
「そうですか…あまりお気になさらずに…」
彼女達の薄情を許したというより、ネットニュースでしか知らなかった事件の、あまりにも壮大な顛末に、どこに心を置けばいいか分からなかったのだ。
「それで…僕らに謝罪するためにここへ呼んだんですか!?それに、あの2人は…!?」
アユムは向こうで、「ねえふぃりぽん、このひとたち、なにをいってるの!?」「安心しろモリガン。僕も半分も分からない。」とぼやいているファンタジー世界の住人を指す。
「ここからは今回の要件の本筋なのですが…フィリップさん、モリガンさん…」
「うん…」「なに…!?」
「ここはあなたが生きている世界の、遥か未来の姿です。ここは紛れもない『海岸地帯』、そしてあの立派な街はあなたもご存知の『港街』です。」
「へぇ…」「すごいねー…」
「そして…あなた達のお孫さんが危機に陥っています。」
「ま…孫ぉ〜〜〜!?」「わ、わたしたちの〜〜〜!?」
顔を真っ赤にして素っ頓狂な叫び声をあげるフィリップとモリガン。
「このままではお孫さんの婚約者さんが、不幸な運命が待っています。それを阻止するために、あなた達4人にお力をお借りしたいのですが…あのー…聞いてますか!?」
「孫!?子供の子供!?僕とモリガンの!?という事は僕とモリガンは僕はモリガンとええっ!?えええええーーーーーっ!?」
フィリップは意味も文法もめちゃくちゃな呪文をずっと繰り返し、
(ぽーーーーーーーーーっ…)
モリガンは真っ赤な頬を押さえたまま、耳を上下にピコピコ…
「あの2人、恋人同士じゃなかったんですね…」
アユムは呆然とし、
「いやー、あたしには分かってたね。あれはまだだって…」
たった1度の恋愛経験を傘に着て、カオリがドヤ顔で言った。
(あなた達はどうなんですか…!?)
ウズメはそう思ったが、おほん、と、咳払いをして、
「アユムさん、カオリさん、この件についてあなた達は完全に無関係です。もし、関わりたくないと仰るなら、このまま元の世界にお戻りいただけますが…」
「お手伝いします。」アユムが言った。
「よろしいんですか、アユムさん!?」
「僕らが呼び出されたって事は、戦力が必要って事ですよね!?僕、ちょうど煮詰まってた所だったので、なんて言うか、きっかけが欲しかったんです。この現状を打破する何かを…」
アユムの脳裏には6本腕の天使の様な異形と、名前を捨てたもう一人の自分の顔が浮かぶ。
「ぼ…僕らももちろん戦います。ま、孫…!?の危機ならやらない訳には行きません。」赤面から立ち直ったフィリップが言った。武器も持っていない、明らかに戦えそうにない2人が何の戦力になるのか疑問だったが…
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「それで…ウズメさん、2つだけ聞いていいですか!?」
フィリップが指を2本立てて言った。
「私が答えられる範囲なら…」
「まず1つ、その僕らの孫は、この世界にとって重要な人物なのかい!?アユム君達の世界の危機を捨て置いた君らが、先祖の僕らを呼び出してわざわざ救おうとするなんて…」
「…彼は凡庸な三代目とされています。」ウズメは素っ気なくそう答えた。
「まあ、それでも助けてくれると言うなら異存はありません。じゃあ2つ目…」フィリップはまだ向こうで顔を真っ赤にして耳ピコピコさせてるモリガンに一瞬視線を送ってから、声を潜めて言った。
「さっきの難しい話…僕は残り半分は、意味が分かりましたよ。あなた達が作った人工の異世界が、僕らの生きてる世界であり、モリガン達が来た妖精界…そうですよね!?」
ウズメは顔を曇らせ、「仰るとおりです。ですが…」
「分かってます。だからと言って僕らの存在を卑下するつもりはありません。そもそも、紛い物が無価値ではない事は、僕が生涯かけて証明して来たつもりです。ただ、念のためモリガンにだけは黙ってて下さい。」
「ありがとうございます…」
ウズメ達が作った異世界の住人たちは、思いの外強かった。
「それで…僕らは何をすれば…」
「あなた達にはこれから、2組に分かれて、東と西へ行っていただきます。そこで………その後、あの『港街』の一番大きな屋敷に行ってください…」
第5話(LightningS掲載)に続く




