美味しくない聖女
小説書いてる途中で書いた息抜きの小説です。更新普通に遅いので気長に待っててくださいね★
「あぁー、めんどくさめんどくさ。聖女と会うのに厳重すぎんだろ」
ぶつくさと呟く長身の女性。部屋に窓はなく、ろうそくの薄暗い灯りのみが彼女を照らしていた。8畳ほどの部屋にベッドと机だけが置かれており、創られたホムンクルスのように青白い肌は酷く不健康的に見える。目は池の底に沈んだようにくすんだ黄金は暗闇を睨みつけている。彼女は机の上に用意されたステーキ肉を見ると不機嫌そうにつぶやく。
「切られたステーキにナイフ用意すんのかよ。過保護だなァ……」
フォークを目の前の壁の方向へ投げ捨てて笑うと牙が妖しく光る。肉の切れ端を残ったナイフで突き刺し口へ運ぶ。咀嚼の際にわざとナイフで頬の内側を傷つけ、ドロっとした赤黒い血液を流した。鉄の臭いが肉を包むと満足したようにうなずく。
うなずいた後に、やっぱり不機嫌そうにつぶやいた。
「あーあァ……自分の血ィ飲んで満足するなんて……中二のガキかよ」
彼女ことロントリアは滅国と呼ばれる吸血鬼である。滅ぼされた国の民は一滴の血も残さずに舐めとられていたとされる上、おとぎ話の世界にも出てくるほど古い魔物である為、その存在は絶滅指定とされ、これまで数百年にわたって何人も勇者パーティを送り込まれているはずだが、一度も討伐に成功したという例はなかった。
どのような考えの下で彼女が動いているのか、国やギルドは把握していないため手をこまねくが、彼女に言わせれば簡単である。「美味い血が飲みたい」の一言だ。美食屋なのである。だが、人に好みがあるように、彼女にも好きなものがある。かつては魔力の高い血液であったが、ある時勇者パーティを滅ぼしたときに呑んだ聖女の血が忘れられないとは彼女の談である。
「美味しい血は保存して守り、永遠に飲めるようにするべき」との理念のもとに聖女の再来を待ち望んでいた。そうして聖女の再来だと聞いたからわざわざ自ら聖教国に掴まりに来て私を殺せと言ったのである。
しばらく、ステーキを食べたのち、飽きたと言わんばかりに彼女は扉をたたき始めると、使者が準備が出来たと言い、彼女を鎖でぐるぐる巻きにした。ロントリアは何も言わず、それに従い、処刑場までついていった。
「彼女が聖女ちゃん? 先代とそんな似てないなァ」
「黙れ、神をも恐れぬ化生が。今すぐ聖女様と聖歌隊が貴様を浄化してくれるッ」
そうして聖歌を謳う彼等。食事時に曲が流れるのも優雅で良いかもな、と思う。まぁ、食事だろうがセックスだろうが、欲望が動かすもんに情緒の欠片もないもんだが。
そうして鎖を引きちぎる。どうにも分からない。なんで脆い銀なんかで私を縛ろうとしたのか。ミスリルだとかオリハルコンの方がいいだろ。舐めてんのかな。
聖女と呼ばれた子は私が鎖を抜け出すと思っていなかったのか、腰を抜かして涙目だ。恐怖って飯を上手くするんだっけ、不味くするんだっけ。鼓動早くなるから鮮血が飲めるんじゃねぇかな。まぁ聖女の血ならなんでもいいけど。
私より頭3つ分くらい低い彼女に口づけをする。出来るだけ肌を傷つけずに薄い部分から血を呑むためだ。彼女の口内で舌を動かし丁寧に血を舐めとって失望する。
「はァ……偽もんじゃねぇかよ。私をだましたのか神父サマ?」
でも、ここ数日幽閉されて自分の血を呑んでいたので、もっと飲もうともう一度口づけをする。かわいらしい悲鳴をあげて身体を震わせる彼女の顔も覚えてない。聖女じゃない血に心底興味はねぇから。でも言うとすれば、
「最上級のコース料理頼んでたのに、知らん家庭の料理食わされた気分なンだよ」
口づけの姿勢のまま彼女の下あごを食いちぎり、捨てる。私のウキウキした心を傷つけたから何も食えないグールになって償え。
「んで、お前たちは……まァいいや。許してやるからさっさと聖女見つけろ。分かったな」
偽聖女がグールとして動き始めたのを見て、歩いてその場から立ち去る。あーあ、数日は無駄にしたなァ……。まァ聖女生誕から10数年。そろぼち食べごろになってるだろうし、アタシも探しに行くか、と考えながら。
聖教国を抜け出すまでに、数人の血を飲み干したがどれもそんなに美味くは無かった。