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世界を創造するなら、自らが暮らす想像を!  作者: 嘘川こつめ
ver.1 世界の理
5/6

危機一髪の状況の後には、それなりの幸運を!

 

___翌朝。



「まて、こらぁーーーー!!」



 玲央はヴリンデルク近郊の平原で青白い物体を追いかけまわしていた。


 昨日の1件で色々と考えてはみたものの、何をしようにも今の装備のままでは強い敵と出会った場合に為す術なく殺られてしまうという結論に至った玲央。

ならば少しでも装備を整えようと、朝から平原での資金調達に精を出していた。


 玲央の記憶上、平原に生息するモンスターでドロップアイテムの換金率が高く、1番稼げるのは間違いなくブルだ。


 しかし、先刻もう1度妖精の短剣を使ってブルを倒して見たところ、どうやらモンスターはすぐにアイテムになる訳ではなく、その場に数秒程倒れた姿を残してからアイテムへと変わる事が分かった。


その結果、


「モンスターとはいえ、牛が倒れてるの見るのって、何か切ないよな」


 玲央の心は、言い知れぬ罪悪感に溢れた。

それに加え、妖精の探検のスキルは今のところ1度しか使えない。

短剣のみで牛1頭を仕留めるなど、まだまだ到底不可能な玲央は、早々にブルでの資金調達に見切りをつけた。


「せいっ!………お、今のはクリティカルヒットって感じ」


その後、玲央はたまたま出会った『スライム』1点に絞ってアイテムを集める事に決めていた。


平原にいるスライムはいわゆる最弱の種類になり、アイテムもあまり良い物を落とす事はない。

 しかし、その生き物から逸脱した見た目も相まってか、玲央にとってスライムを倒すことはナタデココを踏み潰すくらいの感覚。

心身ともに非常に倒しやすく、短剣のスキルを使わずとも勝てるお手軽なモンスターだ。

 それに加え、ドロップアイテムもハンドボール程度の大きさのスライム片が3つ程度。


他のモンスターのドロップアイテムと比べて非常に運びやすく、異次元の様な収納ができない玲央にとってはブルよりも効率が良いのだ。

 その証拠に、今朝宿屋を出る時にライアスから貰った大きな皮袋は既に膨らみ、玲央はサンタのような状態になっている。


「ふぅー、集めた集めた。そろそろ戻って金に変え………ん?」


 短時間で中々の量のスライム片を集め、そろそろ街へと帰ろうとしていた玲央は、不意に平原の奥の方に土煙が舞っているのを確認する。

 その土煙は等間隔で舞い上がり、徐々に玲央がいる方へと近づいて来ている。 

それに何かよからぬ気配を感じた玲央は、すぐさまその場を離れようと走り出した。

 しかし、土煙は途中で速度を上げ、走る玲央に向かいものすごい速さで接近してくる。

 そして土煙の中に大きな影がある事を視認できるほど近づいた瞬間、影は急にとんでもない跳躍を見せ、玲央の頭上へと降ってきた。


「うわ____っぶねー!」


 押し潰されそうになったその瞬間、玲央は咄嗟に大きく横へと飛び込むことで、なんとか直撃を回避した。

その直後、先程まで玲央がいた場所に、ドスンッ!という音と共に土煙が舞い上がる。


 やがて煙が晴れると、そこには見上げるような大きさの青白い塊があった。


「これ、スライムか!?」


 玲央は咄嗟に頭の中にある設定資料を思い返すが、こんな巨大なスライムの記憶はない。

 ここに来て最大のイレギュラーが登場した事で、玲央の動きが一瞬停止する。

 その隙を見計らってか、巨大スライムは玲央を押し潰さんと跳び上がった。


「……ック!」


 避けようにも初動が遅れてしまった玲央。すでに落下してきている巨大なスライムを回避するには遅い。

 普通のスライムならまだしも、情報も無く、見るからに普通とは逸脱したスライムの攻撃をまともに受ければ、防具を装備していない玲央が受けるダメージは相当なものになるだろう。

尚且つ、そのダメージを受けて仮に死んでしまった場合。

ゲームでは最後に寄った街の教会からリスタートとなるが、ゲームかどうか怪しくなってきたこの世界でそれを試すことは、あまりにもリスクが大きい。


「死ん____で、たまるかぁっ!」



 そんなリアルな死の可能性に直面した玲央は、反射的に袋を背中から降し両手に持つと、それをハンマー投げの要領でそのまま降りてくる巨大スライムへと力任せに叩きつけた。



ボヨォーーーーーーン



 緊迫した状況の中、間の抜けた音がその場に鳴り響く。

 そこには血の気の引いた顔をしながら、皮袋を握る玲央と、少し離れた位置で地面にめり込む巨大スライムの姿があった。


(…………本当に、死ぬかと思った)


 玲央は激しく脈うつ心臓を抑えながら、スライム片をパンパンに詰めたことでスライムハンマーと化していた皮袋を見る。

 咄嗟の判断ではあったが、コレを全力で振るう事で上手く巨大スライムを押し返すことに成功したようだ。

 助かったと一息つく玲央。しかし、すぐに思い直し、妖精の短剣を構える。

そして恐らくダメージは無いであろう巨大スライムへと注意を向けた。


 この即席ハンマーにより最大の危機は回避出来たが、所詮攻撃力も何も設定されていない皮袋に、弾力性があるとだけ説明欄に記載されたスライム片をくるんだもの。

今までの経験上、それ等を合わせたところで巨大スライムへのダメージは当然“ 0”のはずなのだ。


「これから装備を揃えようって時にっ!」


 そんな思いも束の間、やはり巨大スライムはすぐに起き上がり玲央のもとへと近づいてきた。


「うおぉぉぉおおおっ!」


 こうなれば此方から攻めるしかないと、皮袋をその場に投げ捨て、玲央は自ら走り出し、巨大スライムに向け刃を突き立てる。


グニョッ、ポヨヨン。グニョッ、ポヨヨン。


 しかし、何度短剣を突き刺しても、巨大スライムにダメージを与えられているという手応えは無い。

だが、無駄ではなく、刺す度にスライムの動きは止まるため、相手に行動させまいと玲央はそのまま短剣をサクサクと突き立てていく。


 暫くの間そんな状況は続き、永遠にこのシュールな作業が続くのだろうか? と、玲央が思い始めたその時だった。


グニョ、カツンッ!


 いつの間にかスライムの周りをぐるぐるしながら滅多刺しにしていた玲央の手に、今までとは違う感触が伝わる。


「…………おいおいおい」


 何やら硬く、押し込んだら軽く動き、力を抜けば元の位置へと戻るナニカ。

 細心の注意をはらいながら、色々な角度でそれを確かめてみた結果、玲央の中で1つの確信にも似たある思いが生まれた。



____これ以上このナニカを押し込んだら、絶対に良くない事が起きる。



 再び訪れた危機だが、またも玲央に考える時間はない。何故なら、攻撃の手が緩んだ事で巨大スライムが少しづつ動き出しているからだ。



____押すも地獄、戻るも地獄。



 玲央の額には汗がつたい、手は小刻みに震える。全身の神経が指先へと集中し、数センチメートルのずれすら許されない。まるで爆弾処理でもしているかのような緊張感が玲央を包み込む。


 永遠にも感じるその時間の中、スライムの体は徐々に地面へと沈み込み、もう一度玲央を押し潰さんと跳び上がる準備に入っているのが分かる。

 先程の場所へ皮袋を置いてきてしまった今、次にあの攻撃をくらえば回避する手段はない。



「く、いけぇーーーっ!」



 ならば道は1つと、内から湧き上がる恐怖を押し殺すように絶叫しながら、玲央は短剣を奥へと差し込んだ。


 直後、パァーーンという破裂音と共に巨大スライムの頭頂部が爆散し、何かが上空へと射出された。


 想定外の出来事に唖然とする玲央は、暫く射出された物体をポカンと見送っていたが、慌てて巨大スライムの方へと注意を戻す。

 しかし、そこに巨大スライムの姿は無く。その場には無数のスライム片が散らばっていた。



「倒した………のか? いや、でもさっきの」



 再び上空へと打ち出された何かへと視線を戻し、玲央は考える。


 今まで見てきた漫画やゲームの中で、敵のモンスターが死ぬ間際に行う行動でもっとも多いのは何か。


それは、プレイヤーを道ずれにする最後の攻撃。



そして、自らの命を犠牲にしてモンスターが最後にとる攻撃手段の定番と言えば____




「_____ば、爆発するっ!!」




 瞬間、玲央は脇目も振らずその場から全力で走り出す。爆発の規模は分からないが、この何も遮るものの無い平原で爆発から逃れるためには、最早爆心地から距離をとる他ない。

 そうこうしてる間にも、既に射出された何かは落下を始め、後数秒で地面へと落ちる。


「うわぁぁぁぁあぁぁあぁあぁぁぁあぁぁぁあぁあぁぁぁあぁぁ!」


 この世の終わりのような顔で雄叫びをあげながら走る玲央を後目に、無常にもそれは地上へと衝突した。




_______ぽとり。




「わぁぁぁぁあぁあぁぁぁあぁぁぁあぁあぁぁぁあぁぁ……………………あ、え?」



 しかし、辺りには玲央の絶叫が木霊するばかりで、何時まで経っても爆発音は疎か、爆風すら襲ってこない。


 不思議に思い振り向くと、爆心地となったはずの場所には何か光るものが落ちているだけだった。


 警戒しつつも、ゆっくりとその場所へと戻る玲央。そこに輝く光るものが爆発しないかどうか細心の注意を払いながら確認した後、手に取る。


「こ、これって」


玲央が手に取ったもの。それは『星の輝石(ほしのきせき)』というゲーム内の重要アイテム。

 プレイヤーはこれを5つ集める事で、ランダムに貴重なスキルや装備を得る事が出来る。言うなれば『ガチャ』を回すためのアイテムだ。


 ストーリーやイベント、又は課金することによってしか得られないはずの重要なアイテムなのだが、玲央の記憶ではこんな巨大スライムが出てくるイベントなど無い。


 最重要アイテムだけあって、これが手に入るイベントなどまだ数える程しかなく、それを忘れるというのは考えにくい。


やはりこの世界はゲームでは無い。そんな事を考えながら、今起こった出来事を思い返した時、ふと玲央の脳裏にこの世界に来る前に見た同僚の姿が浮かぶ。



『玲央くん、玲央くーーん! 見て見て! すごくない!? 黒ひげ危機一発の黒ひげの部分に発火装置を付けてみたの! ここに火薬と、さっき取った竹中部長の結婚指輪付けたらー、もっとハラハラするよー!』



「あ、これ絶対牧瀬さんの仕業だわ」


 その姿を思い出した玲央は頭を抱える。しかもこれが事実なら、ゲームに関係ないどころか、元の世界でゲームに追加された事がリアルタイムでそのままこの世界に反映されているという事になる。


「俺がいない事で、牧瀬さんの暴走がそのままストレートに採用されてるとしたら…………これは、本当に不味い事になってきた」


 どうしたものかと悩む玲央であったが、その時不意に、自らが手に持つ星の輝石の説明文を思い出す。



『星の輝石』

 虹色に輝く星型の石。5つ揃えると願いが叶うと言われている、大変珍しい宝石。



「願いが叶う、か」



 メニュー画面などないこの世界でガチャなど引けるかどうか分からない。

 しかし、何度も経験した通り、この世界はこういったフレーバーテキストの重要度が高い。

それならば、星の輝石を5つ集めることに成功すれば文字通り願いが叶う可能性があるということ。

そうなれば、



「これなら、帰れる!」


 そう確信した玲央は、晴れやかな顔でその場に散らばる大量のアイテムを回収していった。




_____その後、ヴリンデルクの市場にはスライム片が溢れ、スライム片の換金率が落ちたのは言うまでもない。



「何でそういうとこは現実味に溢れてるかなー……」



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