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世界を創造するなら、自らが暮らす想像を!  作者: 嘘川こつめ
ver.1 世界の理
4/6

突然の不幸には、まず神頼みを!

 

「え? あ、あぁ…………礼拝で」


 扉を開いてすぐに聞こえた、あまりにもやる気を感じない言葉に戸惑いながらも返事をする玲央。

 その声の主は、主祭壇上に肘をつきながら、寝起きですと言わんばかりの眠そうな瞳で玲央を見ていた。


「礼拝っすねー。では、こちらへー」


 女性に言われるがまま主祭壇の方へと向かう玲央であったが、視線はずっと女性へと向けられている。


 彼女が教会に居る事は分かってはいたが、実際に見る彼女の異様さに面食らっていたのだ。


 内に巻かれたセミロングの黒髪に、黄色に近い金色のインナーカラー。

 肌の露出も多く、そのメリハリの効いたプロポーションがハッキリと確認出来る様なパンクな改修がされた修道服。

そして、眠そうな目をしているが綺麗に整った顔。

 それら全ての要素が、この教会という場所の中で、彼女という存在の異様さに拍車をかけていた。


「牧瀬さん。やっぱり教会はちゃんとしようよ」


玲央はキャラクターデザインを担当した人物を思い出しながら頭を抱える。


「あれ、頭痛っすか? あたし回復魔法苦手なんすけど、試します?」


「いや、遠慮します。それより拝ませてもらっていいですかね?」


「はーい。じゃ、はりきってーーどぞっ」


「…………………」


 噛み合わないテンションに戸惑いながらも、玲央は中央奥にある女神を象った像へと向い手を合わせた。


 玲央が教会へと来た理由。それは、自らが全知全能と設定したこの『Palm World Online』の神を頼ることだった。

ここに来て、まさに神頼みなこの方法。しかし、その期待値は高い。


 何故ならこのゲーム内で礼拝は、自らが後どれくらいの経験値を得れば次のレベルへと上がれるのかを、神様から信託として確認するためのシステム。


ならば、ここまで経験値やレベルなどという言葉が出てくることがなく。

ゲーム的な設定より、フレーバーテキストなど、世界観に傾倒した設定が重視されているならば、教会は祈れば神と100パーセント会話出来るとんでもパワースポットになっている可能性が有るからだ。

 それ故、玲央はこの考えが浮かんだ直後に脇目も振らず教会へと来たのだった。


 しかし、不安も少なくは無い。

先程から真面目に手を合わせてはいるものの、ゲームとは言え神は神。そんなに簡単に現れるような存在なのだろうか。

 ましてや、お布施をするでもなく、ただただこうして手を合わせるだけで対話できるなど、あまりにも神という存在が安すぎる。

 玲央自身、既に心の中では半分諦めていた。





『___我、カエルム。冒険者レオの迷いを解かん。汝が欲するは何か?』






___しかし、神は安かった。




 何処からか体の奥まで響き渡る声が聞こえ、玲央へと問いかける。

 その現象と、あまりにも簡単に出てきてしまった神と思われる存在に驚愕する玲央。

教会の奥の方では先程の修道女が、え、何この声? 何か女神様の像、軽く光ってるんですけど、ヤバくないっすか? とか言っているがそれどころではない。


 出てきたからには山ほど聞きたいことのある玲央は、ゲーム内で有ればすぐにレベルの話になってしまう所に質問をぶつける。


「カエルム様! この世界が本当にゲームなのか。そして、この世界から戻る方法があるのか。どうかお答え下さい、お願いします!」


『そのゲームなるものが判別不能なため解答しかねます。

そして、貴方が元の世界へと戻る方法ですが、貴方の言う元の世界というものが何にあたるのか不明なため、判断を致しかねます』



「え、全然全知全能じゃ無い」



 告げられた答えに、思わず本音を口に出してしまう玲央。


『………………』


 何も言ってはいないが、女神の像から来る無言の圧力を感じ、直ぐに口を塞いで姿勢を正す。



『…………答えは出せませんが、世界には色々な効果を持つ道具や場所があります。そのどれかに貴方の求める答えがあるやもしれません』



 気を取り直し答えてくれた神の言葉に考え込む玲央。しかし、神の気配が稀薄になりつつあるのを感じ、すぐに次の質問をする。



「えっと、もう1つ質問なんですけど、何故俺はこの世界へ来てしまったんでしょうか?」


『そちらの質問にも解答を出すには難しいのですが、私が感じる感覚で答えるのならば、貴方の言う元の世界で存在していた貴方と、全く同一とも呼べる存在がこの世界に生まれ、貴方という存在が2つの世界に存在してしまっている事が原因ではないでしょうか』



 その答えに眉間に皺を寄せる玲央。自分とまったく同じ存在が生まれたとはどういう事なのか。どういう経緯でそうなったのか。玲央の中に疑問が渦巻く。



『それでは、冒険者レオ。汝の冒険に祝福があらんことを……』


 しかし、考えているうちに神カエルムの気配はその場から消えてしまった。


「…………あ、待って。あと1つだけ!」


 呼び止めるもすでに遅く、神の声は聞こえない。


「肝心な事1個聞き忘れた…………」


 頭を抱え後悔する玲央だったが、そこでふと思いつく。

 それは、ゲーム内での礼拝に回数制限などなく、むしろ無意識にその場に居続ければ、もう一度同じことを聞かされるくらいだったということ。


 ならばと玲央はその場でもう一度手を合わせ、祈り始める。

そんな簡単に何度も呼び出せるのかという疑問もあるが、玲央には勝算があった。

何故なら、



『___我、カエルム。冒険者レオの迷いを解かん。汝が欲するは何か?』




___神は安い。



 本当に再び出てきた事実に申し訳ない気分になる玲央だったが、すぐに質問を始める。


「俺はこの世界でレベルを上げたり、スキルを習得したりって出来るのでしょうか?」


『……貴方という存在はこの世界において、あまりにも奇異な存在。なので、明確な解答を申し上げることが出来ません』



「そう、ですか。それは…………困ったな」



『……………………』



「……………………」



『……………………』



「……………………」



『……………………』



「……………ん? あぁ、すいません。もう聞くことないです」



『……………………………それでは、冒険者レオ。汝の冒険に祝福があらんことを』



 神々しい声の中に多少の苛立ちが混じっていた様に感じられるが、神の気配はその場から消え去った。


 今の話を統合すれば、決して実りある情報ばかりではない。全知全能とは言え、それはこの世界の話。その設定が作られた側の世界の事は神と言えど分からないようだ。


「とりあえずなんで俺がこっちに来ちゃったのかと、戻ることが絶望的じゃないって言うのが分かったし、良しとするかな」


 玲央は先程のやり取りから希望が見いだせたのか、満足といった表情で教会の出口へと向かう。


「あのー、貴方様は実は中央教会のお偉いさんだったりしちゃいます?」


「………はい?」


 そんな玲央の前に、先程の派手な修道女が立ち塞がり、何かに怯えたように話しかけてきた。


「えーっと、違いますよ?

 さっき祭壇に居たのはお掃除してたからですし、この服も……………この協会を襲わんとする邪教徒との激しい戦いの末に、この見た目になっただけですよ?」


「いやいやいや、無理があるだろ」


 その修道女は何を勘違いしているのか、矢継ぎ早に玲央へと弁明をしてくる。

それはさながら、バイト中サボっていた所に本社の社員が来てしまったかのような慌てぶりであった。


「何でも………いや、何でもは無理ですけど、できる限り………いや、できる範囲で頑張りますのでどうか!」


「自分でどんどんハードル下げんなよ。というか俺別にその中央教会の偉い人とかじゃないんだけど」


「神の御前でそんな見え透いた嘘言います? 急に来て神と対話しちゃうような人が教会と無関係とか有り得ないでしょ、ウケるー」


「よし、分かった。教会の人間じゃないけど、教会にはお前のことを伝えようと思う」


「えぇー! それはないっすよー。止めてくださいよー、あたしとお兄さんの仲じゃないっすかー」


「仲も何も、まだ名乗ってすらない!」


「あ、ティグリスでーす。以後よろしくー」


「……………れ、玲央です。よろしく」



 ティグリスがこういう性格であろう事はキャラの設定から分かっていた。

 しかし、実際に相対した時の面倒くささは玲央の想像を絶するものだった。

色々あった今日1日の終わりに、疲れという観点から見れば、最大の敵になりそうなティグリスから逃げるために玲央は早めに退散することを心に決めた。


「わかった、わかった。その教会には言わないし、俺も本当に教会関係者じゃないから、とりあえずもう帰ってもいい?」


「そんなこと言って後で罰とか下されるんすよね? 絶対むりー。その扉を開けたくばあたしを倒してからっすね」


「面倒くさ。よし、ちょっと待ってろ、今神様に俺が関係ないって事を証明してもらうから」


 玲央に向かい威嚇を始めたティグリスにイラつきを覚えながらも、玲央は再び祭壇の方へと向かい像へと祈りを捧げた。



『___我、カエルム。冒険者レオの迷いを解かん。汝が欲するは何か?』



「あ、すいません。ちょっとご相談なんですけど」



『それでは、冒険者レオ。汝の冒険に祝福があらんことを……』



「………………」



 願いは届かなかった。



「ダサッ! 神に見放されてやんの! アッハッハッハッハッ」


「うるせー! ちょっとばかし短時間に神様利用しすぎただけだ! 明日になったらまた話聞いてくれるよ…………多分」


「なんか今ならあたしでも呼び出せそーっすよね。今度やってみよーっと」


「………なんか疲れた。おい、自分で言うのもなんだけど、こんな奴が教会の偉いやつな訳ないだろ。もう帰るからな」


 何やら楽しそうな様子のティグリスに対し、どっと疲れた様子の玲央は重い足取りで出口へと向かう。


「あーウケたー。あ、レオちんレオちん。なんか大変そうな事神様に相談してたみたいだけど、あたし手伝ったげるから、いつでも来ーてねっ」


 そんな玲央に向かいティグリスは満面の笑みでそういうと、大きく手を振る。


 それを見て、ため息と共に軽く手を挙げた玲央は、扉を開けて教会を後にした。


「…………レオちんって何だよ」

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