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世界を創造するなら、自らが暮らす想像を!  作者: 嘘川こつめ
ver.1 世界の理
2/6

色々試すには、まず情報収集を!

 

「うぉっ! ………なんだ兵士さんか」


 突然の呼びかけに動きを止めると、そこには先程の兵士がジトッとした目で玲央を睨んでいた。


「なんだ、じゃなくてだな。今度は一体何をしているんだ?」


「す、すいません。まだそのぉ…………混乱? が治ってないみたいで」


 メニューを呼び出している!と、堂々と言うわけにもいかず。

かと言って何を言っても怪しまれそうな状況なので、玲央は先程同様魔法のせいにすることにした。


「まだ治らないのか? ……うーん、そもそもパニクルを使ってくる奴なんて、この街の周りにいたかな?」


――――いない。玲央の頭は即座に回答を導き出す。


「え…………あ、あぁ! 思い出した思い出した! 沼地だ! 西の沼地まで行ったな、そう言えば!」



 ここで怪しまれるわけにはいかないと、玲央は自らの知識をフルに使い。

この街から1番近く、尚且つ混乱の魔法を使うモンスターが出てくるエリアを咄嗟に口にした。


「西の沼地ぃ!? そんな丸腰であんな所まで行ったのか!?」


 しかし、玲央のその言葉に兵士の男は驚愕の表情を浮かべる。

 何故なら、西の沼地はこの街周辺に比べ、難易度がかなり高く。モンスターも状態異常に特化したものが多く設置されている、プレイヤー達の最初の壁になるであろう難所。

 無論、そこにパーカーで行くなど、殺してくれと言うようなもの。


「いや、えぇっと…………そう! 装備を落としてしまったんだ! くっーぅ、あれさえなければぁ」


「装備を、か ?何かよくわからないが、色々とあったんだろう。

ま、とにかく、少しづつ思い出せてるならよかった。頼むからもう変なことはしないでくれな」


「も、申し訳ないです」


「とは言ったものの、何だが兄ちゃんが可哀想になってきたなぁ。

…………よし、これをやるからまた頑張ってくれよ」


 落ち込む玲央を不憫に思ってか、兵士は懐から鞘に軽く意匠が施された簡素な作りのナイフを差し出す。


「え、いいんですか!!?」


「あぁ。元々だいぶ前に拾ったものなんだが、探し主も現れんし処分に困ってたとこだし、構わんよ。

ま、それで上手くいったらエールの1杯でも奢ってくれよ? それじゃあな、兄さん」


 そう言って、ニカッと笑って去って行く兵士。

その背中に玲央は、兵士さんお名前はっ! と聞くが、兵士に名乗る名は無いよと言ってそのまま立ち去ってしまった。


「これが恋愛ゲームなら、俺は迷わず兵士さんルートを選ぶくらいにはトキメいた。

これは何がなんでも元の世界に帰る方法みつけて、あの兵士さんにキャラネームを付けねばっ!」


 新たな目標を胸に、貰ったナイフを装備――――もとい、パーカーの前ポケットへと入れる。

そして、やはり行かねばならぬと街の入口の方へと視線を向ける。


 己のステータスもスキルも、兵士から貰ったこのナイフでどれだけ攻撃力が上がったのかも分からない状況。

それでも今の玲央にはモンスターと戦う事が最重要課題。


「よし、やってやるっ!」


 そう叫ぶと、玲央はそのままの勢いに任せて全力で街の外へと駆け出した。



***********************



 ヴリンデルク周辺に広がる平原。

その周りは山や森が取り囲み、各プレイヤーの冒険はこの場所から始まる。

 基本的にはいたって平和な場所だが、モンスターがいないというわけではない。

 むしろ、最初のレベル上げと戦闘のチュートリアルを目的として創られたこの場所は、モンスターとの遭遇率は高い。


___ので、


「きぃぃやぁあぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁあぁぁぁあぁあぁぁぁあァぁあぁぁぁあぁぁあぁっっっ!!!」


 玲央は絶賛、牛型のモンスターに追いかけられていた。


「無理無理無理無理無理無理っ! 闘牛じゃん! こんなのもう闘牛じゃん!」


『ブル』と名ずけられたそのモンスターは、初心者エリアの平原でも数が多く、遭遇率が高い。

しかし、基本的には真っ直ぐに突進する事しかしないので、戦闘は容易い。



「容易くねーわ!何考えてんだ宮本(みやもと)ぉおーーー!」


 玲央はモンスターデザインとモンスターの設定を担った同僚の顔を思い浮かべながら必死に逃げる。


 しかし、相手はモンスターと言えど牛。人の足で逃げ切れるわけも無い。


_____このままでは殺られる。


 そう思った玲央は、自らの尻に突き刺さろうとしている角を何とかギリギリで回避し、体制を立て直す。

 目標を外しその場を通り過ぎたブルは、すぐさま迂回して玲央の前へと戻り、両者は再び対峙した。


一触即発となった場面で、玲央は心を決める。

そしてブルを警戒しながら、ゆっくりと自らの手に持ったナイフ抜き放ち、刃先を見つめ______



「___思ったより短いっ! ダメだ! 無理!!」



玲央は全速力で撤退した。


*****************


 まだ街からそこまで離れていなかった事が幸いし、玲央は何とか逃げ延びることに成功した。


「ふぅーーー。何だろう、全然このゲーム内で成功するビジョンがみえない」


 玲央は深いため息と共に、街の門付近のベンチで再び絶望の縁へと立たされていた。

 

先程の戦闘。何度思い返しても、玲央には恐怖の感情しかなかった。

そもそもつい先刻まで現代社会で暮らしていた一般人。急に牛と戦えという事自体が無理な話だろう。


 だが、何はともあれ残金ゼロ。何をするにもお金は必須。

そしてなにより、



「………やっぱり腹は減るんだなぁ」



 金がなくてはお腹も満たせない。

痛みなどの感覚がある事により薄々気づいていた事だが、やはり空腹感もある。

と、なればやはり、モンスターを倒すこと以外に今は道がない。

そう思い直した玲央は、まず自らの知識をフル活用し、平原のモンスターへの対抗策を考えることにした。


まず先程の『ブル』

これは、ほぼほぼただの牛と考えていいモンスター。平原で1番攻撃力があり、素早さも高いが、体力は20と少ない。的確に攻撃を当てれば、確実に倒せる相手だ。

しかし、実際に対峙した時、その牛である事がこれ程の恐怖になるのは完全な誤算であった。


「てか、20って実際問題どうなんだ。

そもそも俺がパンチした所で、それが1ダメージって換算されるのか?」


 設定を思い出していた玲央は、ふと疑問に思う。

ここがゲームなら、どれだけ攻撃力が弱いプレイヤーでも、殴ったり蹴ったりすれば1ダメージにはなる。

ならば、玲央の力でも、20回当てれば牛が倒せるという事。

 しかし、生の迫力を見た玲央にとって、アレを20回殴っただけで倒せるなどとは到底思えないのだ。


「やってみるしかないよなぁ」


 兎にも角にも答えはやってみるしかない。玲央は重い腰を上げて、また1歩1歩平原へと向かって行った。


************************



____再び眼前に広がる平原。

 


そこには、3種類ほどのモンスターがポツポツと確認できる。


 突然ブルに襲われた先程と違い、冷静に視認すれば小さな兎型のモンスターもいて、そちらの方が比較的倒しやすそうである。

実問題、元の世界でも覚悟を決めれば倒せる相手だろう。


__しかし、玲央の目下の目標はブル。

何故なら、これを乗り越えずにこの世界でモンスターと戦闘することなど不可能だ、という想いが玲央の中に芽生えていたからだ。



「………っ! いやがった」



 探索せずとも、それはすぐに見つかった。

城門の近くを彷徨っていたところを見ると、どうやら先程のブルと同一個体の可能性が高い。

玲央は、リベンジだとばかりに勇気を振り絞り奇襲をかける。


「うっりゃ!!」


 玲央はここに来る途中に拾った石を、全力でブルへと投擲する。


 決意を決めたと言えど、そこは一般人な玲央。

いきなりナイフで切りかかるなどなど出来ず、殴るもぶつけるも同じと、物陰から石を当てるという姑息な戦法へと移行したのだ。


『ブモッ!? ブモ! ブモォーーーッ!』


 石が当たり、怒りをあらわにするブルに構うことなく、玲央は木の影からピッチングマシンの如く一心不乱に石を投げていく。


 2つ、3つと自らの位置がバレぬよう移動しながら石を投げ。


 ブルがその場から逃げようものなら、追って石を投げ。

 

石が無くなったら補充し、石を投げ。

 

時折、より有効にダメージが出そうな部位目掛けて石を投げ。

 

もう少し速く投げられるのでは? という疑問と共にフォームを改善しつつ石を投げ。

 

石の形や投げる角度、握り方などで変わる軌道の変化を楽しみながら石を投げ。

 

あの日、日が暮れるまで何時間もやった河川敷での水切りに思いを馳せながら石を投げ。



__石を投げ。

__石を投げ。

__石を投げ。


 



______そして、日は暮れた。





「………………」



 夕日に照らされた1人の男と、既に石がぶつかることなど気にせず、平原の草を咀嚼する牛1頭。

なんとも言えない物悲しさがその場を包む。


 玲央が投げた石の総数は100をゆうに超えている。しかし、ブルは倒れるどころか傷1つ負っていない。


自らの攻撃力がゼロなのでは? そんな思いが玲央の中を駆け巡る。

しかし、それにしても傷一つつかないのはどういう事だろうか。

そもそも、このゲームに石を投げるというアクションはあっただろうか?

 そして、この手に持っている『石』というアイテムに『攻撃力』など設定しただろうか?

玲央の中に様々な疑問が渦巻く。


その疑問の答えは全て否。


 ともすれば、この状況は当たり前と言ってもよく、現在玲央を包んでいる9回裏まで投げきった投手の様な疲労感は、無駄と言っても過言ではない。


「でも………それが分かっただけでも収穫はゼロじゃない。

こっから逆転サヨナラ満塁ホームランだ!」


石の投げすぎにより少しばかり野球ハイになってはいるが、玲央は活力を取り戻し、今度は真正面からブルへと向かう。


「ゲームの設定を守ってるって事なら、このナイフで最低でも20回攻撃すれば確実にいけるって事だよな」


 確信を得た玲央は、腰のナイフに手をかけながら、ブルへと向かい一直線に駆けて行く。

 自らへと迫る気配に、ブルも再び戦闘態勢に入り、視界にとらえた玲央の方へと全力で走り出す。


 共に全力で接近する両者。そこには何の打算もなく、力と力で勝負する覚悟が見えた。



___あ、ヤバい。怖い。



 が、今まさにぶつかるという刹那。玲央の覚悟は完全にブレた。


 近づけば近づく程、肉の塊と言ってもいい体積と、殺傷力の高そうな角が玲央へと迫る。

同年代の中でもかなり小柄な体格の玲央など、どう足掻いても撃ち負ける未来しか見えない。


それに加え、何故か無駄にカッコつけてしまっている玲央。武器はナイフだと言うのに、まるで居合抜きでもするかのような体制でまだ鞘から抜いてもいない。



「わぁぁぁぁ………っ!? え、ふあぁぁぁーーーーー!」



引くに引けず、怒声と共にナイフを引き抜いた玲央。

その瞬間、閃光が迸り、両者を爆風が襲った。


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