③奇襲! バケツ狭間
今川義子。
チェリーボーイ高校教職員室に君臨する女帝。保健体育科の教員である。
神奈川県県央部に位置するチェリーボーイ高校に、新たなる騒乱を予想させる砂煙が舞い上がっていた。
軍師、洞庭が動いた。
「殿〔麻生の事〕、間者の小名似の報告によりますと、本日の修学旅行の説明HRのあとに、『特別講習〔女子〕』という枠が設けられているということでございます」
「うむっ、いよいよ合戦の時は来たれり。して、その戦術は?」
「ははっ、殿はこの説明HRの時間の前にあらかじめ教室のロッカーに忍び込んでおいていただき、敵将・今川義子の講習を盗み聞きする、という作戦でございます」
「バレたら、間違いなく軽犯罪法には引っ掛かりそうだな」
「おそらく、今川義子に血祭りにあげられましょう」
「文字通り、背水の陣ということじゃ」
何のことはない、教室後ろのロッカーに隠れて、女子への極秘の説明を立ち聞きしようというのだ。
ロッカーの足元にバケツがあり、足場が狭くなっていたため、この作戦を『バケツ狭間の戦い』と呼ぶことにした。
「では、健闘を祈る」
「おおっ!」
修学旅行説明HRの更に前の休み時間に、麻生は洞庭と小名似の陰に隠れてまんまとロッカーに忍びこんだ。
「しめしめ、細工は流々じゃ」
麻生はそのままじっと、修学旅行説明HRの終わるのを待った。
やがてチャイムが鳴り、HRは終了。
「それではね、ここからは女子だけにお話があるので、女子だけ残って男子は下校してよーし!」
今川義子の声がした。
いよいよだ
なんか無茶苦茶緊張してきた。
他のクラスからも女子か入ってくる音がする。
女子が着席したようだ。
今川義子の説明がはじまる。
「それではですね、今回の修学旅行の、女子の持ち物について、説明します」
持ち物?
持ち物なのか?
麻生は溢れかえる女子臭と、あらぬ妄想、さらにロッカー内での閉塞感で、異常な興奮状態になってきた。
股間のイチモツの位置を修正しようとして、膝をロッカーの扉にぶち当ててしまった。
ガタッ! と大きな音がして、後ろの方の席の女子は「ひいっ」とか「なになにっ!」と悲鳴を上げる。
「なんですか! どうしたんですか?」
「今川先生~ なにか後ろのロッカーの方で物音が……」
今川義子が、大きな地響きを上げてロッカーに突進してくる。
ロッカーの前に仁王立ちし、静かに様子をうかがうようにしている。
麻生は興奮と緊張のあまり、過呼吸状態の喘ぎ声をあげ、もうバレバレだ
「だーれーでーすーかー 出てきなさい(# ゜Д゜)!!!」
今川義子が力任せにロッカーの扉を大きく開け、麻生は前のめりに床に倒れ込んだ。
「ひいいいい!!」
「ぎゃあああああ!!」
女子生徒の悲鳴が響く!!
「あんたは、C組の麻生くんね!」
麻生は反射的に土下座をし、今川義子に大声で訴えた。
「すいませええん! どうしても、どうしても、この女子の秘密が知りたかったんです」
しばらくの沈黙のうち、半数の女子の大爆笑と半数の女子の怒号に教室はつつまれた。
今川義子は怒りの顔から、やがて大魔神が普通の顔にもどっていくように、あきれ顔 ☞ やがて憐みの顔へと変わっていった。
「あのねえ麻生君、いくら探求心旺盛だからといって、やっていい事と悪いことがあるからね。罰として、修学旅行中は女子は誰も麻生君に話しかけないようにするからね。修学旅行終わったら、この今川おばさんがいちからみっちりイヤってほど教えてあげるからね」
再び女子全員の大爆笑!
終わった
完全に終わった。