他言無用、多言不要
男が2人。この後何も起きないはずがなかった…
「って何勝手に話を作ってるんですか!?」
すかさず司がツッコミを入れる。
実のところ何か起きた後、と言うわけでなく後日勝手に由美が作った架空の話である。
「せっかく私たちがいい場面作ってあげたんだからちゃんとやる事やりなさいよー」
「場面を作ってあげたって勝手に酔い潰れたんでしょ?!あの後大変だったんですよ?!」
涼宮と協力し沙耶のゲロの処理、そして眠る3人をリビングのソファーに運び布団をかけてあげた。勿論それ以外にも食器を片付けて洗ったり残った食事をラップで包み冷蔵庫に入れたりもした。
その後、司も涼宮も疲れ果て、酒は結局最初のグラスに入った分しか飲まなかったものの眠たくなりすぐ自分の部屋に戻って寝たのだ。
「つまんないなー…てか、運ぶ時変なとこ触らなかったでしょうね!?」
「触ってませんよ!そんな変態と勘違いしないでくださいよね?その辺ちゃんと弁えてます!」
涼宮は由美たちの二日酔いを懸念するがここで食い下がると罪を認めるのと同じ。(何もしてないが…)なので思い切って大きな無声で否定する。
「ほんとでなんでしょーねぇ?」
由美は疑い深く涼宮を覗き込むが断固たる態度で何もしていない事を示す。
疑いは晴れていないようだが由美がこう話を切り出す。
「そー言えば聡美さん、昨日ルールを作るって言ってませんでしたっけ?」
「そうね言ったわね。すっかり忘れていたわっ。帰るときにみんなが倒れちゃったからー」
そう言われて「全くその通りです」と、何も返す言葉がない4人。
その4人を見て少し気の毒に思った聡美が仕切り直す。
「そうルールよね。私たちが楽しく安全に同居するにあたってちゃんとルールを作ろうと思うの」
4人は何も発さず賛成の拍手をする。
「まずはルールの土台を作りましょう。土台っていうのはルールを作るにおいて最も大切にするべき点ね」
「はいっ!」
「由美さんどうぞ」
どうやら挙手制のようだ。由美がそんな雰囲気を作り出した。まぁ会議みたいなものだし…と許容する聡美。
「やっぱり私たちはストーカーに狙われている身なのでプライバシーの保護を求めます!」
「つまるところ由美に盗聴されずに済むのか……だけど…」
「そうなんです沙耶ちゃん!」
「!?」
まだ何も言っていない沙耶に対して同意する由美。それには沙耶もビクッとする。
「そうなんです私たちはストーカーに狙われる身でありながら、ストーカーで狙う身でもあるんです。なので完璧なプライバシー保護をされてしまうと死活問題なのですよ」
その通りである。ここに済む人間は追う側であり追われる身である。もはや盗聴などが趣味に達している人間に対して完全なる規制を施すのは首を絞められると同様に苦しいのである。
そしてうんうんと頷く男2人。
「だからせめて盗聴だけはありにして欲しいんです!私もそれくらいなら我慢できます!嫌だけど…どうですか聡美総理」
「そうね趣味を断つって言うのは息苦しいものね。それに盗聴ならあまり独り言をしない限り大丈夫だし…盗聴はありにしましょう」
独り言はともかく盗聴で恐ろしいのは知人との会話だ。知人との会話は個人情報が多く露出してしまう。
そんなリスクはみんな承知しているのだが、みんなの盗聴したさ故に盗聴はありの流れになった。
「はい」
「はいどうぞ涼宮くん」
「GPS発信器はありですか?」
ここで「バナナはおやつに入りますか?」みたいなノリでGPSを持ってきた。
「こんなの断然なしでしょ!だって私は使ってませんもん!少ししか…」
由美は反対の立場を取る。続けて沙耶も、
「GPSは確実に場所がわかる故に簡単にストーキングが出来ちゃうわね。私も反対かな」
「司さんは?」
「そうですね。私もGPSを使えなくなるのは痛手ですが反対派がいる中する勇気もないですね」
あくまで司は民主主義的に反対に回る。
「司くんはいいんじゃない?私たち関係ないし」
「そうね被害者は涼宮だし。でも涼宮が使用するのは無しね?」
「なんで私が被害者ならいいんですかっ!」
勿論被害者が他人なら例外は許す。とは問屋が卸さない。
「司さんの言う通り多数派にみんながで足並みを揃えましょう。たしかにGPSは確実にストーキング可能な代物ね。でも被害者側からすると嫌極まりないからみんな無しにしましょうね」
聡美の「嫌極まりない」と言う言葉が沙耶にクリティカルに刺さる。
「じゃあOKなのは今のところは盗聴だけ。それ以外は禁止って事でいいかしら?」
4人は賛同の拍手をする。
「でもこれはあくまでβ版みたいなものだから『これはいいの?』ってのがあったらまたの会議で決めましょう」
一、プライバシーを守る(盗聴は可)
()内ですでに矛盾している一つの原則が出来上がった。




