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ライカンスロープ  作者: 葉倉千緒
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悲しき語り

「……すみません。私、自分で言っておいて、その……」

「友里恵は悪ないよ。だーれも悪ない。けどなぁ……」

「おれのヴァンパイアもちょっとアレだけど、うーん」

「シオのフランケンも無理やり感あるけどさ、ハッセーが狼って」

「みんなが言いたいことは分かってるよ」

長谷川が鼻で息を一つ吐く。


「……ハッセー、狼っちゅーか」

「羊だよねー」

「肉食か草食かって言われると、ゼッテー草食だし」

「同感です……」

「食うより食われるタイプやな」

「……更に一言。信じられないと思うけど、俺、動物占いでは狼なんだよな」

「嘘や、嘘や、嘘やぁ……認めへん。わえのペガサスよりありえへん」

「友里恵、オタクの世界では狼男ってどんなだし?」

「ええと……ワ、ワイルドが絶対…………」

友里恵もトーンダウンせざるを得ない。目の前の長谷川、彼にはワイルドさの欠片も無いからだ。松崎よりはマシにしろ、長谷川も無気力というより覇気がそもそも感じられないタイプの人間だ。


「狼男はこっ、小麦色の肌で、眼がギラついていて、それでいて爽やかな白い牙をちらつかせて……その、その……」

「もうええ! もうええ、友里恵! 無理すな! 哀しくなるさけ、説明せんといてやっ!」

「……俺が狼男からかなり縁遠いことはよーく分かった」

やれやれとばかりに、長谷川は頭を振る。


「身長172センチ、体重56キロの痩せ型。色白で、スポーツより文科系の部活で高校を過ごした。筋トレなんかしたこともない。一重瞼でいつも眠そうな顔、目力なんて皆無。そして、恋愛経験もゼロ……分かってる、分かってるさ」

「草食系男子を地で行ってるねー、ハッセー」

「松崎、おまんは傷口に塩を塗り込むなよー!」

「草食系? おいおい、俺は更にその上を行くぜ? 昔、俺は友人から女子を紹介されて、カラオケで二人きりのセッティングをしてもらったことがある」

「……何な、ハッセーの語りが入ったで?」

「ねー、珍しいねー」

「友人も俺の奥手を見兼ねたんだろうな。でも、そのカラオケで二人きりのシチュエーションで、俺はどうしたか分かるか?」

「わ、分からへん……どないしてん?」

「俺は、歌った。ひたすら歌っていたんだ」

「歌ってた? その女の子とデュエットかいな?」

「いいや、違う。俺のソロライブだ」

「あちゃー。やっちゃったねー、ハッセー」

「ああ、やっちまったさ。女子がAKBだかHKTだか乃木坂だか、流行りの歌を歌っていたけど関係なかった。俺は俺が歌いたい歌を歌っていた」

「ハッセー、何歌っててん?」

「洋楽」

「洋楽? レディー・ガガとかビヨンセとかか?」

「違う。エモ系、スクリーム系。ラウドパンク」

「何な、分からん」

「日本でいうワンオクとかかなー?」

「そんなメジャーじゃないさ。かなりマイナーなバンド。とにかく、歌っていた。むしろ、叫んでいた」

「……女の子、置き去りやろな」

「そうだ、そうだったさ。終始、ポカーンとしてた。デンモクとケータイばかり弄っていた。俺はそれでも構わなかった。絶対に入ってないだろうと思っていたバンドの曲が入ってたんだ。俺のテンションは上がったね。そして、止まらなくなったさ」

「ワンマンライブやな」

「アンコールは無いけどねー」

「なかなか抉ってくるな、松崎。そして、俺のソロライブ終了後。俺は歌いきった爽快感で、女子にアドレスを訊くのを忘れてしまった」

「痛い失念やな、そえ」

「ああ。その女子とはそれっきりさ」

「ハッセー、訊いてもええか?」

「何だ?」

「そえ、いつの話?」

「……大学に入ったばかりの頃だ」

長谷川は仲本たちに背を向ける。その際、彼の目尻にきらりと光るものが見えた。


「ちゅーことは、その女の子て、もしかすると……」

「この大学の文学部にいる。確か、現代表現だ」

「あかん、わえ、知っとるわ……女子連中が話しとるの聞いたことあんねんけど、そないな話聞いたわ……そえ、ハッセーやってんな」

「ああ……」

「えー、誰なのー?」

「詮索すな! おまんの知らんやっちゃ!」

「……それからというもの、俺は恋愛感情というものがなくなった。トラウマだな。差し出された流動食を無駄にして、絶食状態に陥っている。草食系はまだ草を食っているからまだいい。俺は何も食っていない、現在進行形で断食系男子だ」

「そえは、ストイックて言うたらええの?」

「……分からない」

振り向かず、長谷川は否定する。


「飯は食べなきゃダメだよー」

「そないな話とちゃうわ! 友里恵、狼男以外に何かあるか?」

「あ、あることにはあります……」

「そえは何な?」

「ジャックオランタンです……」

「あー、カボチャだねー」

「はい。ですが、ジャックオランタンは飾りで、コスする方はあまり……」

「いいよ、分かった。狼男、やらせてもらいます」

一同に向き直る長谷川、その顔から「渋々」という感情が手に取るように感じられた。


「全員、役が決まったな」

「ほんで、衣装はどないすんの?」

「魔女は私が持っています。ヴァンパイアは、パーティーグッズコーナーでご購入ください」

「はーい。ドンキかロフトで買ってきまーす」

「松崎、領収書は出せよ。後でサークル費から出すから」

「シオのフランケンシュタインは?」

「私がメイクしますので、衣装は特に要らないかと。強いて言うなら、女性のファッションは避けて欲しいかなと思います」

「オッケーだし。何とかするし。仲本のミイラは買う必要ねーしな」

「何でな?」

「医学部から包帯パクってくるし」

「何な、安上がりやな」

「で、狼男は?」

「うーん。付け牙と獣耳カチューシャの黒か茶色が必須ですね」

「そうか。まあ、俺もドンキホーテなりで適当に見繕ってくるさ」

「そうですか。長谷川さん」

「友里恵?」

「私、コスメイクに自身があるので、長谷川さんをメイクで狼男にしてみせますから!」

サムズアップで輝かしいまでの笑顔の友里恵。何が彼女をここまで駆り立てるのだろうか。


「あ、ああ。ありがとう」

「私、ハロウィンキャラで狼男が一番好きなんです! お互いに頑張りましょう!」

「……友里恵、学科でもこんな感じなのか?」

「はいっ!」

将来、彼女はどのような看護婦になるのだろうか。


「じゃあ、解散」

「うーい」

「じゃあねー」

「はい」

「また明日だし」


一同はサークル部屋を出た。

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