踊る会議
「で、会議を始めるか」
「議題は何な? ハッセー」
「来る、ハロウィンについて」
「ハロウィンて、あがららしくないわな」
「無気力私大なのにハロウィン。ハロウィンはどっかの外語大の役目じゃないのかなー」
「松崎が言うなし。シオたちは無気力じゃねーし」
「ハロウィン、賑やかですね。私、お祭りが好きなんですよ」
「……ハロウィンに託つけて、コスプレしたいんとちゃうか、友里恵」
「んっ……!」
本日、二回目の図星の友里恵。
「仲本、友里恵イジメんなし」
「イジメてへんわ。ハロウィンいうたら、コスプレの機会やろ」
「な、仲本さん、何で知ってるんですか?」
「そら、わえは文学部やし。現表の連中はそないなのが多いんよ」
「仲本くんも誘われたのー?」
「何に?」
「コスプレさー」
「おう、誘われてんで」
「何のコスをなさるんですか?」
「わえは衣装持ってへんさけ、現表の連中が衣装持ってきよるんよ。でな、ライアーゲームの眼鏡やて」
「ノーメイクでハイクオリティーだな」
「じゃかまし。わえかて乗り気やないわ」
「合わせはあるんですか? 秋山さんとか、なおちゃんと」
「そえがよー、あらへんのよ。普段のわえがレイヤーたちの側におんねん」
「何が面白いんだ、それ」
「知らんやいしょ! 去年の惨事がアゲインや!」
「去年は何やったのー?」
「デトロイトメタルシティの根岸や」
「クラウザーさんじゃなくて、根岸さんですか?」
「そや! 眼鏡外しただけや! ノーメイクやったやいしょ! せめて、アコギくらい持たせーよー!」
憤慨し、拳骨でテーブルを叩く仲本。額に青筋が浮く。何とも卑猥な出で立ちだ。
「仲本、そこは『僕がやりたかったのはこんなのじゃない!』って言えし」
「アホ! そない言うとる場合ちゃうかってん!」
「で、仲本のコスプレ体験談はひとまず脇に置いといて」
「脇に置く? 何や、また弄くるんけ?」
「まあな」
「ハッセー、ハロウィンにウチは何をやるのー?」
「サークル・同好会連合会では、ハロウィンに向けて各自で何かコスプレしろだと」
「コスプレかー」
「わえが話の導入になったな」
「何をやるのか、ジャンルに困りますね」
「友里恵はキャラコスやろ。とうらぶやったらええわ」
「なっ……! わ、分かりました。今回はとうらぶにします。鶴丸やります」
「友里恵、他にやりたいのあったのー?」
「ナースです」
「どーせ、卒業したら着るんだから新鮮味ねーし」
「そやな。看護学科やし」
「今日の私、オタク属性だって広がってる気がします……」
「隠しとるつもりやったん? バレバレやで」
「友里恵、腐女子属性もあるし」
「ちょ、ちょっとぉ! シオちゃん、それは言わない約束じゃ……!」
「えー? ルーズリーフに描いた男子の絡み、やべえ上手かったし」
「何な、友里恵。そないな絵も描いとるんか」
「……………………」
腐女子であることも暴露された友里恵。言葉もなく、赤面して俯いたままだ。
「因みに友里恵、男の体に穴は一つだし」
「えっ!? 二つないんですか!」
「やおい穴は現実にはねーし。肛門だけだし」
「そっ、そんな……」
「何な、えらい落ち込みようやな」
「わ、私……私の中で何かが音を立てて崩れて……」
「病院に勤務するようになったら、若い男の患者の排泄介助したいって言ってたのはそういうことかよ。動機が不純だし」
「えらいド変態やな、友里恵」
「ああ…………!」
友里恵はふるふると頭を振る。腐女子であることに加えて、変態であることも追加されてしまった。
「中学の保健体育でやらんかったか?」
「実は私、中学と高校と女子校でして……」
「話を進めるぞ」
「……はい」
「コスプレのネタだけどさ、友里恵が鶴丸? 何か、そんなキャラクターやったら、俺らのネタに困るんだよ」
「だよねー。おれ、とうらぶって分からないしー」
「シオも」
「わえも」
「……味方はいないんですね」
「コスプレ、ポケモンでいいんじゃね?」
「ポケモン? 何な、あがらがピカチュウとかやるんか?」
「人間じゃないから、難しいよー」
「その点は大丈夫ですよ。擬人化すれば、ポケモンはクリアです」
「擬人化、流石は友里恵先生やで。あがらが知らん世界をよう知ってはるわ」
「……ありがとうございます」
「あ、ポケモンは駄目だ」
思い出したように、意見を否定する長谷川。
「えっ、何でだし?」
「連合で仮の意見を出し合ったんだけどさ、ポケモンはそのときに挙がった」
「どこがやるんだし?」
「ハローベルがやるんだとさ」
「ハローベルて、あれか。子供の英会話ボランティアやな。文学部の国際連中がやっとる」
「ポケモンはお子さんに人気ですものね」
「友里恵、ポケモン舐めんなし」
「すみません」
「ほんで、ハローベルは粒揃いの別嬪なんよ。ポケモンは連中に遣らなならんな。あがらオッサンがポケモンやったら、それこそモンスターやで」
「それは仲本だけだし」
「じゃかましわ!」
「ポケモンも却下じゃ、ネタに困るねー。みんなでできるのは何かなー?」
「妖怪ウォッチはどうですか?」
「友里恵、ポケモントレーナーのシオに喧嘩売ってるっしょ?」
「ふへっ!?」
「妖怪ウォッチのジバニャンがポケモンのピカチュウポジションを奪おうとしてるし」
「心配せんでもええわ。妖怪ウォッチ、レベルファイブやろ? あっこの会社は自社のキラーコンテンツを使い潰すさけ、勢いも今年くらいまでやろ」
「おれのバイト先のセブンでも、妖怪ウォッチ関連のグッズは見切り品コーナーに並ぶようになったねー」
「それならいいし」
「一向に話が進まないな。ネタ、コスプレのネタだよ」
焦れったいように、長谷川は軌道修正を図る。
「なあ、ハッセー。コスプレとかやらんでもええんちゃう?」
「いや、駄目なんだ」
「何でな?」
「何か、連合に所属している限り、今回のコスプレは義務みたいなものらしい」
「変な話やな」
「ああ。下手すると、連合から除籍も有り得ない話じゃないみたいだ。連合から外れると、俺らは活動費を自腹で全て賄うしかないしな」
「そら、きっついわな。まあでも、大した活動なんかしてへんし、そえもええんちゃうか?」
「プラス、サークル棟使用料を連合会長に払わなくちゃならなくなる」
「そらあかんわ。ショバ代上納せんならんかったら、話は別や。ネタ探そ、ネタ。コスプレや」
「ここはハロウィンらしくハロウィンのコスプレはどうだろう?」
長谷川は一同を見渡す。
「ハロウィンのコスプレて何な?」
「ハロウィン、ヴァンパイアとかですか?」
「それだ」
「何な、吸血鬼かいな」
「ええ。本場のハロウィンではヴァンパイア、フランケンシュタイン、ワーウルフ、マミー、ウィッチなどがポピュラーですね」
「本場てどこやねん」
「アメリカだよー。おれ、中学からアメリカに住んでたし、ハロウィンは確かそんな感じだったなー」
「じゃあ、オーソドックスにそれらで」
踊り続けた会議に終わりの兆しが見えはじめた。