表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/50

50:孤独は魔法じゃ癒せない(13)

「まあ、簡単に言うと『青春』かな」


 アシュードがどこか遠くを見つめながら、懐かしそうに微笑んだ。アシュードは、メリッサがこれから通う予定の王立ステラ学園の卒業生だ。学生時代を思い出したのだろう。

 その微笑みを見ていると、ちょっとだけ悔しくなる。この十二歳の年の差がなければ、同じ教室で勉強をしていたかもしれないのだ。学生時代のアシュードを見られないことが、すごく残念だった。


 少ししょんぼりしたメリッサを優しく抱き寄せながら、アシュードは続ける。


「ずっと勉強をしたくてしたくてたまらなかったのに、女だからという理由で、それが叶わなかった人もいる。メリッサには、やりたいことを自由にやらせてやりたいんだ」


 メリッサはふと、アシュードの妹を思い出した。異国で勉学に励んでいる方の妹だ。少し話したことがあるくらいだが、あの女性は勉強が好きそうだった。アシュードもその妹のことを考えたのだろう。


「……ありがとね」


 メリッサの口から出た感謝の言葉は、とても小さかった。しかし、メリッサは知っている。この男には、どんな小さな言葉でも必ず届くのだ、と。


「どういたしまして」


 ほらね。だってこの男ときたら、メリッサのことが大好きなのだから。



 *



 四月。王立ステラ学園の入学式の日。

 メリッサは真新しい制服に身を包み、くるりと回ってみせた。ディオが頬を赤く染めて、ぱちぱちと拍手をしてくれる。


「ししょー、にあうの!」

「ふふ、ありがと……きゃっ!」


 調子に乗ったせいか、ぐらりと体が傾く。


 ――転ぶ!


 ぎゅっと目を(つむ)ると、予想通り、甘い香りに包まれた。大好きなその香りに嬉しくなって、メリッサは抱き留めてくれたその人の名を呼ぶ。


「アシュード!」

「危ないな。この僕がいたから良かったものの……。他の男の前では絶対に転ばないようにしろよ」


 アシュードはそう言いながら、(ゆが)んでしまった頭のリボンを直してくれる。メリッサは少し膨れっ面になりながら、そっぽを向いた。


「あたしだって、いつもいつも転ぶ訳じゃないし!」

「どうだかな。本当にお前は……」

「ど、どうせあたしは可愛くないですよーだ!」


 ふんっと鼻息荒く言うメリッサに、アシュードが苦笑した。そして、やれやれと肩を(すく)めた後、ポケットから小さな包みを取り出す。中からはお菓子が出てきた。


「ほら、メリッサ。これでも食べて機嫌を直せ」

「あ! いちご味のマカロンだ! あたし、これ、大好き!」


 メリッサはそう言って素直に口を開けた。アシュードがマカロンを口に放り込んでくれる。


「おれもたべたいの!」

「ああ、良いぞ。ほら」


 ディオもアシュードにマカロンを食べさせてもらって、にこにこの笑顔になった。


「メリッサ、そろそろ行かんと遅刻するじゃろう。初日から遅れるなんて格好悪いぞ」


 師匠が部屋の奥から顔を出した。メリッサは時計を確認して慌てる。


「あ、本当だ! 行ってきます!」

「いってらっしゃいなのー」


 師匠とディオが並んで見送ってくれた。メリッサはアシュードと共に家を出る。


 今、メリッサは学園の近くに借りている家で、アシュードとディオ、それに師匠と仲良く暮らしている。使用人さんたちも優しくて親切なので、とても快適だ。小さな家ではあるけれど、今のメリッサにとっては大切なお城である。


 みんなで一緒に暮らすようになったのは一週間ほど前からだ。大好きな婚約者、可愛い弟子、尊敬する師匠。メリッサは大切な人たちに囲まれて、とても幸せに過ごしている。

 アシュードと一緒の生活は楽しい。ディオも毎日嬉しそうにはしゃいでいる。師匠の体調も良さそうだ。これから始まる学園生活も、楽しみで仕方ない。


 メリッサは小さく笑いを漏らした。


 外はもうすっかり春の色だ。王立ステラ学園へ向かう途中、満開の桜が目に入る。天気も良くて心地良い。最高の入学式になりそうだ。


「ああ、そうだ。メリッサ」

「なあに?」


 隣を歩くアシュードに、首を傾げながら聞く。アシュードの頬がほんの少し、赤く染まった。


「……あのな」

「うん」

「……お前は、本当に、可愛いよ」


 桜の花びらが舞った。


 ずっと「可愛くない」だの、「可愛げがない」だの、「素直じゃない」だのと言っていたというのに。

 今、こんなところで、初めて「可愛い」と言うなんて。


 メリッサは耳まで真っ赤になった上に、なんだか変な汗までかいてしまう。

 もう、本当に、この男ときたら。


「そ、そんなこと、知ってるし!」


 自分でも可愛くないと思う返事をしてしまうメリッサ。

 そんなメリッサの胸元では、翠色の宝石がついたネックレスが揺れていた。アシュードはネックレスを見つめ、優しく微笑む。


 桜の舞う通学路。


 アシュードがそっとメリッサの手を取った。指を絡めるようにして、優しく握ってくる。メリッサは赤い顔のまま、そっとその手を握り返した。

 二人は手を繋ぎ、仲良く並んで歩いていく。




 「ひとりぼっち」というのは寂しいものなんだ、と誰かが言っていた。今はメリッサにもその気持ちがよく分かる。「ひとり」は気楽だけれど、大切な人が傍にいてくれる方が、ずっとずっと心地良い。

 人と関わることは相変わらず少し面倒だ。でも、本当に親しい人と一緒にいるのは疲れない。むしろ、癒されるということを知った。


 仲良くするのは必要最低限で充分。そんなこと、もう思わない。

 もっともっと、いろんな人と仲良くなりたい。

 もっともっと、自分の世界を広げていきたい。




 春の風が吹いた。

 眩しく光る太陽。青い空。桜の花びら。翠色の宝石がついたネックレス。

 そして、寄り添う二人の影。


 進む道はどこまでも明るく、輝いていた。




このお話は、これで完結です。読んで下さって、ありがとうございました!


ブックマーク、評価、感想に、いつも元気をもらっていました。

応援して下さった皆様に、感謝しています!


本当にありがとうございました。

皆様にも、幸せが届きますように♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] メリッサちゃんのお話、やっと拝読に伺えました。 アシュードさんは寛大で、子どもにも優しい、いい人ですね。 あの小さな三人が四歳児、五歳児に! それにディオくんも加わっての無邪気な発言に、二…
[一言] うおおおおおお;つД`) これ以上ないハッピーエンドで最高でした(´;ω;`)ウゥゥ みんなお幸せに(´;ω;`)ウゥゥ
[良い点]  メリッサの恋と成長が、わかりやすく描かれていてお見事でした。その過程での切ない展開ではうるうるしながら、見守らせていただきました。  ディオがまた、本当に素直な良い子で、メリッサちゃんの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ