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47:孤独は魔法じゃ癒せない(10)

 こうして無事にアシュードを取り戻したメリッサは、魔法の馬車を走らせ、魔術師団へと戻ることにした。外はもう真っ暗。時刻は午後六時を過ぎていた。

 馬車の中では、子どもたちがきゃっきゃっと騒いでいる。


「くりす、きょうはすごかったの! がんばったの! えらかったのー!」


 ディオがクリスの健闘を(たた)えると、クリスもにこにこしながら頷く。


「ディオもがんばったよね! えらかったよ!」

「えへへー」


 ディオが照れ臭そうに両手で顔を覆う。可愛い。

 着替える間もなく馬車に乗り込んだので、みんな華やかな衣装のままである。メリッサはドレス姿でいられるのが嬉しくて、ずっと顔が緩んでしまっていた。


 アシュードの両親はアシュードとメリッサのことを(こころよ)く送り出してくれた。ただ、アシュードの母親が「アシュード。絶対にこの子を逃がさないようにするのよ……」と恐い顔で言っていたのは少し気になるが。まあ、気にしても仕方ないかと深くは考えないようにする。


「でも、なんでアシュードの家にあたしにぴったりのドレスがあったんだろうね。不思議」

「ああ、それは……」


 アシュードとメリッサが両思いだと分かってから、アシュードは両親にそのことをすぐに伝えたらしい。すると、特に母親が喜び、メリッサを迎え入れる準備を勝手に始めてしまったのだとか。


「母様は、エマ様が僕のことを愛していないことくらい分かっていたらしい。それがずっと気に入らなかったそうだ。だから、僕のことを奪い返すと宣言するくらい愛してくれている女の子がいるのなら、そっちが断然良いと主張していた」


 そんな母に釣られ、使用人たちも盛り上がってしまったようだ。屋敷全体がこの数日、ずっと浮ついていたという。


「なんか、ちょっと恥ずかしいかも、それ」

「どうしてだ? この僕の隣にふさわしいと認められたというだけだぞ?」


 なんでこの男は妙なところで偉そうになるんだろう。少し呆れかけたが、なんだか逆に面白くなってくる。

 くすくすと笑うと、子どもたちも一緒になって笑い始めた。


 アシュード、メリッサ、ディオ、それから三人組と護衛騎士。大人数を乗せた馬車は、夜の街中を駆けていく。楽しそうな笑い声が寒空に流れ、消えていった。




 魔術師団に到着した。

 三人組はママのところに帰るというので、メリッサは緑色のリボンをつけた贈り物を急いで手渡す。ディオとアシュードも三人組への贈り物をその場で渡していた。


 三人組は両手に贈り物を抱え、笑顔で帰っていった。


「さて、ディオ。ずっと前に約束していたな。この僕と一緒に、精霊祭を楽しむんだと!」

「うん! おれね、おぼえてるの! だから、このみどりいろのりぼんのおくりもの、あしゅーどにあげるのー!」


 ディオの部屋で、ささやかな精霊祭のパーティーが始まる。いつもより少し豪華な食事が、楽しい雰囲気作りに役立ってくれる。魔術師団の食事を作ってくれている料理人さんに感謝である。


「では、僕からもディオに贈り物をやろう。ほら、これだ!」

「ほわあ、おっきいねえ!」


 大きな包みを渡されて、ディオが嬉しそうに歓声をあげた。うきうきしながらその包みを開けるディオの背中を見つめながら、メリッサはふと気付いたことをアシュードに尋ねる。


「そういえば、今日は魔法の馬車で車酔いしなかったね。苦手だったんじゃないの?」

「ああ、確かに苦手だな。だからこそ、事前に酔い止め薬を飲んでおいた」

「そうだったんだ」

「これからメリッサと長く一緒にいることになるんだ。魔法の馬車くらい乗れるようになっていないと、この先困るだろう? ……まあ、それは置いておいて」


 アシュードはそう言いながら、ポケットの中から小さな箱を取り出した。真剣な顔で、その箱をメリッサに差し出してくる。


「メリッサ。僕からの、精霊祭の贈り物だ」


 小さな箱には、真っ赤なリボンが飾り付けられている。メリッサは目を(みは)りその贈り物を凝視した後、アシュードを見上げる。

 精霊祭の贈り物をする時、家族や友達には緑色のリボンをつけたものを贈る。赤いリボンをつけたものは、恋する相手や伴侶に贈る。今、メリッサの目の前にあるのは赤いリボンの贈り物。と、いうことは。


 メリッサの顔が一気に赤く染まった。「好きだ」と言われていたこともあり、ちょっとだけ赤いリボンの贈り物がもらえるかも、と期待していたのは確かである。しかし、実際に目にしてみると、破壊力が半端なかった。


「えっと、あ、ありがと……」


 震える手で贈り物を受け取る。赤いリボンが明るい照明の下できらきらと輝いていた。


「あ、おれもめりっさにおくりものするのー!」


 ディオが慌てたように、メリッサに緑色のリボンがついた贈り物をくれる。メリッサは照れ隠しに、ディオをぎゅっと抱き締めた。「えへへー」とディオは笑い、ぎゅっと抱き締め返してくる。可愛い。


「あたしからも、ディオに贈り物。はい!」


 緑色のリボンのついた贈り物に、ディオが目を輝かせる。


「ほわあ! おれね、すごくしあわせー!」

「うん、あたしもすごくしあわせだよ!」


 ディオがくるくる回って喜ぶ様子に、メリッサも笑みを零す。そんなメリッサの隣に、アシュードがすっと寄り添ってきた。そして、耳元で小さく(ささや)いてくる。


「……僕に、贈り物は?」

「あ、あるけど。隣の、あたしの部屋に置いてあるの……」

「お前からもらえるの、僕はすごく楽しみにしているんだが」

「え、えっと。じゃあ、取ってくるよ。ま、待ってて」


 アシュードから離れて、熱くなった頬をぱたぱたと手で(あお)ぐ。ちらりと振り返ると、思いきりアシュードと目が合った。


 目が合った瞬間、アシュードが幸せそうに微笑んだ。


「す、すぐに戻るから!」


 メリッサはぷいっとそっぽを向くと、部屋を飛び出した。なんだか心臓が変な動きをしている気がする。顔も油断するとすぐに緩んでしまいそうになるし、散々(さんざん)である。


 メリッサがアシュードに用意した贈り物。もちろんリボンの色は迷わなかった。生まれて初めてその色のリボンをつけた贈り物を準備した。そしてこれから、生まれて初めてその色のリボンをつけた贈り物を大好きな人に贈る。


 自分の部屋に入り、その贈り物を手に取った。また、心臓のリズムがおかしくなる。贈り物につけられた赤いリボンが、笑うように小さく揺れた。


「が、頑張れ、あたし!」


 メリッサは顔を上げると、覚悟を決めた。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「アシュード。絶対にこの子を逃がさないようにするのよ……」と恐い顔で言っていた そりゃなぁ、母親だしなぁ……。 ディオ、君のお母さんはね、少なくともアシュママのように息子のこれからを思って…
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