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杏姫と母の愛

長かったり短かったり不安定ですみません、楽しんで頂ければ幸いです。

何が言いたいかというと今回は長いということです。

今日は私の誕生日で、私は6歳になる。

だけども別に特別なことは行わない、姉の時とは違いパ―ティ―もないし、プレゼントもない、ケ―キもないし、両親からのおめでとうの一言もない。


―――朝、自分で起きて、顔を洗い、櫛で髪を梳く。

以前ならキャシーがやってくれていた事だけど、今はもう自分で行っている。

新しいメイドは怖くて乱暴だから、まともに櫛で髪を梳くことも出来ない。掃除も出来ない、服の用意も出来ない、やる気がない。


「かわいそうにね、あなたがわたしのメイドになった理由が分かる気がしたわ。」


そう言うとメイドは顔を真っ赤にして、どこかに行ってしまったこともある。今も不機嫌そうに部屋の隅で私を睨んでいる。


「………睨まないでくださらないかしら?それとも元々そういうおめめなの?」

「………なっ!………そういえば今日はお誕生日の様ですが!パーティーの準備は結構なのですか?リリィお嬢様の時は大変でした、ドレスをご用意しますか?」


クスクスと笑う嫌味なメイドは大嫌い、キャシーならおめでとうございますと言ってこっそりと私にシフォンケーキを焼いてくれた。


「あら?もしパ―ティ―があるのなら事前にいろいろと伝達や準備があるとおもうのですけど…あなたはおしえられてないのね、、かわいそう。」


と言ってやると元々少しつり上がった目は、鬼のように上にあがり、歯ぎしりの音が聞こえてくる。



今日が私の誕生日だとしても別に関係ない、特別なことは何も起こらない、私の姉も私の誕生日を知らない。


「お母様にアンの誕生日を聞いたら毎回、もう終わっているわ、ですって!アンは自分の誕生日分かる?」

「ええ、おかあさまが言うならそうなんでしょう。すぎておりますね。」


少し前に姉に何故なのかと言われた。そんなこと私が聞きたいくらいである。


その後は部屋に来たキティを膝の上に乗せて、もうすぐ完成する刺繍に取り組む。

キティは私と姉にとても懐いており、頭を撫でるとすりすりと小さな頭を私の手に預けてくる……とても愛らしい。


「あらあら~随分とのんびりしているのね、今日がなんの日か忘れてしまわれたのかしら?」


「私」の声がして、声のする方ーーー真上をむくと、「私」はふわふわと宙に浮いて覗き込むようにこちらを見ていた。


「可愛い猫ちゃん、、、この子の名前は何にしたの?」

「キティよ………」

「………貴方は今回はキティなのね、素敵。」


訳の分からないことを言っているが、とりあえず無視をする。


「書斎のあれ……みたんでしょ?面白かった?……今日はとっても素敵な日ね、貴方の邪魔者が1人消えるわ。」


黙って刺繍に取り組む、今回はとても自信がある。


「ねぇ、アン・マクレ―ンはなぜ産まれたのだと思う?愛さないのに、存在を無視しているのに、貴方が産まれた日ですら忘れられているのに…それでも私が生きる理由は何?」


何故だろう、今日の「私」はよく喋る、今までの「私」は質問なんてあまりしなかった。私のすることを高みの見物して、笑っているだけ。


「貴方は生きていて欲しかったの?おかあさまに生きていて欲しかったの?」


「私」の目が大きく開かれる、いつもにやにやと笑っている「私」が初めて動揺を見せた。


「貴方の今の人生も私の人生も、正しい人生なんてなくて全てがもしもの世界なの、人生は様々な選択肢に溢れていてその分、もしもの世界は存在する。例えば、、、母の自殺を無理やりにでも止めた別の「私」の人生、どうなったと思う?別の「私」の人生はどうなったと思う?」


「私」は私の頬に手を置いて、宙から覗き込むようにして答えを尋ねてくる。金色の長い髪がカーテンのように私を包み込む、アプリコットの瞳が無表情の私を映し出す。


「知らないわ、興味無いし。」

「あっそう、答えはね、、その子は母の代わりに死んだわ。無理やり止めようとして母の持っていたナイフで死んでしまったの、、ふふふっ面白かったぁ…母のあの表情…それからの家族の姿はなかなかに面白かったの…。」


だからね、と「私」は少し期待するかのようにいたずらっ子のような笑みを浮かべる。


「今回も期待しているわ、ねぇ…面白いのを見せてね。」

「うるさいわ、死人のくせに…消えなさい。」


こいつの話なんて真面目に聞いた私が馬鹿だった。

やるべき事はもう決まっている、私の望みはたった一つだけである。


「………愛されたい、それだけよ、、、」

「にゃぁん」


膝の上のキティが少し心配そうに私を見上げた。


その夜に私は部屋を抜け出して、(と言ってもメイドはサボっているからいないので堂々と部屋から出た。)母の部屋に向かう。


ノックもせずにとりあえず入る。


「………!!誰!?何をしに来たの!」

「私です、アン・マクレーンです。アリス・マクレ―ン公爵夫人、あなた様こそ何をしているのですか。」


部屋に入ると母は手に銀色に光るナイフを持って、泣いていた。


「……帰りなさい。」

「嫌です。」

「母の言うことが聴けないの!?早く部屋に帰れと言っています!」

「おとうさまが人殺しになってしまったのはあなたのせいではないと思います。あなたが原因だとしても、いずれおとうさまはこの国に忠誠をちかう騎士として、その手を血で染めたと思います。」

「………どうして貴方がそれを…?」

「そのナイフを離しなさい、わたしもリリィおねえさまもあなたの代わりにはなれない。おとうさまの最愛の人はあなたしかいないから、わたしたちは最愛のあなたとの間に産まれた愛の証でしかないから。」

「そんなこと…………やめて!やめてちょうだい!」


母は取り乱して混乱している、6歳になった娘にこんなことを言われて落ち着いていられる訳が無いので当たり前の反応であるが、、、母が死んでから大変だった。父の目にはなにも写っていなかった。姉も私も何もかもが、最愛の母のいない世界はきっと灰色にでも写っているのだろう、その後に愛に溺れて失った私も同じような体験をしたのでよく分かる。


「あなたが死ぬことを最初はとめようと思いました、いきていて欲しかったから、愛して欲しかったから。」

「アン………?」

「でもね思ったのです、きっとあなたはわたしを愛してくれないなと、、だってあなたはわたしがおとうさまに似ていると思っているのでしょう?死ぬのをとめたとしても、あなたが生きたとしても、ずっとこのままなのだろうなと。」


母は私をアン・マクレーンを一人の人間として見ていない。私を通して人を殺す前の父の姿を見ている、きっとこれからもずっと続くのだろう。一生、母は私を見てくれない、私自身を見てくれない。


「ねぇ、おかあさま、、わたしをなぜ産んだのですか?わたしはな生きなければならないのですか?わたしがなにかしましたか?おとうさまに似ているからとかではなくてちゃんと理由が聞きたいのです。」


私はまっすぐに母を見る、母とこんなに長い時間目を合わせるのは初めてだった。


「違うわ、違う!私…貴方を産んだ時、、とても幸せだった。最愛の人との間に産まれた私の娘……リリィと貴方は私の宝物なの、なのに………私は、、、!」


―――ゴボッ!母の口から赤黒い液体が飛び出す、宙に飛び散った血は私の体に付着する。頬に触れるとねっとりとした、生暖かい温度を感じる。


「おかあさま…?毒をお飲みに?」

「……ごめんなさいアン、、母は、あなたを嫌いではないのです。」

「何故!?そこまでしてわたしの質問に答えたくなかったのですか!?あなたはそんなにもわたしが嫌いなのですか?なぜ…!なぜ…?」

「………上手に愛せなくてごめんなさい。」

「……っ!」


知っていた、母が本当は私を見ていてくれていたことを。ミモザの花束は母がくれたものだということも、、、

ーーー黄色いミモザの花言葉は「秘密の愛」、本来なら愛の証として、男が女に送るものらしいのだけど、花の好きな母がミモザに込めた思いは私にちゃんと届いていた。

だからこそ、本当は止めたかった。


「貴方を産んだことに…後悔なんてありません。母は貴方をずっと大切に思っています。どうか…一生私を許さないでいて、私を忘れないで、、、」

「秘密になんてしなくてもいいのに!話し合えば分かり合えたはずなのに!どうして?わたしは後悔しているわ!産まれたことを!わたしは…!」

「………お誕生日おめでとうアン…愛しているの、アンもリリィも旦那様も…上手く愛せなかっただけ、あぁ、貴方にやっと私は………」


母はそのまま何も話さなくなった、さっきまで薄暗い部屋の中で輝いていたブロンドの髪は生気を感じることはなく、細くて白い手はだらんと力なく垂れている。目には光はなく、頬から涙が一筋流れていた。


「愛しているなら生きて欲しかった…私はまだあなたに何も言えていないの…本当に言いたいことはたった1つだったのに…。」


私もそのまま意識を失った。途切れゆく意識の中で、「私」が母の亡骸の頭を優しく撫でている。


(あぁ、貴方も何も言えなかったのね、、、私達はやっぱり私なのね。)


暗闇は何故か不思議と心地よいもので、なにか温かいものに包まれているような気分だった。



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