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杏姫と騎士見習い1

私は部屋で手紙を書いている。私の傍にいてくれた彼女に、きっと優しい彼女は約束を覚えているはずだから…。


「ねぇアン、誰に手紙を書いているの??」

「ひみつです、お姉さま。」


手紙と言ってもたった1文、本当はいっぱい書きたいことはあるけども沢山ありすぎて絞れないのでいっその事1番伝えたいことだけにしようと思ったからだ。


手紙を封筒にしまうと、姉はじっとこちらを見ている。


「変なお手紙ね…暗号?なぞなぞなの??」


首を傾げているその様子は不思議で堪らないとでも言いたそうにしている。


「それより準備をしないと、お客さまが来られるのでしょう?」

「あっ!そうね!早くお着替えしないといけないわ!後で髪型は私がやってあげるね!」


そう言うと姉は侍女に連れられて部屋へ戻って行った。


「アンお嬢様、今日は寒いので暖かく着込みましょう。」


新しい侍女のクロエはキャシーと違って静かで真面目な人だが、ちゃんと仕事をしてくれるので信頼している。


「どんなドレスがいいかしらね…クロエはどう思う?」

「………私はこの深い緑色のドレスがいいかと思います。上にはこの黒色のファーボレロが似合うかと。」

「じゃあ、それにします。リボンは黒色のリボンを出しておいてちょうだい、あとでお姉さまが髪を整えてくれるから。」


あれからお姉さまのお下がりだけでなく、おとうさまからもドレスやアクセサリーなどを与えて貰えるようになり、屋敷に来る父の同僚や部下の人達、知り合いの人たちが何故かプレゼントととして色んなものを頂く事が多くなった。


今まで足りなかった服やアクセサリーが増えて嬉しいのは事実だが、急に身の回りに物に溢れるとどうすればいいのか分からないので、クロエに管理を任せている。


「毎度申し上げますが、私などに管理を任せて大丈夫なのですか?お嬢様はもっと人を疑うべきです。」


クロエは真面目な顔をして冷静に意見を言ってくるけど、私は知っている……私のドレスやアクセサリーなどを選ぶ時のクロエの瞳はキラキラと輝いていることを…。そんな様子を見るのが楽しいから任せているとは口が裂けても言えない。


ドレスを着終わった後に姉が部屋に入ってきた。姉は桃色のドレスを着ており可愛らしい雰囲気でよく似合っていた。


「アン!とっても可愛いわ!!そのドレスも素敵ね!」

「お姉さまもとてもお似合いです。」

「ふふふっ!さぁ座って!髪を編んであげるわ…!」


姉はそう言うと楽しそうに櫛で髪を整えていく…今日はサイドを三つ編みし、カチューシャのようにして端っこを黒いリボンで可愛く結んだ髪型にしてくれた。

姉もいつものように前髪を三つ編みにしているが、私と反対側の端っこにリボンを結んでお揃いのような髪型にしている。


「お姉さま…お揃い可愛いわ、素敵ね。」

「本当に!?私1度でいいからアンとお揃いにしてみたかったのよ!嬉しいわ!お父様に見せに行きましょう!」


姉は嬉しそうに飛び跳ねると、私の手を引っ張って父の仕事部屋へと連れていった。


父とは話す機会は増えたけどやっぱり2人きりになるのは苦手なので姉がいないと困る。


「お父様!お父様!!」

「リリィ、…アン。どうしたんだ?………2人とも可愛らしい髪型じゃないかリリィがやったのか?」

「ええそうよ!私がアンとお揃いにしたかったの!」


姉は私の少し前に出て、父に興奮気味に話している。


「アンもとても似合っているよ……ドレスは気に入ってくれたか…?」


不安そうな表情で父は私を見つめてくる。思わず目を逸らしそうになったけど必死に堪えて、父を真っ直ぐに見つめる。


「ええ、ありがとうおとうさま…とても気に入ってます。」

「そうか、欲しいものがあるなら言いなさい。………私は忙しくて中々構ってやることが出来ないが、これからはできる限り2人の傍にいる…。」

「アンの傍には私がいるからお父様いなくても大丈夫よ!さぁアン!お外に行きましょう!!」


かなり辛辣な言葉を天使のような笑顔で投げかけたあと、何事もなかったかのように私に向き変えると再び手を引っ張って部屋を飛び出した。

部屋を出る前に振り返って見た父は少し困ったような、安心しているような表情だった。


「お姉さま、おとうさまにあんなことを言ったら可哀想よ…。」

「物を与えることでしか人の機嫌をとることしか出来ない無能は父親失格よ!アンはあんな男と結婚しては行けないのよ!!」


いつも誰にでも優しい姉は最近父に対してだけかなり当たりがきつい、難しいお年頃なのだろうか?あんまりにも言い方がきついので聞いてるこちらの胸が痛くなる。


それから2人で本を読んだり、キティと遊んだりした。姉と過ごす時間は楽しくてあったという間に過ぎていく。


「今日いらっしゃるお客様はウォード伯爵よ、アンはウォード家を知っているかしら?」

「ええ知っているわお姉さま、現当主の方は王国騎士団の副団長を務めている方よね?剣技に優れた一家で代々騎士として優れた成績を残している…だったかしら?」

「まぁ…!アンったら凄いじゃない!私は毎年あっているのだけど優しい方よ!」


姉が私の頭を優しく撫でる。


ーーー前の私の記憶があるからよく知っているわ…あの日、私を取り押さえたのは確かウォード伯爵の次男だった…。


前の記憶では私とウォード家との接触は、姉の殺人未遂の疑いで取り押さえられた時だけだったのだが、私が屋敷の離れから移ってきた事で今回会うことになるのだろう。


「緊張しているの?騎士団の方と会うのは初めてよね?」

「ええ少しだけ…でも、お姉さまがそばにいたくださるのなら怖くないわ。」

「…!勿論よ!私は姉だから守ってあげる!」


姉はいたずらっ子のようにニヤリと笑った。


「リリィお嬢様にアンお嬢様、ウォード伯爵様方がおいでです。旦那様がお呼びになっております。」

「あら…もう来られたの、早いわね。行きましょうアン!」

「はい……キティここで待っていてね。」


キティを部屋に置いて、2人で手を繋いで廊下を歩く。


「失礼致します、お父様。」


案内された客間に入ると向かいあわせのソファーに父と男性が1人と少年少女が1人ずつ座っていた。


「これはこれは、ケイト・ウォードです、お話はかねがね伺っております。隣にいるのは私の息子のノアと娘のローゼです。」

「…初めまして、ノア・ウォードです。」

「お久しぶりですリリィ、初めましてアン!ローゼ・ウォードです。」


ウォード家の人間は、黒髪に紫色の瞳が特徴であり、3人とも真っ黒な髪にアメジストのような紫の瞳が綺麗だと思った。肌も白く、黒髪と対照的だったので印象に残った。


「リリィよ!ケイトおじ様、お久しぶりですわ。こちらは私の妹ですの!」

「…アン・マクレーンです、お噂はかねがね聞いております。お会いできて光栄です。」


片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方を軽く曲げ、スカートの裾を軽く持ち上げて頭を下げる。


「まだ幼いのに立派なレディじゃないか!素晴らしい教育の賜物だなマックレーン団長様!」

「黙れケイト、減給するぞ…。」


(……ケイト卿は黙っていればイケメンなのに少し残念ね。)


恐らく父とケイト卿は旧知の仲なのだろう、父の表情は少し柔らかい。


「…ゴホン…2人を呼んだのには理由がある。私は王の命令でしばらく屋敷を留守にする、その間ウォード伯爵に屋敷の護衛を任せ酔うと思っている。」

「まあ、お父様が屋敷にいてもいなくてもどうでm……んんっ!確かに私とアンに屋敷の使用人達だけでは不安ですので助かります。ありがとうございます。」


姉が無意識に暴言を吐きそうになっていたので繋いでいた手に少し力を入れて止める。


(本当におとうさまに容赦がないわ…お姉さま。)


「私からも感謝致します、お忙しいでしょうにありがとうございます。」

「アンとは初めてお会いするけど、とても可愛いらしいご令嬢ですね。礼儀正しくてしっかりしたお方なのね。」

「そうでしょうローゼ!私の自慢の妹よ!!」

「…やめてお姉さま。」


何故姉が自慢げに答えるのか全くわからないが、恥ずかしいので止める。顔が赤くなるのを必死に誤魔化そうと少し俯いて髪で隠す。


「私達はまだ少し話すことがあるから、後は子供たちだけで遊んできなさい。」


その後4人で別の部屋に移った。

姉とローゼは以前から知り合っているため仲が良く、2人で姉の部屋に向かってしまった。

私とノアという少年の間に気まずい空気が流れる。人見知りの激しい私は一言も発せずに黙り込んでいる。

このままではマズいと話題を考えていると


「……姉のローゼからマクレーン公爵家の庭はとても素晴らしいと聞きまして、1度見てみたいと思っていたのです。………良ければ案内してくださいませんか?」


と棒読みだが話題をあちらから提供してくれた、確かに外に出ればまだ会話がなくても幾分かはマシになるだろう。


「…そうでした申し訳ありません、わたしの配慮が足りませんでしたわ。ご案内させて頂きますね。」


ソファーから立ち上がろうとすると、ノアは先に立ち上がり手を差し伸べてきた。


「まあ………素敵、まるで騎士みたいなことを致しますのね。」

「………騎士見習いですので…。」


真面目な顔をしているけど、耳が少し赤くなっている彼はいい人なのだろうと思えた。



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