もう1つの……地球?
やや大阪弁がやかましいかもです。
「うーす。マジ頑張ってまーす」と、もう1人の乗組員兼パイロットのオッサンはまるでやる気なし。
そいつも誰がどう見ても日本人のオッサンで、口元には無精ひげの剃り残しがエンブレムとして輝いている。30過ぎ確定の土木作業員みたいな感じだ。
「あんなーホンマ頼むで。これから俺達は『みすてりーさーくる』なる物をこのもう1つの地球に刻み込むっちゅー大変ナーバスかつ繊細な仕事に取り組むんやで? 声だけ頑張ってる言うてもこのミッションに失敗したら俺等職失くすよホンマに」
性質の悪いエセ関西弁男(宇宙人?)は説教が好きらしく、とことん声がリズミカルに弾んでいた。
端末を持ち出して操作し、そのディスプレイがホログラムとして浮かび上がる。
最初に浮かんだのは、光学式タッチパネルのキーボードだ。エセ関西弁男はブラインドタッチで宙に浮くキーボードを叩き、別の惑星と通信手段を取る。
――暗証番号を送信して下さい――
謎の若い女性アナウンスが入ると、エセ関西弁男(宇宙人?)はまたも素早いキータッチでその認証コードを送信。成功。
ホログラムに新たな珍客が上半身だけディスプレイに浮上する。
手のひらサイズよりちょっと大き目な小型端末は、現実の世界で普及したスマホの近未来版と思えば一番しっくりくる。四角い形状のそれは様々な装置が備わっていて、ホログラムも最大6つ浮かぶ仕様になっている。
「なるほど。そっちの状況はあまり良くないみたいね」
ホログラムに浮かび上がる別嬪さん。なぜかとんでもない美人だ。
「それで? 『みすてりーさーくる』だっけ? 上手く作れたの? この前は失敗したんでしょ?」
「ああ。前回は有能な熟練のベテランパイロットだから出来る思ってたけど、実際そいつは――俺に任せとけば100パー大丈夫。若造は黙って見とけ。俺に不可能は無い。100%な――とか抜かしながら時差ボケで睡魔に殺られて慌てて帰還したんや」
「フフ。それであなたは上司に怒られた」
「殴る蹴るの応酬や。あんなんパワハラストライキ起こせるで」
エセ関西弁男は後頭部に出来たたんこぶを手で擦り、
「今回はなんや? 幹部候補生のテストパイロットでも呼んだのか? また俺を犠牲にして」
「あんまりわがまま言わないでちょうだい。あなたも知っての通りこちらも人件費削減でどれだけ首切られたか分かってるでしょう?」
更にもう1つホログラムが自動で浮かび上がり、
「そうだ。今回失敗したら貴様の首を今度こそもぎ取ったる」
「何なんそれー? おじさん勘弁してーな。俺が中間管理職だからてスパルタ教育はもう古事記に載るほど古い話やで」
「フン! 任務に取り組め。そこはもう一つの地球だって事を忘れるな。長居は無用。まあ、もしもそこでお前が率先して亜人種……つまりは我々と似通った知識と身体の構造をしている者どもを数人、被験体として連れて来るんだとしたら話は別だがな。昇任試験をパスして君を我が部署の署長としてVIP待遇してやろう」
ホログラムは音もなく途切れた。
「全くドイツもコイツもオランダも言いたい放題言いやがってからに! 俺もグレて関西弁卒業するで! 標準語舐めたらアカン!」
「あのー」
「何や!!」
「『みすてりーさーくる』完了しましたー」
「ホンマに? お前、意外と使えるんやな。気に入ったで!」
「今更水臭い事言わないで下さいよー」
「じゃあ、今夜は俺達の地球でパーッと飲み明かそう! 居酒屋とクラブどっちがええ?」
「おっぱいパブで」
「それは選択肢には無いで! 気持ちは分からんでもないけどな」
UFOはまた上空へと急上昇し、光の速度でどこかへ消えた。
楽しんでくれた方が一人でもいたら救いです。