レッツゴー! 伊豆!
気休めになれば幸いです。
俺達『聖コンヴァルテ大学』フットサルサークルのメンバー。
川口、鳩ケ谷、浦和、深谷のバカ4人組はまず東京駅に大集合した。
時刻は朝の10時を過ぎた頃。
夏休みは始まっており俺達の夏合宿。ミステリーサークルあるいはUFO大発見ツアーの戦いは幕を開けていた。
当の本人達は実にのほほんとしている。何だかんだで旅行だしね。
「さーてこれからは皆集合したんで単独行動は禁物だぞー。特急列車スーパービュー踊り子号へと直行だ!」と、川口事俺。
「何番線ホームだっけ?」と、こちらはPSvita片手に深谷。
「確か、伊豆急下田駅・修繕駅方面は9番線ホームだった気がする」と、珍しく博識な鳩ヶ谷。
「あんた良く知ってるわね」と、何気なく鳩ヶ谷のIQに探りを入れる女刑事――浦和。
「NAVIターイム舐めんな」と、こちらは他力本願な素の鳩ヶ谷。
俺達は風の様に東京駅の9番線ホームへと続く1階のエスカレーターを上り、9番線ホームの界隈でひたすらウロチョロしていた。
「あー! 私、御土産の『東京ばな奈』と『ひよ子』買って来るの忘れたー!」
早速トラブった他でもないマネージャー浦和は気が気ではない。
「んなもん帰りに買えばいいだろ? 今はUFOだUFO」と俺は優しさを見せる。
「ハア!? あんたどこまでバカな訳? 日本の首都東京駅で焼きそば食べてどーすんのよ!」
残念ながら会話が噛み合う事は無かった。
「あークッソ! また殺られた! んだよマジかよ鬼つえーよ! これ無理ゲーだろ!?」
アニメ&ゲーム関連のグッズをその手に持つと、人格が変わる男。深谷は何かその手の関連のゲームで詰んでいた。いつもの事だがチョッと引くわ。
「ホームにある売店で飴かガムでも買ってけよ。長持ちするぜ」
鳩ヶ谷はそう言いつつコードレスヘッドホンを耳に押し当て、ポケットに仕舞い込んでいたMP3プレーヤーを操作し、R&Bサウンドを楽しんでいた。
確かにホーム内には小さなコンビニの様な売店がチラホラと見える。
「あーもー焼きそばでも飴でもガムでも何でも良いわ。チョッと今の内に昼ご飯の買い出しに行ってくる」
マネージャー浦和はなぜか人格の変わった深谷の腕を握って一緒に来いと猛烈アタック――
――てゆーか、深谷のPSvitaの電源を強制解除。
「ぐおわあああああああああ――――!!!!!!!」深谷は魔物配下が住むディストピアが勇者パーティーの手により陥落する様を空中の異世界で眺めていた魔王の如きショックで吐血しながら叫ぶ。
そのままズルズルと女マネージャー浦和に魂を失った抜け殻(もちろん深谷の本体)は引きずられて売店の自動ドアを潜っていった。にこやかにお見送りをする俺と鳩ヶ谷。今日も平和で何よりだ。
そんなこんながあり俺達は昼近くになってやっと特急列車スーパービュー踊り子号の普通車指定席に乗り込んだ。
ちょうど4人が一塊になって囲う様に座席が並んでいて、小さなサイドテーブルにさっき浦和&(瀕死の)深谷が売店で買ってきたお菓子やドリンクをそこに乗せる。
1時間ほどトランプやUNOで盛り上がっていた俺達一同は電車内のアナウンスでようやく踊り子号が静岡圏内に入って来た事を知る。それ程ゲームに夢中になっていた。
因みに現在位置は熱海――熱川間を移動中。その間に一息休憩を入れる事にした。
ズバリ昼食だ。
「飯って何買ってきたの?」
「まさかUFOじゃねーだろうな?」
「バカじゃないのここは電車の中よ。肝心のお湯が無いじゃない」
「あ、皆! 外、外!」
さっき沈没したポセイドン号から無事に生還した深谷はいつものコンディションに復帰していた。何だかはしゃいでいる御様子。窓から見える外に夢中になっている。
その場に座っていた俺含む他3名がそれを合図に一斉に窓の外に視線を移すと――
――広大な海が正に青一色に染まっていた。
「「「「おおお……!!!」」」」4人とも絶句。
コバルトブルーの海が今目の前を横切っている。速くもなく、遅くもなくゆったりと極上のシアターでその煌めく絶景を堪能する。
いや、実際は物凄い速度の筈。ガタンゴトンと線路に沿って規則的に揺れるその車内からはとても居心地の良い光景である。正に映画に出てくるワンシーンで4人のバカ軍団の8つの眼もキラキラと子供みたいに輝いている。
「せっかくだし写真撮ろうか!」
「お、良いね良いね!」
「もちろん海バックでな! このチャンスを逃すな!」
「物より思い出プライスレスだね!」
何だか本格的に旅行に来た気分になる。本来の目的は合宿でしかもUFOと言うオカルト騒ぎをわざわざ社会科見学しに来たのだが……。今の俺等にその言葉は通用しなかった。問答無用で却下だ。
「はーい。皆笑っていいとも~! チーズ!」
――パシャ!――
こうして俺達の心のアルバムに新たな1頁が刻まれた。これぞ旅の醍醐味だ。
おにぎりと惣菜を組み合わせた昼食を食べた後さすがに朝からUFO、UFO言ってたのが祟り、それぞれが少しずつ少しずつ微睡み始めていた。
ただ1人深谷だけはPSvitaを取り出してさっきのデータを取り返そうと悪鬼羅刹になっていた。
――30分後――
もうすぐ伊豆に到着するアナウンスが流れてVR訓練に励んでいた深谷はやっとこさ満足したのか入念にセーブする事を忘れずにゲームの電源を落とした。専用のカバーにゲーム機本体を格納し、するりとポケットに忍び込ませるといつもの人格に彼は戻る。
すっかり寝入っている俺、鳩ヶ谷、浦和に優しく声をかける。
「おーい。3人とももうすぐで伊豆だよ伊豆!」
取り敢えず女マネージャー浦和の身体を揺さぶるのも何か誤解や偏見が起こりそうなそんなフラグやイベントがスタートしそうだったので、男の俺事川口の身体。肩を掴んで揺さぶりに掛かる。
「ふんぎゃ!」
――んだよ! これからハーレム結成隊でユートピアへと赴く所だったのに肝心要の場面で起こしやがって! と、俺は憤慨した。深谷のジェスチャーによりもうすぐ伊豆に着く頃合いだと覚った俺は仕方なく――でもチョッと悔しかったので――隣にいる間抜け面の鳩ヶ谷をレム睡眠から強制解脱させる事にした。
「ふが!」
――んだよ! これから海外の宝くじで当てた5兆円を何に使うか試行錯誤してた所なのに肝心要の場面で起こしやがって! と、鳩ヶ谷は憤慨した。深谷と俺のジェスチャーによりもうすぐ伊豆に着く頃合いだと覚った彼は仕方なく――でもチョッと悔しかったので――最後の番人、女マネージャー浦和の肩をそっと揺さぶった。
「ふあ?」
何事も無いかの様にすんなりと起きた浦和は直ぐに状況を察して、荷物の整理に掛かる。思わず俺達男軍団はズッコケた。
いや、別に何かを期待していた訳じゃない。神に誓って本当だ。チョッと残念。
「何してんの! サッサと降りるわよ!」
さすがはマネージャー様。ラストに起きたってのに素早い身のこなし。そうだね。早くしないとね。
こうして俺達は静岡県の伊豆。その駅のホームへと降り立った。
ここまで読んでくれてありがとうございました。