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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

*闇妖すみれノ短編*

二人でなら、きっと

作者: 闇妖すみれ




「ふぅ、疲れたぁ…今日もお疲れ様、薫」


「お疲れ、癒音。今日のテスト、どうだった?」


「えへへ、実は……」




―――なんて当たり前の会話をしながら、今日も帰る。私の隣にいるのは、葉室薫(はむろかおる)


そして、その恋人―――望霧(もうきり)癒音(ゆうね)が、私だ。





私と薫は、女の子―――。しかも、幼稚園からの仲で、恋愛感情に気付いたのは、高一の頃だった。

最初は、私も自分の気持ちに戸惑った。


けど、好きなものは好きだった。




そして、今年―――高二の夏。薫の方から、私に告白してきた。薫は、私の戸惑いの気持ちを、吹っ切らせてくれた。

それと同時に、私たちは恋人同士になったのだ。





「…あっ、やばい…教室にプリント忘れてきちゃった…!」


「プリントって…明日提出の? やばいじゃん、待ってるから、取ってきなよ。」


「うんっ、ありがとうね、薫。」



そう言って私は、走って高校の中に入った。…相変わらず、私の恋人は優しい。

まだ後ろに高校がある距離だったのが良かったものの、もうすこし遠くにいたら手遅れになっていたところだ。







「あ、あったあった…良かったぁ…!」


私が安堵の声を漏らすと、どこからか足音が聞こえてきた。

誰かなぁと思いつつドアを開け、廊下を見てみると、どこかで見たような姿の男子がいた。




「…望霧先輩!」


その男子は、私の恋人にうっすら似た顔立ちをした後輩―――そう、薫の弟さんの、桜介(おうすけ)君だった。



「あっ、桜介君! えっと、私は教室に忘れちゃったプリントを取りにきて、今とったとこなんだけど…

何か、用かな…?」



「そっ、その…用っていうか、はい…」


「う、うん。…えと、何かな…?」



少し戸惑いつつも、私は聞いてみる。






「…じゃあ、言います…





僕、ずっと、望霧先輩のことが――好きでした! 僕と――付き合ってください」



「――え?」





―――一度、聞き間違えたかと思った。だが、言っていることは現実でしかない。


まさか、恋人の弟に告白されるなんて―――。

今まで桜介君には私と薫が付き合っていたことは、秘密にしていた。そのことが、今日明かすことになりそう…





「っ、その…あ…」


「…? せ、先輩…? 」




言っていることが予想外過ぎたため、私は何秒か固まっていた。


そして私は深呼吸をして、やっと口を開きだす。




「…そ、そのね、言いにくいかもしれないんだけど、わた――」


「桜介」






―――――その時、凛とした声が廊下に響いた。





「…っ、姉ちゃん!?」


「か、薫…」



かなりびっくりした。さっきの会話を、薫は聞いていたのだろうか――。まったく気配は感じなかったのに。





「遅いと思って見にきたら、お前がつっかかっていたのか。言っておくが、癒音は渡せない。」


「な、なんでだよ、姉ちゃん。先輩の恋人なわけでもないのに、そんなこと言うなんて。あとは先輩の気持ち次第だろ! 邪魔すんな。」





――――会話を聞くほど、私と薫のことを知らない桜介君と薫のやりとりに、胸が痛くなる。


そして、薫が口を開く。






「――――桜介。いつ私が【()()()()()()()()()】と言った?」


「…は?」




…しばらく沈黙が続く。そしてまた、薫は言う。





「それじゃあ逆に言ってやろう。お前には明かしていなかったが――



私は癒音の恋人、だ。」




「っ、嘘、だ・・・・だ、だって、女同士だろ?」



「お、桜介く―――」



「桜介。あのな、姉ちゃんにもプライドってもんがある。癒音だけは渡せない。渡せないんだ

それに、お前―――小さい頃、言ってくれただろ? 


「おんなじせいべつでも、しあわせならいいと思う!」

・・って。私はその言葉をいつも覚えていたよ。それで、私は勇気を出して癒音に告白した」



「っ・・・・」





―――少し厳しい声音で言う薫。桜介君は涙を流していた。そんな中、私は何も言えなかった。





「・・・っ、だから姉ちゃんは昔から嫌だったんだっ!!

頭が良くて、運動神経も抜群で、なんでも俺より上手くて・・・完璧で・・・


親からも俺が失敗作みたいに扱われてっ!!! そんな姉ちゃんがいつまで経っても憎くて妬ましかった!! 完璧でなんでもできて!!! 俺だけいつも一人ぼっちで!!!」




桜介君の口から、言葉がどんどん溢れ出す。薫は、それを真顔で見つめている。







「僕よりずっとかっこよくて・・・そのせいで恋愛だって勉強だってっ!!! 僕は何もうまくいかなかった!!!



お姉ちゃんなんて・・・大っ嫌いだっ!!!!!!」





そんな大声が、廊下に響く。気付けば私も、涙を流していた。





「・・・さよなら、馬鹿姉」


桜介君はそう言って、いなくなろうとする。





「・・・待て、桜介。」

すれ違いざまに、薫は桜介君の肩に手を置く。



「・・・っ、なんだよ。折角邪魔者さんがいなくなるっていうのに」



薫は息を吸って、口を開く。





「―――私は一度も、お前を失敗作なんて思ったことはない。勿論、父さんも母さんもだ。

さっきも言ったが、私はお前のおかげでうまくいったことだってある。」



薫は息を吸いなおす。そして―――







「―――お前は私の大切な弟だよ。桜介。


癒音は、絶対私が幸せにする。だから―――私のこと、信じてくれ」


薫は、優しい声音で言った。





「・・・っ」




桜介君は涙をふき、立ち上がった。





「・・・分かったよ、姉ちゃん。先輩のこと、絶対に幸せにしてね。



・・・あと、癒音先輩。絶対に―――幸せになってください」




「・・・うんっ、ありがとね。」

私も、微笑んでそう言った。





――――――――――――――――――――――――――――――――――




「そ、その・・・ありがとね、薫。」

桜介君がいなくなってから、しばらく沈黙に包まれていた廊下の中で、私は言った。



「・・・ああ。桜介にあんなことを言われるなんて、私も相当冷たかったんだろうな。

・・・あとで、謝らないと」



それは少し小さな声だったが、私は「薫は冷たくなんかないよ」と元気に声をかけた。





「桜介君だって、きっと本当は薫のこと、冷たいなんて思ってないよ。だって、最後は笑顔だったでしょ?」


「・・・そう、かな。ありがと、癒音。」


「・・・うんっ」




そして、私達はまた歩き出す。勿論、というかちょっと恥ずかしいけど・・・手を繋いで。








「・・・ねぇ、癒音。久しぶりにキス、していい・・・?」


「・・・へっ!!? 今っ!?」


「だって、最近勉強とか部活忙しすぎて、そういうことしてないじゃん。ね?」



薫の突然の言葉に、さすがに戸惑った。でも・・・





「薫が、したいなら・・・///」



そう言うと、薫が顔を近付けてきた。・・・さすがに、照れる。








「愛してる、癒音」


「・・・薫。私も、だよ」




そう言って口づけをすると、薫のあったかい体温が伝わってきた。

薫の唇が、私への想いを伝えてくれている―――。






きっと、これからも私達にいろんなことが降りかかってくると思う。

けど、薫となら―――きっと、乗り越えていける。





「っ、う・・・///」


唇が離れて目を開けた瞬間、薫と目が合って微笑まれ、思わず照れた。



「なぁに照れてんの、癒音...//」


「か、薫だって照れてるじゃんっ...//」


「癒音ほどではないっての...//」





そんな会話をしながらも、にっこり笑いあう。





「・・・これからもよろしくね、薫」


「こちらこそ。癒音」





二人でなら、きっと―――乗り越えられると信じて。

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