変態主人公
刺すような光がおさまった後、クリス達はそっと目を開け魔法陣の上に立つ人物を凝視した。
「余は王である。決して愚か者などではない!」
そこには冠や杖などの装飾品は身につけているが、肝心の衣類を下着とズボン以外身につけていない半裸体のイケメンが立っていた。
かろうじて下を履いているのは腰に剣を携えているが故かクリスの想像力故か、はたまた男の良心、羞恥心からかは定かではないが、この男が纏う強者の風格や適度に筋肉のついた肉体美、整った顔立ちから、その異端な服装が彼の最も似合う、否、彼にしか着こなせない特別なファッションのように見える。
「あの……はだかの王様ご本人様であってますでしょうか……」
そう、彼がこのような格好をしているのは決して羞恥心がないだとか変態だというわけではなく、クリスが召喚しようと呼びかけていたのがはだかの王様だからなのだ。
どちらの想像の影響で中途半端な裸で済んだのか定かではないが、最低限の衣類は身につけていて本当によかったと、レオンは心の底からしみじみと思ったらしい。
「ああ、はだかの王が余を示す名だというのはわかる。だが、何故そう呼ばれるようになったのか、何故余がこのような格好をしているのかは皆目検討がつかん……」
「あなたの本にかかった呪いを解けばその記憶を取り戻せますよ」
クリスの問いにそう答えたはだかの王様はどこか納得いかないというように眉間に皺を寄せる。
その表情すら様になる整った顔立ちに対抗するかのように、レオンもまたその端正な顔から繰り出される麗しい笑みを惜しげも無く晒しそう言った。
すると、はだかの王様はレオンの笑みを値踏みするように、否、レオンの腹の中を探るように訝しげな視線を向け、レオンもまた、はだかの王様がどう出るのかを見定めるように挑戦的な視線を返した。
そんな二人の間に立っていたクリスは何度か機嫌を伺うようにレオンとはだかの王様へと目をやったあと、再びはだかの王様に向き直り、思い切り頭を下げた。
「お願いします! 童話を復活させるため、僕にあなたの力を貸してほしいんです!」
「いいだろう」
先程のレオンの時とは打って変わって色良い返事を即答したため、クリスは思わず顔を上げた。
先程の二人のやり取りを見て、信頼できん、お前らで勝手にやってろと断られるかと思っていたのだ。
二人の睨み合いの空気はそれほどまでに険悪で、後に二人に聞いたところお互い一目見た瞬間にこいつとは絶対ウマが合わないと思ったらしい。
「それにしても、こんなにあっさり了承を得れるなんて思ってもいませんでした」
「そもそも、余はお前の力を貸せという呼び声に応じたのだ。断る理由がないだろう」
「それもそうですね……あ、ちなみに、他に名前はあるんですか? はだかの王様ってちょっと長いなぁって……」
了承の件についてをさも当然のことであるかのように返すはだかの王様にクリスもまた確かにと納得の意を示したところで、話題が一度落ち着き微妙な沈黙の時間が流れた。
その沈黙に耐えられなかったクリスが新たな話題として挙げたのが名前についてだった。
もちろん、ただ話題に困って名前について質問したのではなく、彼の名乗った名が赤ずきんと同様に、人の名前とは思えない名称どころか、本のタイトルと同じであるうえに文字数が多かったため、本名は別にあるのではないかと純粋に疑問に思ったからだ。
「余の記憶の限りではない。しかし、長いと思うなら余のことは王とでも呼ぶがよい」
突然の質問が不敬にあたらないかと心配していたクリスだったが、思いの外簡単に返答してくれたどころか、自身を王と呼べと言った時の誇らしげな笑顔に案外とっつきやすそうな印象を受ける。
物語の登場人物を呼び出すという初めての、また、非現実的な試みによって張り巡らされていた緊張の糸が思わず緩んだ。
「はい! これからよろしくお願いします。王様!」
緊張が解けたかわりに、テンションが上がったクリスは満面の笑みを浮かべて右手を前に差し出した。
王様は差し出された右手に一瞬驚いたような顔をうかべたが、すぐに自らも右手を出してクリスの手を握る。
その顔には先程レオンと対峙した時に見せた牽制のような笑みではなく、クリスと同じような心の底からの笑みが浮かんでおり、全身からは自信に満ち溢れたオーラを放っていた。
「ああ、余に任せろ。必ずや役に立って見せよう」
こうして、はだかの王様という新たな戦力を得ることに成功したクリスは赤ずきんの目が覚めるまでの間これまでの経緯や本の世界での出来事について、また、今後の方針についてレオンを交えて話し合うこととなった。