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『赤ずきん』の世界

「それじゃあ早速、助手としての仕事をお願いしようか」

「もうですか?!」

「うん!時間はいくらあっても足りないからね!はいこれ」


 そういって手渡されたのは本棚に大量に並べられた白い本の中の一冊。

 他と違うのは、その本の表紙に「赤ずきん」と手書きで書かれていることだ。


「これは?」


 どのページをみても真っ白なその本にクリスは怪訝な表情を見せた。

 これを渡されたところで何をしていいのか全く想像ができないからだ。


「赤ずきんの本さ」

「……どうするんですか?」

「魔力をこめるんだ」

「いや、どうやってですか!」


 レオンの説明にクリスは思わず叫んだ。

 そりゃあそうだろう。魔力をこめろなんて言われて理解できたら、この世はすでに魔法使いで溢れている。


「あー、なんて言えばいいんだろうな……

 とりあえず本を持って、本の中に入りたいと思ってくれ」

「わ、わかりました」


 クリスは言われた通り本を握り目をつむった。

 赤ずきんの世界へ行きたい、僕を、僕達を赤ずきんの世界へ連れてってください。

 頭の中で祈るように何度も何度も唱える。

 次第に白い本を握る力が強まっていくと、目を閉じていてもわかるくらい眩い光に包まれた。


 光が感じられなくなってからそっと目を開けると、初めてレオンの魔法空間に来たときと同じように、一瞬で見ている景色が変わっていた。

 一回目と違うのはクリスの隣に銃を携えた赤ずきんがいることだろう。


「ここは……」


 見覚えのない景色に、クリスはあたりをぐるりと見渡した。

 彼等がいる場所には草原が広がっており、遠目には小さな町、そして深い森が見える。

 ただ、クリスたち以外に人の気配はなく、色も不思議なことにくすんでいるように感じた。

 地面に広がる草が緑色であることは認識できるのだが、光が足りないというか、彩度が足りないというか、どことなく灰色を帯びているように感じるのだ。


「多分、私の世界で間違いないと思う。なんとなくあの町や森を見たことある気がするし、どこか懐かしく感じるから」

「そっか、ほんとに本の中に来れたんだ……」


 摩訶不思議な現象に対する感動と、モノクロに近い世界に違和感を覚えるが、ここで立ち止まっていてもどうしようもないので、二人はとりあえず赤ずきんの記憶に引っかかるという町に向かうことにした。


「危ないっ!」


 突然、赤ずきんはクリスを突き飛ばすようにして背後に立ち、発砲した。

 パンっと乾いた音が響き、どしゃりとナニカが崩れ落ちる音がする。

 何が起きたのか理解していないクリスが赤ずきんの銃口の先を辿ると、そこには異様な形をした、到底生物とは思えないモノが倒れていた。

 そして、その後ろには地面に伏しているモノと同じような相貌をしたナニカが五匹の群れをなしている。


「なんだ、あれ……」

「呪いだよ」

「呪い?!……え?!」


 クリスの耳元で、なぜかここにいるはずのないレオンの声が響いた。

 思わずあたりを見回すも当然その姿は見えない。


「レオンさん?! どこから……」

「魔法でちょっとね。そんなことより今は目の前にいるヤツらを倒してくれ」


 魔法で、という説明になっていない説明に仕方ないかと納得するも、あの謎の生物と戦うという事実は理解が追いつかなかったクリスは思わず目を見開いた。


「えっ?! 倒すって、あの呪いとかいう黒いやつをですか?」

「ああ、呪いは内容が誰かに思い出されないように昔、王が魔法で封印したものだ。あいつらを倒せば赤ずきんの記憶が戻る」


 はっきりと言い切るレオンに同調するように、赤ずきんは銃を構え臨戦態勢をとる。

 戦う術を持たないクリスはせめて邪魔にならないようにと数メートル後ろに下がった。

 赤ずきんの焦げ茶色の瞳は鋭く光り、黒い群れを一匹たりとも逃さないような気迫を纏っている。

 ほんの数秒の睨み合いの末、赤ずきんが呪いの一匹に照準を合わせ、引き金を引いた。


 パァンッ!という音と共に一匹の呪いが銃弾に当たって弾け飛んだ。

 それをきっかけにほかの四匹が赤ずきんに向かって攻撃を仕掛ける。

 手足のない靄のような呪い達の頭突きというか体当たりのような攻撃を躱しながら、赤ずきんは再び銃を構えた。

 しかし、四対一という多勢に無勢な状況で全ての攻撃を躱し続けられるはずもなく、一匹の呪いの攻撃が赤ずきんに当たってしまう。

 一度当たり体勢を崩した赤ずきんは次もその次の攻撃も避けることができず、腹に、背中に、足に、肩に呪いの体当たりを受けた。


「ちっ……」


 防戦一方のままでは埒が明かない。そう思った赤ずきんは、肉を切らせて骨を断つの言葉通りにわざと呪いの一匹の攻撃を正面から受け、超至近距離で発砲した。


 弾の当たった呪いが消し飛ぶ。その隙をついてもう一匹が攻撃を仕掛けるが赤ずきんは同じ要領でその一匹も葬った。

 四匹から三匹、三匹から二匹に減ったにも関わらず、呪いはまた同じように突撃してくる。

 考える脳がないのか、ただひたすら突っ込んでくる呪い達を赤ずきんは冷めた目で撃ち抜き、ようやく全ての呪いが消滅した。


「赤ずきん!」


 しかし、いくらただの突進でも何度も正面から受ければそれなりのダメージが溜まる。

 クリスはドサリと地面に倒れた赤ずきんに駆け寄ることしかできない自分を不甲斐なく感じていた。

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