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それが最後だと言うなら、私はあなたと  作者: 奏多


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くらげが望む未来には 1

「やぁ、今度は君にとってどれくらいぶり?」


 暗い山道の中、昨日の晩と同じ場所に座っていたジークリードを見つけたユーディットは、困惑して返事をしずらかった。

 あれほどのことがあったのに、明るい表情をしていることにほっとするのが半分。

 なにもなかったかのように、挨拶してくる彼が、無理をしているのではないかと思うのが半分だ。


「ジークリード王子……」


「ああ、その言い方面倒だろう? ジークでいいよ。王子なんて肩書き気にしなくても」


「じゃあお言葉にあまえて。でも、弟さんと似たような事を言うのね」


 ある意味似たもの兄弟だなと言えば、ジークリードが興味を示してきた。


「エリオスが何て?」


「クレイドルが国を滅ぼしたら王子じゃなくなるんだから、敬語じゃなくても別にいいって」


 教えると、ジークは納得したらしい。


「ああ、エリオスは現実的な子だからなぁ。僕よりも地に足がついてるしね。おかげで派手なことをしないし好まないしで地味に見えちゃうのがもったいないよね」


 さりげなく弟を自慢され、ユーディットは思わず笑った。


「ジークも充分現実的だと思うけど」


 へらへらしているが、ジークのそれは擬態だとユーディットにもようやくわかってきていた。

 あまりに優秀すぎれば、弟へ矛先が向いてしまう可能性もある。また、ジークを推す勢力が勢いづきすぎても、今度は父王達の執政の妨げになる可能性もあった。


 だからくらげの件を前面に押し出して周囲を煙にまいているのだ。前回の白い影の件で、嫌になるほどそれがよく分かった。……まぁ半分は素かもしれないが。

 なんにせよ『おろか』に見せかけることで、ジークは彼の最も優先すべき『家族の安全』を保っているのかもしれない。


 ユーディットにそんなことを言われるとは思わなかったのだろう。ジークは意外そうに目をまたたき、それから微笑んだ。

 年相応の青年らしい、笑みだ。

 じっと自分を見つめてくる視線は、どこかユーディットを落ち着かない気分にさせる。


「そんなことを言うのは、君が初めてだよ」


「ご両親も?」


「そうだな。うちの父と母は僕の事を頭まで気泡体になったんだと言ってたけど」


「気泡体って?」


「くらげの頭みたいな部分のこと。いかにも空気はいってそうだと思わないかい?」


「あぁ……」


 ユーディットは一瞬、ジークの頭がくらげになった光景を思い浮かべてしまった。いつものふわふわした様子ばかりを見せていたら、確かにそう言われてもおかしくはないだろう。

 その間にジークは立ち上がり、歩き出した。


「じっとしていても何も起きないみたいだから、先へ歩こう。そもそも騎士アーベルも山道を登りながらいろいろ試練を経験したんだし」


 ユーディットはジークを追いかけながら尋ねた。


「そういえばこの山って、本当に聖なる山なの?」


 フォルクレスという山の名前など、ユーディットは聞いた事もない。

 最初は創作物語だからと気にしなかったが、こうして本の中の世界を経験していると、もしかして本当に存在しているのではないかと思えてきた。


 だから魔術師なら知っている山なのかと考えたのだ。

 この黒い本にも、騎士アーベルは魔術師から聖山フォルクレスについて教えられたと書いてあった。


「さて……本当に聖なる山なのかって保証はないなぁ」


 ジークはくすくすと笑いながら答えてくれる。


「僕の推測としてはね、アーベルに山の事を教えた魔術師は、嘘をついたんだと思うよ」


「嘘?」


「騎士なんてのは、正義とか聖なるものって単語が大好物なんだ。アーベルを可哀相に思った魔術師は、ここに闇の術を手に入れる方法があるとは知ってたけど、普通に話したらアーベルはそこへ行かないと思ったんだろう。

 まぁ、闇の術を手に入れられる、闇の精霊がいる山を教えてあげるよ? なーんて言われたら、さすがに怖そうだし、正義とは真逆っぽいしね」


「確かに、正義っぽくはないかも」


 闇と聞いて連想するのは、やはり夜とか、闇に隠されるような後ろ暗い面だ。


「でもアーベルは、気付かなかったのかな」


「気付いても、前へ進むしかなかったんだろうね。今目の前にある確実な方法が、それだけなのだとしたら」


 それにしても、とジークは続ける。


「次の試練は闇の中を進み、闇に染まれ……だったかな。まぁ、前回のことを考えると、言葉通りとはいかないだろうね」


 彼の言葉に、ユーディットは思わず緊張する。

 とたんに辺りの闇が怖く思えた。

 また、あの白い影みたいなのが出てくるのだろうか。


 自然と周囲を見回しながら歩いていると、不意に右手が掴まれた。

 一瞬叫び出しそうになりながら見れば、ジークが手をつないでいた。驚くユーディットに、ジークが説明してくれる。


「なんかユーディー、道からだんだんそれちゃってるよ?」


「えっ?」


 足下を見れば、確かに道の端に寄っていたのがわかる。

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