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それが最後だと言うなら、私はあなたと  作者: 奏多


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くらげは昼の空に舞い上がる 4

 ユーディットの戸惑いは、件の宿へ着いた瞬間にさらに大きくなった。


「殿下!」


「エリオス殿下!」


 宿泊所らしき、白い長方形の建物の前にいた三人の男性が、馬から下りた少年に駆け寄ってくる。


 複数人に呼びかけられているのだ、彼は間違いなく第二王子のエリオスだろう。

 明るい場所に来てみてわかったが、確かに少年の髪の色は、ジークリードと同じ琥珀色だった。


(どうしてわたし、今日はこんなに『王子』に縁があるんだろう)


 その間にも、大柄な熊に騎士服を着せたような人物が、ハンカチを与えたらもみくちゃにしそうな勢いで、訴えた。


「本当にどうしてお一人で動き回られたのですか! 心配したのですよ!」


「国が無くなるという瀬戸際で、王子もなにもないだろう。居る人間ができるかぎり分担してやった方がいいに決まっている」


「ですが!」


「どうせ魔術師を倒せもしない王子では、役立たずには変わるまい」


 あまりにきっぱりと自分を否定するエリオスに、集まった五人の騎士達は表情を曇らせる。


「けど殿下……」


 雰囲気が重い物に変わる。

 そんな中でエリオスが自分を振り返ったので、ユーディットは思わずびくついた。


「一人で降りられるか?」


「あ、はい、大丈夫です」


 ユーディットは馬から下りた。疲れた足に、固い石畳みの上に立つのは少しつらい。けれどぐだっと姿勢を崩すこともできなかった。

 三人の騎士達が、ユーディットを凝視しているのだ。

 それもそうだろう。勝手に一人出歩いた王子が、異性を連れて戻ってきたのだから。仮にユーディットが騎士の立場でも同じ事をするだろう。


「や、やぁ殿下も隅におけないな。女の子を連れて戻ってくるなんて」


 無理に雰囲気をやわらかくしようとしたのだろう。細身の騎士が、エリオスに笑いかけた。が、


「保護したのだ。浮ついた表現は彼女に迷惑になる」


 にべもなくエリオスに切り捨てられて撃沈する。


「でも本当に、どこから連れてきたんです?」


 それでも生贄がいた分、話だしやすくなったのだろう。別な長身の騎士がきくと、エリオスはユーディットの口からでまかせをそのまま話して聞かせた。

 横で聞いているユーディットは、少々居心地がわるい。他人が自分のついた嘘を復唱してる上、騎士達は同情してこちらを見ているのだ。

 いや、一人だけユーディットを不審がる者もいた。


「殿下、万が一とは思いますが、別働隊として侵入した敵の間諜という疑いなどはないのですか?」


 するとエリオスはふっと鼻で笑った。


「俺を見た瞬間に、この娘は逃げ出したんだがな。あんな足の遅さでは間諜としても使えまいよ」


 ユーディットはむっとした。

 むっとしたが、反論はしなかった。すぐにエリオスがユーディットへの疑いを晴らすため、わざとそういう言い方をしたのだと考えついたからだ。

 でも少々気分はよろしくない。この件については、後で兄の方に問いただそうと心に誓った。


 とにかく、ユーディットは彼らの宿泊場所に招き入れられた。

 元々軍の詰め所の一つだった建物らしい。いくつかの部屋と、それぞれに簡素ながらも木の寝台がある。

 まずは質素だが暖かい飲み物とパンをもらったユーディットは、お腹がようやく人心地ついてほっとする。


「それで、お前はこれから親戚の家に行くつもりなのか?」


 一つのテーブルを囲んで同じ食事をしていたエリオスに問われ、ユーディットはうなずく。ユーディットは東へ行かなければならないのだ。

 しかし次の質問に、思わず頬がひきつった。


「で、どこの町なんだ?」


 聞かれてから、ユーディットは必死に王都の東にある村や町の名前を思い出そうとした。が、焦って何もおもいつかない。でも言わないわけにはいかない。


「ま、マ、ルマール村」


 ○○村を少し改造してみた。


「ルマール? 聞いた事がないな」


 聞いた事が無くて当然だ、とユーディットは内心呻く。なにせ即席で作った、嘘の村名なのだから。


「ほんとに小さい村なんです。知らなくても仕方ないぐらい」


 なんとか言い訳をくりかえしていると、同席していた騎士の一人が眉をしかめた。


「君、もう少し殿下に対して不敬ではない言葉遣いをしたまえ」


 生真面目そうな黒髪の騎士に叱られ、ユーディットは「う、はい」と縮こまる。

 そんなユーディットを庇ったのは、当のエリオスだった。


「いい、気にするなユーディット。どうせ王子などと呼ばれるのも、あと少しの間のことでしかない」


「殿下!」


 抗議され、エリオスは嫌そうな表情になる。


「そろそろ諦めろハインツ。どうせあの魔術師をどうにかできない限り、我が国は滅ぶのだ」

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