脳内会議(プロットの立て方)
図書館の中は、うっすらとした日差しが室内の埃を際立たせていて、本が焼けないか心配になるぐらい、背表紙をセピア色に染め上げていた。本棚から少し外れた所で、椅子に座って頬杖をついて周囲を眺めていると、見知った顔の男女が四名ほど、駆け込んできた。まるで、物音を立てることが特権のように平然と振る舞っている姿を見て、思わず人差し指を口元に立てて、爪楊枝を吹き出すような音を立ててやろうと思って、その顔を見て驚いた。なぜなら全員、私の脳内で活動している人たちだったから。
男性は大柄で、どっしりと構えていて、髪の毛は多少ウェーブがかかっている。目鼻立ちはくっきりとしていて男らしくリーダー格である。常日頃から自分が憧れを描き、心の中で活躍させている彼が向かいに陣取っている。原色のポロシャツの第一ボタンをはずして襟を立てていた。昔、流行した着かたをなぞっていた。
隣には、肩まであるロングヘアーの女性が半そでのシャツを着て大人しく鎮座していた。薄紫色のボーダー柄が、彼女の聡明さを醸し出していて、落ち着いたたたずまいに彩りを添えている。
反対側には、丸顔のころっとした小柄の女性がレモン色のカットソーに、藤色のトレーナーのボトムといういで立ちで軽快さを演出している。
そして私の隣には、ロイドメガネをかけた短髪の男性が、神経質そうにメガネのフレームを中央から押し上げていた。
「では、なぜあなたがプロットを作れないのか今から検討します」丸顔でセミボブの女性が、中音域の金属ボイスで読み上げる。(おいおい静かにしなくていいのかよ)と思ったが、周囲には自分たち以外の人は存在しない。
「要求する完成度が高すぎるんじゃないのか」真向いの男性に、痛い所を突かれる。彼は黒目を大げさに動かすと眉毛を引き上げて私の顔をしばらく見つめた。押しの強い態度に仲間ながら、緊張に支配された。舌が奥に引っ込んで乾いたまま貼りついた。
「話を進ませることは誰でもできるはずですよ。大半の人たちはそうやってプロットを作っているはずです」
隣の男が、メガネのレンズに指紋が付くのを嫌がったのか、右側のつるを掴んで、数分おきに持ちあげている。
「ところが、僕がやると石のとばりが降りてきて先に進めなくなるんですよ」私は自分の心情を説明した。エッセイにも書いたが、ストーリィの先を考えようとすると目の前に霧が立ち込め、大きな石でできた扉が眼前をふさいで、何も考えられなくなってしまうのだ。いや、映像で考えているのだが、その映像がカットされるというべきか。
「でも、あなたは、一週間前に全ての連載作品のプロットを書いたそうじゃないですか」彼女は立ち上がり、よくとおる高い声で私に噛んで含めるようにゆっくりと問いただした。薄い唇が開かれ、一語一語ていねいに耳に伝わって来た。
「つまり、わがままってことね」丸顔の女性は一方的に断罪する。その表情には八割の呆れと二割の怒気を含んでいた。ちょっと待ってくれと私は思いなおし、弁明を始めた。
「そのプロットは映像で出たものではなく、今後起こりうることを文章でまとめたものです」意味は伝わったのだろうか。元々映像で考える癖があるので、文章でのプロットは大雑把なものになりがちだ。執筆するときは、映像を文字に紡ぎなおして、言葉を重ねていく。プロットも見はするが、結局は脳内から導き出されていく映像を頼るしかないのだ。
「なぜ、続きが映像で出るのに、事前には考えられないのか」さっきより強い口調で、ロングヘアの女性が問い詰めに来た。
彼女が不思議に思うのも最もだが、『小説家になろう』を開いて原稿を書く段にならない限り、続きを書くことができないのだ。申し訳ないが、『今』しか考えられない脳の仕様だと言うしかなかった。
「そこ、障害に逃げないで!」小柄で丸顔の女性が、私を指さして睨みつけている。口は船が裏返ったような状態になっていた。プロットを立てられない自分にお冠の様子である。
「あのさあ、プロット立てないで恐怖心とかないのか?」中央の男が、不思議そうな表情で私を覗き込んだ。
「あんた心配性じゃん。計画表なしで最後まで行けると思えたわけ?」男にとって素朴な疑問を矢継ぎ早にぶつけてきた。
それについては、何故か不思議な自信があって、とにかく時期さえくれば自然に話が出来上がっていて、あとはそれを清書するだけである。今までもそうしてきたし、下手に計画表を書くと中身に話が引きずられてしまって、自由度が感じられないし、ふと思いついたことを話に組み込めない不満があった。
そのことを伝えると、男からは反論が来た。
「今だって五本停滞して、うち一本を無理矢理終わらせてんじゃん」
確かに、五本同時連載は、ちょっと負担が大きかったと思う。もしこれが三本程度で、しかも得意なコメディだったらもっと負担は軽減されていたような気がする。今回は恋愛ものが三本、ファンタジーが一本で、どちらも苦手の部類に入る。なお一部はよそのサイトで執筆している。
「これらに、計画表があったらもう少しスラスラ終わるんじゃないでしょうか」隣の男性はもうメガネをいじるのをやめて、まとめに入りだした。どうやら総出でなんとしても私にしっかりとした下書きレベルのプロットを立てさせようとしているらしい。
「どうしても無理だというのなら、なろうでプロットを書いてもらいます」ロングヘアの女性が、強い口調で私に最後通達を出した。彼女の考えは、他のメンバーと比べると知性的で理にかなったものだった。私は、彼女の提案を最終的に受け入れて、今後プロットは、『なろう』の小説作成で書くことにした。
問題があると言えば、たまに執筆内容が保存されないことがあるが、そこは全文コピーで対応しようと思う。




