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さかな

作者: 黒宮杳騏

夕飯の下準備中、溜まったストレスを発散するように肉たたきをドンドンと叩き付けながら、日頃から何かと目障りなあいつもこんな風に潰したいなぁ、なんて思った。

本当に一々鬱陶しくて仕方ないので、社会的制裁ではなく、本当に殺してしまいたいな、とさえ思った。


別の日に魚を捌いた時、まな板にじわりと滲んだ血を見て、これがあいつから勢い良く噴き出したらどんな感じなんだろう、と思いを馳せて、とりあえずその場は消極的な妄想殺人で満足した。


けれど限界というものは唐突にやってくるもので、私はやっぱりあいつを殺す事にした。


やると決めたら徹底的に、証拠隠滅も忘れずにやらなくちゃ。

すべて終わった後の宴はきっと楽しいだろうな、なんて心躍らせながら色々と準備も整えて、誰にも気付かれないように平静を装い殺意を消して近付いていく。

冷蔵庫を覗き込んでいるこいつとも、ようやくこれでお別れだ。

何気ないふりして背後に回ったら、さあナイフを振りかざそう。


でも、いざ刺してみたらこの位置からじゃ心臓までは届かない事が分かった。

それじゃあ今度は適当に、とりあえず勢いをつけて脾臓の辺りでも狙おうかな。

「どう?びっくりした?」

何が起きたのか理解が追いついていないこいつにはお構いなく、私はそう訊ねる。

思ったほど血が出ない事に失望して、少しだけナイフを握る手から力が抜けたけれど、改めてグリップを握る手に力を込めた。

じゃあ、と勢い良くナイフを引き抜いちゃって、もう一度やり直し。

今度は首にするりとナイフを添わせて、ようやく状況を理解したこいつが慌てて押さえた指の隙間から、溢れる真っ赤なヘモグロビン。

酸化するのも間に合わない早さで、どんどんこいつの服を濡らしていく。

相対的に白くなっていくその顔は滑稽ですらあり、最高の酒の肴になりそうだ。


「あははは・・・そんなに震えなくても大丈夫だよ?」

ほら、馬乗りになって力一杯最後の一刺し。

「どうして?」と問いかけるように伸ばされ、途中で事切れてだらりと垂れた腕。

無防備に晒された首から零れ続ける血液が、じわじわと床に広がっていく。

テーブルに置いてあったワイングラスで溢れる血を掬って光にかざし、「汚いな」って呟いて投げ捨てた。


所詮、こいつに綺麗なものなんて一つもないんだ。

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