7.依頼
春告鳥の翼亭に宿を取った日の翌日、マリアベルはクナート北にある戦神神殿へ挨拶に行った。
神殿ではカルロス・ジアンという神官戦士団団長自ら出迎え、マリアベルを歓迎してくれた。一日かけて訓練場や鍛錬の様子をたっぷりと見学することが出来、非常に充実した時間を過ごした。
その翌日からは、朝から半身鎧に身を包み、意気揚々と町の周辺の探索に出かけた。道に迷うことも多々あったが、大きな町だけあってすぐに人が見付かり、道を教えてもらうことが出来た。マリアベルとしては、不謹慎ながらあわよくば妖魔初討伐と行きたかったのだが、そう上手いように事は運ばず、結局数日経った今も妖魔に遭遇する事は無かった。
「おかしいな……町の周辺で妖魔が増えているんじゃなかったのか?」
町の周辺の探索を終えて春告鳥の翼亭に戻ったマリアベルは、4人掛けのテーブルの椅子に座ると、眉間に小さな皺を寄せながら首を捻った。ちょうどそのタイミングでドアベルが鳴り、外からシアンがやって来た。すぐに座るマリアベルに気付き、片手を上げながらこちらにやって来た。
「おっす、ベル!」
「ああ、シアン殿――いや、先輩、とお呼びした方が良いのだろうか」
「先輩! いいねー! じゃ、先輩呼びで!」
「はい。では、シアン先輩。こんにちは」
「おう! で? どした? むくれた顔して」
「えっ い、いや、そういうつもりは……平和な事は良いことで、決して妖魔が出ないことに不満など持っては」
「ぶはっ」
マリアベルの言葉にシアンが吹き出し、カラカラと笑いながらマリアベルの座る席の前の椅子に座った。
「はははっ 成程、ベルも町の周辺で妖魔探ししてたわけか!」
「ベルも?」
「そそ」
頷いてから、シアンはニヤリと笑って肩を竦めた。
「今クナートにいる冒険者、殆ど全員が町の周辺の妖魔警戒に当たってるから」
「なんと!」
目を剥いてマリアベルは絶句した。――クナートは“冒険者の町”と呼ばれるほど、冒険者が多いという。そして、熟練冒険者も数多い。そんな彼らがこぞって町の周辺を警備していたら、なかなか妖魔に遭遇しないというのも頷ける。そこで、ふとマリアベルは気付いた。町の周辺へ探索に出かけた際、幾度も道が分からなくなったが、――町の周辺、つまり外、にも関わらず、すぐに人が見付かり、親切に道を教えてもらった。……あれはもしや、
「……初心者冒険者と気付かれて、先達がフォローしてくれていたという事か……」
「くくくっ そゆ事」
想像がついたのか、シアンはマリアベルの独り言に相槌を打った。
「まぁ、それでも何日か続ければ妖魔に遭遇することはあるはずだぜ? 人口密度が高いから、すぐ周りの冒険者もフォローに入ってくれるだろうし」
「それは助かります。逆に、私も誰かが襲われていたら加勢します」
「そうそう。冒険者たるもの、相互扶助が大事だからな!」
「相互扶助、か」
鸚鵡返ししてから、マリアベルは大きく頷いた。冒険者は相互扶助の精神が大切――故郷ヘッケンシュタットの屋敷の中で温かな使用人たちと過ごした日々が不意に脳裏を過る。彼らは大丈夫だろうか。
「あ!」
物思いに耽っていると、シアンが短い声を上げて椅子から腰を上げた。気付いたマリアベルが訝し気な表情でシアンへ視線を向けるが、彼は気にも留めずに慌てたように席を立って掲示板の方へ向かって行った。
「ちょっ……え、マジで?!」
「シアン先輩、何かありましたか?」
「おいベル! 依頼!! 依頼が来てるぞ!!」
「え?!」
椅子から飛び上がり、マリアベルも掲示板へ駆けつけた。
「ホラ、ここ!!」
シアンが指し示す羊皮紙には、確かに“妖魔討伐依頼”の文字が書かれている。
「えーと、なになに……妖魔討伐依頼、場所は……テアレム。へぇ、あそこか」
「シアン先輩が知っている町ですか?」
「こっから東の街道を半日くらい行ったところにある村だ。……あ、おーい! 店員さん! この依頼、俺たちで請けても良いっすかー?」
マリアベルへ返答してから、通りすがりの店員に声を掛ける。すると、声を掛けられた店員はトレイを手にしたまますぐにシアンとマリアベルの傍らへやって来た。
「テアレムからの依頼ですね。畏まりました。まだどなたも申請していませんので、お受け頂く事が可能です」
「よっしゃ! おいベル! いっちょやるか!!」
「私も良いんですか?」
「ったりめーだろ! そもそも、討伐依頼を1人で請けるってのはよっぽど熟練冒険者じゃないとやらないからな」
2人が会話している間に、店員が掲示板から討伐依頼の羊皮紙を剥がし、「要綱をお出ししますので少々お待ちください」と断りを入れてカウンターへ入った。
しばらくすると、店員が数枚の羊皮紙をカウンターに並べた。
「今回の依頼では、テアレム近くにある中級妖魔の根城の殲滅ですね」
「中級妖魔かぁ~」
店員の説明に、シアンが渋い顔をする。羊皮紙とシアンを交互に見てから、マリアベルは首を傾げた。
「何か不味い事でもあるんですか?」
「いやー、俺は中堅冒険者っつってもまだまだ下っ端だし、ベルは冒険者としては初の依頼だろ? 力量的に、あと2~3人は欲しいかな……ベルって魔法使えるっけ?」
「いえ、戦神様の御力をお借りして傷を癒す事は多少出来ますが、魔法は全く」
「俺もだ。弓は?」
その問いに、マリアベルは首を横に振る。「俺もだ」とシアンは肩を竦めた。
「前衛職2人だけっつーのはちょっと危険だな……低級妖魔ならさておき」
「いかがいたしましょう。おやめになりますか?」
シアンの言葉が耳に入ったのか、店員が温度の無い声で問うた。慌ててシアンは首を横に振り、カウンターに置かれた羊皮紙を両手で押さえた。
「あいや、ちょっと待て! やる!! 他の奴に声かけるから!! キープだ!!」
「では、人員が決まりましたらお声がけ下さい」
店員はシアンの言葉に慇懃に一礼して答えると、カウンターの上に並べた依頼要綱をシアンの両手の下からスルリと抜き取り、表情一つ動かさずにカウンターの内側へと仕舞った。頭を掻きながらシアンはカウンターに背を向けて「どうすっかなー」とぶつぶつ呟いた。
「人員が決まってからでないと正式に請けられないんですか?」
「あー、一応ね。帰った時に1人足りない、とかあったら困るだろ」
さすがに2人で行って1人で帰ってきたら、店員ではなく本人が気付くのではないか、と微妙な顔をしていると、それに気付いたシアンが補足した。
「冒険者の店で依頼を請ける場合ってさ、必ずしも全員知り合いでパーティを組んで請けるってゆーんじゃないワケ。初顔合わせの5~6人の大所帯で請けて、行った先の妖魔との戦いで死人が出た場合、そいつが何者なのか誰も知らない、って事になったら困るだろ?」
「そ……れは、確かに」
「そういう時の為に、依頼を掲示していた冒険者の店側で、最低限の情報――まぁ、名前と職種くらいかな。そいうのを登録しておくんだよ。後日、身内が捜しに来たら分かるように」
なんてことないように述べられた言葉だが、それだけで冒険者という人間は死と隣り合わせという事が伺える。知らず知らず、マリアベルはこくんと唾を飲み込んだ。
「つってもさ、お互い若いし? 青春ど真ん中だし? まだ死にたくはねーよな! って事で、依頼はキープしてもらってるから、戦力になりそうなやつに声掛けようぜ!」
「はい! ……ところで、シアン先輩には何かアテはありますか?」
「うーん、熟練冒険者ってなると、シンさんとかネアさんだけど……」
シン、と聞いて、マリアベルは春告鳥の翼亭に初めて来た日に扉の前で出会った、柔和な表情をした半妖精の青年を思い出した。確かに、周辺地理の知識も豊富そうだったし、醸し出す雰囲気も落ち着きがありながら、頼りになる懐の大きさを感じた。
「ネア殿は存じ上げませんが、シン殿は確かに熟練冒険者の風格がありましたね」
「まーな。あーんなふにゃふにゃした顔してながら、戦闘になると鬼みてーに強いからな、シンさんは」
「おお! そうなんですか?!」
期待に目を輝かせるマリアベルに、シアンは肩を竦めた。
「けど、余程じゃねーと孤児院の仕事休んでまでは来てくれないんじゃないかな……シンさんの中では孤児院……っつーか、ミアさん第一だろうし」
「ああ、そのお名前、以前もお聞きしました。シン殿の恋人でしょうか?」
「恋人っつーか、結婚も近いって話しだぜ」
「なんと! シン殿は婚約されているんですか?」
「2人の共通の知人っていう、シェラって人いるんだけど。その人が言うには、今年中にはゴールインするんじゃないかって話しだ。まぁ、傍から見たら既に夫婦だし? ミアさんの年齢的に適齢期ギリギリだし、――事情は色々あるだろうけどさー、早いとこハッキリしろよって俺も思ってんだよな」
「成程。それであれば、依頼にお誘いしても色よい返事は頂けないでしょうね」
「だな~……ってなると、ネアさん……いや、ネアさんは俺たちと力量差がありすぎるよなぁ~……」
うーん、と頭を抱えて唸るシアンを見て、マリアベルも自分の交友関係を思い起こしてみる――が、クナートに来てからは一般の町の人――例えば露店で野菜を売る人、果物を売る人――と交流はしているが、積極的に冒険者らしき人物と交流は持てていない。
2人とも、店の真ん中で立ったまま腕組みをし、頭を捻る。――と、シアンの両眼がカッと見開かれた。
「ハッ 危険!!!?」
「シッアァ~~~~~ン!!!!」
シアンが短く叫ぶのと、甘く高い声が上がるのと、同時だった。その直後、黒い人影が素早くシアンに飛び掛かり、彼が鈍い叫び声を上げる。
「ぎゃぁあああああ」
「シアンっ シアンん~~~~~!!!」
シアンに飛び掛かった黒い人影――黒く長い髪を一つに結い上げた女性は、シアンの頭を胸に抱きしめ、ぐりぐりと旋毛に頬ずりをしながらハートマークをそこかしこに飛ばした。
「会いたかった☆」
「やーめーろーーーーー」
「うんっ 照・れ・屋・さ・ん☆」
「やーーーーめーーーーろーーーーーーっ」
「うふっ 可愛い☆」
「聞けぇぇええええ!!」
唐突に始まった喜劇に、マリアベルは目を真ん丸にして口を挟めずにいた。もがくシアンの頭を、離してなるものか、と力いっぱいボリュームのある己の両胸に押し付けるように抱き込んでいた黒髪の女性は、ハタとマリアベルに気付いて眉を吊り上げた。
「シアン! 誰だこの女性は!!」
「むぐ……」
「私がいない間に浮気か?! 浮気は男の甲斐性だという者もいるが、私は認めないぞ!?」
「むがっ……むごご……」
「どうしてもというなら……シアンをかけて勝負する!!」
「っ窒息死するわーーー!!!!」
全力で足掻いて、漸くシアンは黒髪の女性の両胸の圧力から解放された。女性の方はきょとんとした顔で小首を傾げている。
「どうかしたか? シアン」
「どうかしたか? じゃねぇーーー!!!」
ぜーはー、と息を切らせながらシアンは彼女から距離を取った。それから、マリアベルの視線に気付いて取り繕う様に咳払いをして居住まいを正し、彼女を紹介した。
「あー、コホン。ベル。こいつはシュウカ。ただの知り合いだ」
「私はシアンの嫁のシュウカだ」
「た・だ・の! 知・り・合・い・の! シュウカだ!」
「シアンは照れ屋なんだ」
「違う!!」
繰り広げられる漫才を見ながら、マリアベルはタイミングを見計らって自己紹介した。
「シュウカ殿、私はマリアベルと申す。どうかベルと呼んで欲しい。よろしく頼む」
「うむ、ベルだな。……本当にシアンとは何でもないのか?」
「シアン先輩は私にとって冒険者の先達。尊敬こそすれ、下心を持つなどとんでもない」
その言葉に、シュウカはジロリとシアンに視線を送る。シアンは面倒くさそうに頷いた。すると、コロリと表情を明るくして、シュウカはにこやかにマリアベルに向き直った。
「それで、一体何の話しをしていたんだ?」
「テアレムという村から、妖魔討伐の依頼が入ったのだが、さすがにシアン先輩と私だけでは心もとない為、何方かに助力を得ようと相談していたんだ」
「テアレム? ああ、東の村か……って、ちょっと待て。シアンとベル、2人で行く気だったのか?」
「え? ああ、当初は……」
「ならん!! 絶対ならん!!! 断固反対する!!」
「だから! 今ベルが説明しただろ!? 他の面子を誘う相談してたんだって!!」
激高するシュウカに、語気を強めにシアンがツッコミを入れた。すると、シュウカはあっさりと「そうか」と頷き、目を輝かせた。
「ならば、私も行こう! こう見えて、多少は腕に覚えがある」
「お前も前衛職じゃねぇか……」
「いないよりはマシだろう?」
「そりゃそうだけどな」
「ベルもいいだろう?」
「ああ、勿論構わない」
「ならば決まりだな!」
嬉々としてシュウカが言った直後、春告鳥の翼亭の扉がまた開いた。外からひょっこりと焦げ茶色の頭髪をした半妖精の青年が入ってくる。
「あれ、珍しい面子だね。こんにちは」
にっこり笑って3人の方へやって来た。
「シンさん、休憩ですか?」
「うん、そんなとこ。シアン達はどうしたの?」
「妖魔討伐の依頼が貼り出されたんで、人数募って行って来ようかと思って」
言ってから、シアンは駄目元とばかりにシンに誘いをかけた。
「テアレムなんですけど、シンさんもどうっすか?」
「うーん、僕は仕事があるから、パスかな」
予想通り、笑顔でアッサリと断られてしまった。「な?」と目線でマリアベルに訴えてから、シアンはシンに別の事を口にした。
「そいや、星祭の準備もあるんでしたっけ」
「そうだね。あと10日だからね。ティラーダ神に仕えている以上、準備に携わらない訳にも行かないかな」
「10日か……あ、そういえばベル、星祭行きたいんだったっけ?」
以前、マリアベルが“何としてでも行きたい”と口にしていた事を思い出し、シアンは彼女に顔を向けた。
「行きたいと思っている。……10日後であれば間に合うだろうか」
「テアレムまではここから片道半日だから、余程の事が無い限りは間に合うんじゃないかな」
僅かに表情を曇らせたマリアベルに、微笑んでシンがフォローした。それから、シアンに依頼について確認する。
「因みに、どんな内容なの? 妖魔討伐って」
「中級妖魔の殲滅だそうです」
「ああ……確か、あの村の近くに根城があったね。一度は空になったはずだけど、また住み着いちゃったのかな」
「あれ、シンさん知ってるんですか?」
「前に行った事があるんだよ」
「へぇ~」
行った事があるなら、尚更シンについて来てほしいところではあるが、孤児院の仕事に加えて星祭の準備もあるというのであれば難しいだろう。シアンとシンの会話を聞きながら、マリアベルはそんな事をぼんやりと思った。
「中級妖魔だとしたら、シアンとベルちゃん、シュウカちゃんの3人の他に、もう数人は人数を増やした方が良いかな」
「しかも、前衛職ばっかですからね……一応、ベルはちょっとした傷を回復する事は出来るらしいけど」
「増やすとしたら、後衛職として弓か魔法を使える人がいると良いんだろうけど……アリスちゃんやシエルちゃんはどう?」
「げ」
「むっ」
シンの提案に、シアンが顔を引き攣らせ、シュウカが目尻を釣り上げた。
「いや、あいつらは……一応、魔法は使えますけどね? そもそも冒険者じゃないし……」
気が進まないのか、歯切れ悪く言いながらシアンは頭を掻いた。その傍らで、シュウカがジトっと据わった目で彼を見ている。――どうやら、アリスかシエル、またはどちらもか――は、シュウカにとって恋敵らしい。
「妖魔との闘いとか、あんま……巻き込みたくないっつーか……」
「2人はそうは思ってないと思うよ? どちらかというと、シアンの力になりたいって言うんじゃない?」
「だとしても、ですよ! あいつらが怪我するとこなんか、見たくないっすからね、俺」
苛立ちを隠さずに、シアンはボソリと呟いた。それは恋する相手に向けられた、というよりも、大切な家族に向けられた言葉だった。
「シアンに私も同感だ。アリスもシエルも、冒険者という仕事とは縁遠い普通の女性だ。言えばついて来たがるだろうが、危険に晒す事になる」
「それはそうなんだけどね」
シュウカの言葉に、シンは頷いてから小首を傾げた。
「彼女たちの方は、危険だとしてもシアンについて行きたいんじゃないかなって思うけどな。……でも、巻き込みたくないシアンの気持ちも分かるよ」
しみじみと言ってから、思案顔で続けた。
「彼女たちを誘わないとなると、早めに別の人を捜さないとね……村の人も困っているだろうし、星祭までに間に合うように戻るためにも、なるべく早く出発した方が良いからね」
「あー……うー、誰か適当なヤツいねーかな~……」
頭を抱えてシアンが唸る。シンも口元に手を充てて考え込んでいる。残されたマリアベルはチラリとシュウカの方を見た。ちょうど彼女もこちらを見たようで、顔を見合わせた形になった。――そこで、ふと彼女の面立ちが東国人の特徴を持っている事に漸く気付いた。クナートからは遥か遠い東国。彼の国から、冒険者としてここまで流れてきたのだろうか。――そういえば、マリアベルの婚約者だった男――ウィリバルト・ハインリッヒ・ウル・ルーエンハイムの一番上の兄の妻が東国人だったはず。シュウカのような、墨が流れる様な美しい黒髪と、切れ長の黒い瞳の女性なのかもしれない。
4人でそれぞれの事を思案している内に、日が傾いて来た。窓際はまだ明るいが、中央のテーブルは薄暗い場所もある。店員が火を灯した油皿を置き始めた、そんな時。
「こんばんは~お邪魔しまーす」
「おい、言い方!」
「いや、何にも言わないで入るよりは良いかと思って」
「それはそうだけど」
カラン、とドアベルが鳴ると同時に、賑やかな声が聞こえた。その声に、マリアベルは聞き覚えがあった。ドアの方へ顔を向けて、やはり見知った顔と確認してからベルは破顔した。
「ベン! ピーター!」
「あれっ? ベル?!」
目を丸くして応じた彼らは、クナートへ向かう驢馬車の中で知り合った、求職中の2人だ。ここにマリアベルがいる事が意外だったのか、ピーターが眉を顰めた。
「どうしたんだ、冒険者の店にいるなんて。まさか、何か困りごとか?」
「え? いやいや、私も冒険者として登録したんだ。今、ちょうど依頼を請けた所で……」
「依頼?! マジでか?!」
喜色を浮かべてベンが食いついた。あれ、とマリアベルは首を傾げる。
「もしかして、2人は冒険者だったのか?」
その言葉に、ベンとピーターも目を瞠る。
「え、言ってなかったか?」
「冒険者って言っても、初心者に毛が生えた程度だけどな。故郷の田舎じゃどうにもならないから、冒険者の町と名高いこの町に来たんだよ」
話が盛り上がる3人に、タイミングを見計らってシアンが入った。
「ちょい、タンマ! 俺はシアン! よろしく!」
「ん? ああ、よろしく!」
「どうも」
挨拶もそこそこに、シアンは畳みかけるように質問を投げかけた。
「で? 2人は冒険者なんだって?」
「今話した通り、腕はまだまだだけどな」
「職は? 前衛? 後衛?」
「俺は……――あ、俺はベン。こっちはピーター。で、俺は狩人……と、まぁ、難易度低い鍵開けくらいなら出来る。で、こっちのピーターは魔法使い。古代語魔法を……」
「後衛職ッ キターーーーーー!!!」
「は?」
「?」
ガッツポーズで叫ぶシアンに、不思議そうな顔で後ずさりつつ、ベンとピーターは説明を求めるようにマリアベルを見た。