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螺旋のきざはし  作者: hake
第一章
54/110

52.ティラーダ神殿での面接



 ――――やってしまった。



 早朝、ぐっすりと眠った事でスッキリとした頭で、ソフィアは思い出したくない事まで思い出し、おもいっきり渋面を作った。そのすぐ隣には、違和感が全くないシンの寝顔。



(いや! 違和感なきゃダメでしょ?!)


 今すぐ飛び起きて頭を抱えてしまいたい衝動にかられながらも、シンの幸せそうな寝顔を見ると起こしてしまう事に抵抗を覚える。もやもやとしたまま、ソフィアはそろりそろりとシンの腕の中から身を引き始めた。――が、


「うぅ~ん」

「~~~~~~っ!!?」


 ガシッ


 本当は起きてるんじゃ、と疑いの眼差しを向けてしまう程タイミングよく、シンの両腕がソフィアの身体を引き戻して抱き締めて来た。悲鳴が喉元まで出掛かるが、頭の片隅で「今は早朝よ! 悲鳴なんて上げたらご近所迷惑だわ!!」と彼女の理性が叫び、何とか堪えて歯を食いしばった。



「……本当にもうっ どれだけ子ども扱いなのよ……っ」


 ごく小さく、それでも黙っていることは出来ずに声に出して、ソフィアは愚痴を零した。それから昨夜シンが話した彼の過去の話しをふと思い返した。



 人間の両親に愛されて育った事、半妖精ハーフエルフである事で理不尽な差別を受け、大切な両親の店を畳まざるを得なくなった事、それでも、引っ越した先で幸運に恵まれた事、――そして両親との別離、辛い冒険者時代の中で、ようやく巡り合えた気の置けない仲間――そこでソフィアの記憶は途切れた。



(……あ、そうか……途中で寝ちゃったんだわ、あたし)


 囁くような柔らかなテノールを耳元で聞きながら、安心できる温かい腕の中で、途中からかなりの眠気が生じていたのだが……まさか寝落ちるとは。眉間に思い切り皺を寄せて、ソフィアは自己嫌悪に陥った。



「ん……ソフィア?」


 眠そうな声に呼ばれて、ソフィアは意識を目の前に戻した。緑碧玉の色の双眸が彼女の視線を受けて嬉しそうに細められた。


「おはよう」

「お……はよ、う」


 ぎこちなく挨拶を交わしてから、ソフィアはゆっくりと半身を起こした。彼女がふらついても支えられるように様子を見てから、シンも上体を起こした。それから、様子を伺う様にソフィアの顔を覗き込んだ。


「よく眠れた?」

「……あの、」

「ん?」

「昨日……ごめん、なさい。――あたし、いつの間にか、寝てたみたいで……」

「あぁ、そんな事! 全然気にしないで良いよ」


 神妙な顔で謝罪するソフィアに、シンは笑顔で首を横に振った。


「それより、昨日のこぶ、大丈夫? 痛くない?」

「平気」

「もう……我慢できる、っていうのは平気とは言わないからね?」


 手を伸ばして彼女の後頭部を優しく擦りつつ、シンは微苦笑した。


「やっぱりまだ腫れてるね。――熱は?」


 言いながら、反対の手でソフィアの小さな額にそっと手の平を当てる。


「こっちもまだ少しあるね。――ティラーダ神殿の面接、今日は止めて休んでいたら?」

「冗談じゃないわ」

「うーん、だよねぇ」


 ソフィアが拒否するのを分かっていた様子で、困ったようにシンは苦笑した。


「じゃあ、約束。行きはもちろん送るけど、面接が終わってからは、神殿で僕が迎えに行くまで待ってて。お昼には一度抜けてくるから」

「どうしてそうなるのよ」

「頭の怪我は怖いんだよ。急に歩けなくなったりする事だってあるんだから」


 シンの口調は大袈裟だったり揶揄っていたりする様子はない。その表情も真面目そのものだった。


「ソフィアに何かあったら、僕、後悔してもしきれない」

「~~分かったわよ」


 内心、ほだされてきている気がして思わず苦虫を噛み潰しながら、ソフィアは控えめに頷いた。



* * * * * * * * * * * * * * *



 身支度を整え、階下の酒場で朝食を済ませると、シンとソフィアはそれぞれ出かける準備をした。――というか、ソフィアの方は今日から部屋を変えるつもりで荷物をまとめようとした。――だが、案の定シンに、やれ「2人なら部屋代が折半で済む」だとか「お互いに何かあった時に、お互いの職場に連絡が取れる」だとか、あれやこれやと上手く丸め込まれ、結局いつの間にか継続してこの部屋に住むことになってしまった。


 そんなこんなで、シンに手を引かれながら――これも「今転ぶと危ないから念のため」などとシンがおどかすのでソフィアとしては渋々――ティラーダ神殿へ向かって歩いていた。


 神殿の門の前まで来ると、シンは「終わったら絶対待っている様に!」と念を押すと、軽やかに身を翻して孤児院の方へと駆けていった。その背中を見送ると、ソフィアは神殿の門に手を掛けた。何となく腹の調子が悪い。――はらわたが鈍く締め付けられているかのような感覚だ。――それは所謂、緊張というものなのかもしれない。小さく深呼吸を数度繰り返すと、門の取っ手を握る手に力を込めた。



「当神殿に何か御用でしょうか」


 黒いローブを着用した、赤茶色のセミロングの女性が、受付カウンターからソフィアを見咎めて声を掛けてくる。


「あの……昨日、面接の予約、を……お願いした、ソフィア、と、言い、ます」


 女性の鋭い眼光に怯みながらも、何とか要件を伝えると、彼女はチラリと手元の資料に目を落とした。


「ソフィアさん――確かに、蔵書整理、分類手伝いの面接の予約が入っていますね。失礼しました」


 言いながら、女性はカウンターの上に置かれたベルを2度鳴らす。すると、近くにいた黒いローブの青年が本を片手に歩み寄ってきた。


「シンシアさん、どうなさいましたか?」

「こちらの方を面接室へご案内してあげて欲しいのですが」

「ああ、結構ですよ。丁度近くの資料室へ行きますから」


 受付の女性に頷いて見せてから、青年はソフィアの方へ向き直ってやや目をみはった。その様子を見て、受付の女性が小さく咳ばらいをし軽く睨む。バツが悪そうに彼は誤魔化し笑いをすると、ソフィアに改めて向き直った。


「失礼、お待たせしました。では、私の後をついて来てください」


 言うや否や、踵を返してスタスタと歩き始める。先ほどの彼の様子にやや訝し気な視線を向けていたソフィアは、慌てて受付の女性に小さく会釈すると、先導する彼の後を小走りで追いかけた。



 神殿の中は、やはり豊穣神エルテナの神殿とは様相が異なった。あちらは廊下や柱に柔らかな曲線が多いのに対し、こちらは直線的なものが多い。曲がり角一つとっても、緩やかに円を描くようなカーブと直角、と全く異なっていた。

 つまり、ティラーダ神殿では先導する青年が角を曲がると、一瞬でその姿が見えなくなる。気を抜くとすぐに見失い、迷子になりかねない。ソフィアは遅れまいと足を動かしながらも、必死で道順も覚えた。何せ、帰りは一人で神殿の入り口に戻る可能性があるのだ。



 重厚な焦げ茶色の木の扉の前で、先導していた青年はようやく足を止めて振り返った。


「こちらが面接の部屋です。――ご幸運を」


 言葉だけではそっけなく感じそうなものだが、声音には温かさがあった。小さくお礼を伝えると、青年は少し頬を赤らめると、慌てて目を逸らして一礼し、本を抱えたまま廊下の奥に消えて行った。その様子を訝し気に見送った後、小さくかぶりを振って扉へ向き直る。



(面接……――よく考えたら、こんな立派な仕事の“面接”って初めてだわ)


 再びはらわたが締め付けられる様な感覚に襲われ、ソフィアは思わず両手を己の腹に当てた。



(うぅ……お腹が変。――でも、ここで迷っていても仕方ないわ。なるようになれ、よ)


 ぎゅっと両目を強く瞑ってから、そっと開いて小さく息を吐く。それから部屋の扉をノックした。



「どうぞ」


 思ったよりも若い声が扉の中から聞こえてきた。粗相が無いように慎重に扉を開けて部屋に入ると、入口から真っ直ぐ向かった先に大きな執務机があり、そこに20代半ばほどの年嵩の、線の細い男が座っていた。紫に近い青色の少し長めの髪と、同じ色の瞳。――眉間には不機嫌そうに皺が刻まれていた。


「うん? 君、ここは子どもの遊び場ではないんだぞ。――受付は誰だ。何故子どもの侵入を見逃している」


 瞳に非難の色が浮かぶ。色々否定したい事は山々だが、まず先にソフィアは一番優先すべきことから訂正した。


「あたしは子どもじゃなくて成人してる……ます。昨日、面接の予約を入れている、ソフィア、です」

「なんだと?」


 ピクリと青年の片方の眉尻が上がる。そしてそのまま、彼は机上の書類を手に取り、さっと目を通した。


「確かに、面接の予約は入っているが……君が成人しているだと?」

「してい、ます。証拠って言われても出せな」

「いや待て。それなら精霊に聞く。そのまま君は黙っていたまえ」


 ソフィアの言葉を遮り、彼は執務机から立ち上がった。それから口の中で何かを呟き、しばらくするとゆっくりと目を見開いてから呆れた様に息を吐いた。


「――どうやら、嘘は言っていないようだな。――よかろう、そちらの椅子に座りたまえ」


 言われるがままに椅子に座ると、続けて男は彼女の目の前の机に羊皮紙を数枚と羽ペン、インクの壺を並べた。


「申し遅れたが、私が面接担当官を務めるルナ・ハーシェルだ。では、さっそく試験を始める」


 温度の無い眼差しで見下ろしながら言い放つと、ルナは少し離れた同じ机の上に砂時計を置いた。


「この砂時計の砂が全て落ちる前に、今君の目の前に置いた羊皮紙に書かれている設問に答えるように。3枚は共通語、2枚は古代語で書かれている。内、それぞれ1枚ずつは共通語、古代語の文書作成問題になる。以上。説明は終わりだ。質問はあるか」


 彼の問いに、ソフィアは小さく首を横に振った。それを確認すると同時に、ルナは「では、スタート!」と言い放ち、砂時計をひっくり返して机の上に音を立てて置いた。



 内容としては、共通語は全く問題なくクリアできた。古代語はやや苦戦したが、アーレンビー家で幾度となく触れた単語が多くあり、辛うじて読み解く事は出来た。文書作成については……かなり自信は無いが。

 解き終えた問題を見直しし、作成した文書の誤字脱字をチェックし終えた段階で、砂時計の砂が落ち終わり、時間切れとなった。

 少し離れた場所からソフィアの様子を見ていたルナは、ツカツカと歩み寄ると羊皮紙を素早く回収する。それから軽く目を通し、フン、と小さく鼻を鳴らし、そのままソフィアの向かい側の椅子に腰を下ろした。


「では、次は面接だ。このまま続けるが、よろしいか」

「ええ」

「まずは、君の出自だ」

「え……」

「なんだ、何か後ろ暗いところでも?」

「いえ、……村、ですけど、名前は無かったので」


 ――否、あったのかもしれないが、耳にした事はない。そして、誰かに聞いてまで確かめたいとも思わなかった。


「フン――まぁ良いだろう。つまり、名もない田舎の村から出てきたという訳だな。ならば、この古代語は誰に師事した? ――随分偏りがある様だが?」

「“偏り”……?」

「少なくとも、君が正解しているのは古代語の中でも魔法に関わる単語が多い。逆に、単純な単語の正解率はやや低いように見受けられる。――君の古代語の師匠は、古代語魔法を使う者か?」

「使うかどうかはともかく、古代語魔法や古代文明を研究している人です」

「へぇ、随分すごい人物の様だな? 名は?」

「え……」


 言って良いものか逡巡し口をつぐむと、むっとした様にルナは眉間の皺を深めた。


「君、自分の立場を分かっているのか? 今は面接中だ。私にも守秘義務がある。面接で知りえた情報を他の誰かに吹聴する事などない。――それとも、神に仕える身の私が嘘を言うとでも?」

「そういう、訳ではな――ありません。でも、あたしは教えてくれた人に、ここで面接することは伝えてない。だから、他の人にその人の事を言って良いのかどうか、あたしには判断できない、です」

「なんだ、それは」


 苛立ったように棘を含んだ声を上げるルナに対し、尚も譲らない姿勢でソフィアは続けた。


「必要な情報なら、その人に話しをする時間をください。確認してから返答します」

かたくなだな――よかろう、分かった。ではそれは不要だ。次の設問に行く」


 呆れた様にルナは肩を竦めてかぶりを振った。その拍子に少し長めの青紫の髪が揺れ――彼の耳を見て、ソフィアは息を呑んだ。



(耳が、尖ってる――この人、半妖精ハーフエルフ?!)


「ん? なんだね?」


 不機嫌そうに眉を寄せ、ルナがソフィアを見る。


「あ、い、え――あの……なんでも、ありません」

「……」


 ジロリ、と思い切り据わった目で睨まれたが、俯いて目を逸らす。流石に「あなたが半妖精ハーフエルフだと気付いて驚きました」などとは言い出し難い。その姿をつまらなさそうに眺めて、ルナは口を開いた。


「先ほどから挙動不審だな。――君は半妖精ハーフエルフの様だが、もしや出自はヴルズィアか?」

「え……っ」


 ぎょっとして顔を上げると、嘲笑に近い表情でルナは口の端を釣り上げて続けた。


「なるほど――当たりか。奇遇だな。私もあちら(ヴルズィア)から派遣されている――つまり、出身はヴルズィアの半妖精ハーフエルフだ」


 がた、と無意識に椅子から腰を浮かせてしまい、その場でそのまま固まる。


「だが、私は君とは違う。あちら(ヴルズィア)では弛まぬ努力をする事で冒険者として熟練ベテランの域まで達し、差別を跳ね返せる今の地位まで来たのだ! ……しかし、君の様な半妖精ハーフエルフがいると、どこへ行っても腫れもの扱いされてな。正直迷惑を被ったものだ」


 言外に“人間に怯えた態度をとる半妖精ハーフエルフがいる事で迷惑を被った”と言いながら、冷ややかな視線をソフィアに向け、ルナは肩を竦めた。


「とはいえ、君の様な力の無さそうな半妖精ハーフエルフがなぜテイルラットにいるか、分からんな」

「……」

「――フン、まぁ良いだろう。――筆記試験は、共通語はパーフェクト、古代語も8割方問題ない。コミュニケーション力にやや欠けるところは見られるが、そもそも蔵書整理や分類には不要だ。面接に来た者の中で、君は一応、及第点という事になる」

「え……?」

「合格だと言っているんだ。明日からはまず、蔵書整理の手伝いに入る様に。賃金は出来高制で日払い。仕事終了時に己のこなした仕事を受付に報告して受け取る様に。細かな部分はそれぞれの担当官に聞くように」


 左手をしっしっと振りながら、ルナは羊皮紙をチェックしながらそっけなく言った。どうやら早く退出しろと言いたいらしい。


「あ……え、と……ありがとうございました」


 途中、不穏な空気が流れた割にはあまりにあっけなく終了し、拍子抜けしたソフィアは合格の喜びを感じるよりも戸惑いの方が大きな状態で、部屋を後にした。



* * * * * * * * * * * * * * *



 気が付くとティラーダ神殿の門の外にある、木陰の岩に腰掛けていた。手には明日からのティラーダ神殿での仕事の要綱が書かれた羊皮紙が握られているから、合格と言うのは夢ではない様だ。



(いけない、ぼーっとしてたわ……今、何時かしら)


 きょろり、と視線を彷徨わせる。空はまだ青い。通りも明るく、賢者の学院の生徒らしきローブの人々が行き来している。しばらく人の波をぼんやりと眺めてから、ソフィアはのろのろと己の手に持った羊皮紙に目を落とした。



(仕事、決まった……けど、あの面接担当の……半妖精ハーフエルフの人、あたしみたいな半妖精ハーフエルフに迷惑を被ったって言ってた。――なのに、合格なの?)


 ルナ本人にその事を問えば、「面接自体と私の個人的な主観は別に決まっているだろう」と言われるだろう。しかし、親しく話しをするような間柄でもない彼の言動など、ソフィアには想像できなかった。



(分からないわ……でも、蔵書整理と、分類は、またそれぞれ別の担当の人がいるみたいだから、――人手が足りないから、仕方なく、って事なのかしら……)


 もやもやとした気持ちを持て余し、ソフィアは目を伏せた。



(だとしたら、迷惑を、掛けないように気を付けなきゃならないわよね……せっかく合格したんだから、)


 ――と、その思考を遮るように、歌うような美声が流れてきた。



「ヤァ、そこのお嬢さん!」

「……」

「嗚呼、その憂える瞳はそよ風に揺らぐ美しき湖水の水面! 流れる銀糸の髪は天より降り注ぐ月光を紡いだようだ!」

「……」

「美しいお嬢さん、僕の言葉は君に届いているだろうか!」

「……」

「……おーい、ソフィアくーん」

「?」


 自分宛に向けられた言葉とは思っていなかったソフィアは、名を呼ばれてようやく羊皮紙から顔を上げた。そこには美しく長い金の髪と、翡翠の様に輝く新緑色の瞳の、眉目秀麗な妖精エルフが立っていた。


「あなた確か……レギオン?」

「えぇー 惜しい! レグルスだよー!」

「そうだった……かしら」

「レグルス・A・フォーマルハウト。――レグルス・A・フォーマルハウトだよー」

「フルネームで繰り返さなくても」

「うぅ、寂しいなぁ。あんなに共に過ごした仲なのに、忘れてしまうなんて」

「おかしな言い方しないでくれる?」


 じとっと据わった目で見つめると、レグルスはあはは、と笑った。


「嘘は言ってないんだがなぁ……さて、ソフィア。こんなところでどうしたんだい?」

「あたしは仕事の面接が終わったところよ」

「おぉ、そうか」

「ええ」


 会話を済ませたつもりで、ソフィアは再び羊皮紙に目を落とす。


「って。そこは“レグルスは何をしてたの?”って聞く所だよー! 聞いて―! 聞いてよー!」


 わぁっ と盛大に泣き真似をするレグルスに、まんまと騙されたソフィアは狼狽した。


「ちょっと……わ、分かったわよ。ええと……あなたは何をしていたの?」


 すると、ちゃっかりとソフィアの隣に腰掛けたレグルスはカラリと笑顔になった。


「いや、僕は暇で散歩してたんだけどね、絶好の話し相手たるソフィア君を見つけたからね、座って話そうと思って」

「……あたしは暇じゃない」

「さっき港に船が着いたから、主要道路は結構人通り激しいよ。もう少し人の波が落ち着くまでは待った方が良いんじゃないかな」

「……」


 もっともらしい事を言うレグルスに、ソフィアは眉間に皺を寄せて黙った。


「じゃ、せっかくだから、僕が色々な事をお話してあげよう! 何が良いかな……そうだ、西の商業大国オークルのお話しでもしてあげようか!」

「え……いや、いい」

「遠慮しなくて大丈夫だよ! そもそも、オークルと言う国は……」


 ソフィアのいう事など全く耳も貸さず、レグルスは身振り手振りを交えて面白おかしく話し始めた。最初こそ乗り気ではなかったソフィアだったが、徐々にレグルスの話しに引き込まれ、そのまま他の様々な国の話しを聞いている内に、あっという間にシンの来る、正午近くになったのだった。



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