表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

孤独のレンタル

 帰りの電車の中。俺はスマホを弄りながら、これから何をしようか考えていた。

 今日は六限まで講義が入っていたので、すでに時計の針は二十時を回ろうとしていた。あと四時間足らずで一日が終わってしまう。飯を食って風呂に入る時間を除けば、もっと短くなる。明日は午前からシフトが入っているから夜更かしはしたくない。


 こんな日はそうだな。映画でも見るか。

 二時間くらいの内容のやつなら睡眠時間にも支障はないだろう。ただしシリーズものはダメだ。続きが気になる引きで終わられたらたまったもんじゃない。きちんと一本でまとまった話に限る。

 ネオンの眩しい煌びやかなビルが流れていく風景を眺めつつ、俺はレンタルDVDショップへと赴くことを決めた。


 帰路の途中にあるレンタルDVDショップに入ると、劇場公開中の大人気映画の宣伝ムービーを流しているディスプレイに目に留まった。うちのゼミでも話題になったことがあるハリウッド映画だ。俺も興味がないわけではないが、いつもレンタル開始を待ってからでも遅くはないと妥協してばかりなので、やはりこれを見るのは半年以上先のことになるのだろう。


 エントランス部分を抜けると、真っ先に目に飛び込んでくるのはレンタルコミックのエリア。その奥側にレンタルDVDのエリアがある。この辺、店によって違いが出るので初めて来たときはちょっとした探検気分になる。


 レンタルDVDのエリアは、手前からアニメ、邦画、洋画といった順にジャンル分けされて並んでいるので、俺は迷わず洋画のある奥側へと足を運ぶ。アニメ映画も邦画も嫌いじゃないが、今日は洋画の気分だと道すがらに決めていたのだ。


 まずはざっと新作コーナーに目を通す。


 この辺はまだレンタル料金がお高いので、なんとなく関心を引きそうなものに目星をつける程度にチェックする。最新作や新作のシールが貼られているものはレンタル可能な期間も短いので、どうしても準新作くらいまで落ちてこないと借りる気になれない。ケチな貧乏学生の性である。


 お次は特集のコーナー。

 上映中のシリーズと関連のある作品や、季節やイベントにちなんだ名作が置かれる場所だ。どうやら今はアメコミ特集らしい。人気だよな、アメコミ。日本人の琴線に触れるジャンルの一つと言っていいだろう。漫画やアニメでもアメコミヒーローを意識した作品が増えてきた気がするし。超人がカッコよく敵をやっつけるのは見ててスカッとするし、主人公がヒーローになるまでの過程にもドラマがあって面白い。


 でも今日はいいかな。

 なんというか、じんわり心に染みるようなヒューマンドラマが見たい。あったかいような悲しいような。そんな気持ちで今夜は眠りたい。


 ここでようやく、満を持してお目当てのDVDを探しにかかる。

 ヒューマンドラマのコーナーに行くと、店員の一人がDVDのケースを山のように抱えて、せっせと棚のパッケージに戻していた。「お疲れ様です。お仕事頑張ってください」と心の中でエールを送ると、ずらりと並んだタイトルに視線を走らせる。


 こういうのは大概、作品名で五十音順に並んでいるものだが、ちょうど目線の高さくらいの棚だけ様相が違い、アカデミー賞受賞作をまとめた専用棚となっていた。「アカデミー賞をとっているから」という理由だけで鑑賞するのは癪に障る部分もあるが、そこは天下のアカデミー賞。見てみたらやっぱり面白い。ジャンルの好みはあるだろうけど、受賞するだけのクオリティが確かにある。


 けど、今はアカデミーとかそういうのじゃないんだ。

 ほどほどのでいいんだ。いや、ほどほどのなんて言ったら失礼か? でもあれだ。ストレスなく見れる凡作以上であれば許せる。むしろ凡作ではあるけど、個人的には結構好きくらいの作品を見つけられるのが一番嬉しいまである。


 さあ、ここからが長い。うろうろと同じ棚の周りを行ったり来たり。

 たまにコメディやサスペンスなんかの棚も覗いたりして見たい作品を吟味していく。この時間がレンタルDVDショップの醍醐味だ。文化祭や体育祭で準備している期間が一番楽しいのに通ずるものがあるのではないだろうか。


 熟考に熟考を重ねた末、俺は「これだ!」という一本を決める。

 特に名作という触れ込みがあるわけじゃない。最近の作品じゃないし昔話題になったとかでもない。


 タイトルの響きが気に入った。選んだ理由はそれだけだ。

 

 もちろんパッケージであらすじくらいは確認したけど、一番の理由はこれだと思う。

 何の変哲もないワードだけど不思議と惹かれる。そういう感性が全人類に十人十色で備わってるんだと俺は思う。


 これでクソつまらなかったら目も当てられないな……けど、それもまた笑い話にはなる。だから映画はいいんだ。


 俺はセルフレジで会計を済ませると、ビニール袋にレシートとDVDを突っ込んで店を後にした。

 それから何気なくスマホに通知がきてないかチェックした瞬間。

 時刻がすでに二十三時五十分になっていることを知った。頭が真っ白になり、身体が小刻みにぷるぷると震える。


「選ぶのに時間かけすぎたぁあああああああああああ!!!!」


 悲痛な叫びがレンタルDVDショップの店先でこだました。



おしまい


アベンジャーズの中では『アイアンマン』が一番好きです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ