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5. 絶好のチャンス到来!! これは勝ったな

 学園の庭で帝国の王子とヒロインが楽しげに話しているのが見えた。


 5人の攻略対象者のうち、目をつけたのは帝国の王子だった。

 国内のしがらみにとらわれない他国の王子である彼はいつでもフリーダムに動いていて、どこの派閥にも属さない状況だった。

 そんな彼とくっつくならば、勢力図に大きな変化はでないはずともくろんでいた。


 モブネットワークをつかって、王子の動向をつかみつつ、ゲーム内の王子ルートにのっけるようにヒロインを誘導すれば、あの二人がくっつくのも時間の問題というものだ。

 我ながら上手い作戦だと、二人の様子をほくそ笑みながら見ていた。


「あらあら、ずいぶんと仲がよろしいようですわね」


 教室からヒロインたちのことを観察していると、横から公爵令嬢に話しかけられた。

 あの魔法の訓練以来、たびたび彼女から話しかけられるようになっていた。なぜだ。


「そうですわね。もしかしたら、王子が彼女を帝国につれて帰るかもしれませんわね。そうなると、彼女は異国の地に嫁ぐことになってしまい、寂しいですわ」


 警戒しながらもにこやかな笑みを浮かべながら、彼女の話にあいづちをうった。



 夜になり、柔らかな生地できた夜着に着替えてさて寝ようかというところで、同室のヒロインが話しかけてきた。


「あの、モブコさん、眠る前にちょっとお話がしたいんだけど、お話っていうか、その、相談なんだけどさ」


 恥ずかしそうにしながら、彼女は王子のことについて話し始めた。

 おうおう、恋する乙女の顔をしやがって、わたしが恋のキューピッドになってやろう。むしろ、無理矢理にでもくっつけてやるぐらいのつもりだ。

 だけど、他の人間の注目はあくまでもヒロインにむかせておかないとわたしの行動に支障がでるので、ほどほどの関係にとどめておく必要がある。そこんところは、要調整だ。

  


 それから、数週間、王子と一緒にいるヒロインの姿を見ることになり、ヒロインと王子の仲が学園でウワサされるようになった。

 ヒロインのことを警戒していた女子生徒たちも、今では恋のウワサ話で盛り上がっていた。

 さて、ヒロインの件も一段落ついたことだし、そろそろ公爵令嬢と王太子の攻略を始めるとしよう。



 ……とはいうものの、公爵令嬢の攻略をどうやって進めようかと悩んでいた。王太子ルートはいくつかの分岐があるがどのルートでも必ず公爵令嬢との対決が不可避となる。なかなか隙をみせない彼女への対策について考えながら、わたしはとある場所に座っていた。


「そなたか、どうしたのだ、浮かない顔をして?」


 魔法学園の中庭につくられた噴水の近くのベンチで座っているわたしに、王太子が話しかけてきた。

 これは、王太子ルートのイベントの内の一つで、今のわたしは公爵令嬢への対策と同時に、王太子の攻略も進めていた。


「これは、殿下。なんでもないことです。ただ、ちょっと魔法学の成績がなかなか伸びないものでどうしたものか思っていまして」


「たしか、この前、中級魔法が使えるようになったといっていたな。十分がんばっているのではないか」


 王太子は優しげな目でわたしのことを見つめていた。


「そういっていただけるととてもうれしいのですが、この前転校してきたばかりのサクラ様はもうすでに上級魔法を習得なさったようで、わたくしのがんばりなどしょせん無駄な努力だったのではないかと思い悩んでしまっていて……」


 あのチートキャラ、もうすでに魔力ステータスがわたしに追いつきそうなんだよ、と内心で毒づきながら物憂げな顔を作った。


「そうか、イロイデ嬢とそなたは同室でもあったな。余計に意識してしまうのだろうが、成長速度は人それぞれだ。私も昔はパトリシアに追いつこうとがんばっていたが、今では王太子としてできることはないかと模索するようになったよ」


 お、イベントセリフきたぞ。ゲーム内ではヒロインが勉強について悩んでいるところを王太子が相談にのるという場面だった。ここで、王太子が公爵令嬢についての内心の葛藤を打ち明けてきて、好感度があがるというものだった。


「幼少の頃から、彼女は様々な分野で才能を見せていてな。勉学から教養、魔法においても追いつくことはできなかった」


「そんな……、わたくしからしたら殿下は立派なお方です。その……、こんなことをいったらグランシエル様に申し訳ないのですが、殿下はわたくしの目標の方なんですの」


「私が、目標?」


「はい、気高く、いつも堂々としていて、時期国王となる気構えをもっていらっしゃる。わたくしなどは、せっかくこの学園にきたというのに、卒業後に領地にもどった後のことは特に考えてもいないつまらない女です」


 ウソはいってないぜ。王太子はわたしのターゲットだからね。内心で舌なめずりしていると、王太子は大きく目を見開きながらわたしを見ていた。


「そんな風に言われたのは初めてだ。なんだか照れくさいものだな」


 キターーーッ!! 好感度アップのフラグセリフだ。


「そのだな……、もしよかったら放課後にでも一緒に魔法の練習など、どうだろうか? 一応、私も上級魔法をあつかえるから少しは教えることはあると、思うぞ」


「はい、ぜひ喜んで!!」


 照れくさそうにしている殿下の手をとりながら満面の笑みを浮かべると、殿下は頬を赤らめていた。

 ヒロイン直伝のボディタッチだ。あの子はほんとに魔性の女だよな、知らず知らずのうちに男をその気にさせる方法を心得ている。


「いやだわ。わたくしったらはしたない」


「い、いや、それでは、明日の放課後、訓練場で落ち合おう」


 わたしが慌てたように手を離すと、殿下は公の場所では見せたことがない、はにかんだ笑顔を浮かべながらそそくさと離れていった。



 次の日の放課後、訓練場に出向くと、殿下ともう一人一緒にいた。


「あの、グランシエル様……、どうしてこちらに?」


「あなたが殿下と放課後訓練すると小耳に挟んだものでして、私も力を貸しますわよ」


 自信満々のドヤ顔をする公爵令嬢から、王太子の方を視線を移すと困った顔をしていた。


「すまない、彼女がどうしてもと聞かなくて。できれば、私としては……」


「殿下、いかがしましたか?」


 最後のほうをごにょごにょと話す王太子に公爵令嬢が話しかけると、とりあえず練習を始めようかという王太子の声にしたがって魔法の訓練を始めた。

 わたしたちの様子を訓練場の入口付近に立っていた宰相の娘が満足気な笑顔を浮かべながら見ていた。


 おかしいな、このイベントは二人きりで訓練中にきゃっきゃうふふして、親密度を上げるものだったはずなのに。


 訓練中、ヒートアップして打ち込んできた公爵令嬢からの上級魔法を、王太子が防いでくれていた。これはこれで、王太子との親密度がアップしてよかったのかもしれない。

 まさか、わたしが王太子を狙っていることに気がついているのかという疑念が浮かんできていたが、楽しげに魔法を全力で打ち込む彼女をみてそれは杞憂だったと胸を撫で下ろした。


 しかし、なぜか、公爵令嬢がなぜかわたしに絡んでくるようになった。

 ヒロインを早々に他の攻略対象とくっつけた弊害なのだろうか。なにが目的だ?



 あるとき、女性教員が重そうな教材の紙束をえっちらおっちらと運んでいるのを見かけて、手伝いを申し出ると半分持つことになった。

「教師も大変ですね」というと、「いろいろと大変なのよ」としみじみとつぶやいていた。この王立魔法学園につとめる教員はすべて貴族だが、そのせいか、自分よりも位の高い生徒を相手にすることもあり色々気を使うこともあるのだろう。

 しかし、途中で忘れ物をしたらしく一旦戻るというので、ついでに先生の持っている分も運んでいくことにした。


 持って行く先は二階にある教室で、重い荷物をもって階段を上る必要があった。

 きっとこれだけ動けば体力ステータスも少しは上がるし、先生からの点数も稼げるし一石二鳥と思いながら階段を上っていた。


「オーディナリー様、どうしたのです。そのような大荷物を?」


 階段の上から公爵令嬢がわたしのことを見下ろしていた。


「大変そうですわね、手伝いましょうか?」


「いえいえ、滅相もありませんわ。それに、すぐそこの教室まで運ぶだけですから、お気持ちだけで十分ですわ」


「そんなことおっしゃらずに、遠慮なさらなくていいのですよ」


 公爵令嬢がずいと前に進んできたので、わたしは思わず後ろに下がろうとして足を階段から踏み外してしまった。

 しまったと思ったところで、体が傾き視界は天井を向いていた。このままじゃ落ちる!! と慌てながら魔法を発動させた。


 背後に突風を巻き起こし体をふわりと持ち上げながら、なんとか階下の方まで体を動かすが着地が上手くいかずしりもちをついた。

 遅れて手から離れて宙を舞っていた教材の束が、どさどさとわたしの上に降り注いできた。


「大丈夫ですの?」


 わたしが腰の痛みに顔をしかめていると、公爵令嬢が心配そうに声をかけながら階段を駆け下りてきていたのだが、一階の廊下からも誰かが慌てたように駆け寄る足音が聞こえた。


「モブコ!! 大丈夫かっ!?」


 その名前でわたしを呼ぶやつは誰だ!! と思いながら声の主に視線を向けると、そこには血相を変えた王太子が立っていた。


「はやく医務室に!!」


「あ、あのっ、殿下、わたくしは平気ですから」


 王太子はわたしを抱え上げた。いわゆるお姫様だっこというやつだった。

 そんなわたしたちに階段を下りてきた公爵令嬢が冷静な口調で声をかけてきた。


「殿下、その方は大した怪我をしていませんよ」


「なぜ、キミがここに……?」


「偶然通りかかって、その子が足をふみはずすところに出くわしたのですわ。落ちるときも……」


「話は後だ、とにかく大事をとって連れて行こう」


 公爵令嬢が言いかけるが、王太子はわたしを抱っこしたまま学園の医務室に連れて行った。


 あとには、呆れたようにため息をはき床に散らばった紙束を集める公爵令嬢の姿があった。



 これは……、不幸中の幸い? ヒロインが受ける嫌がらせの中にある『階段から突き落とされる』というシチュエーションなのではないだろうか。

 王太子の中では、公爵令嬢が犯人なのではという疑惑が浮かんでいるようだし、利用しない手はないな。


 王太子の細身ながらがっちりした腕に抱えられながら、わたしは内心で邪悪な笑みを浮かべた。


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