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3. こっそり魔法の訓練してたんだけどさぁ

 公爵令嬢への調査を続けながら、自らのステータスの強化も行っていた。授業など人の目があるところで、全力をみせるわけにはいかないため、めったに人が来ないところで一人で訓練に励んでいた。

 打倒、公爵令嬢、そしてヒロイン!! あのチートキャラたちに勝つために、実力を隠しておいてからの不意打ちに賭けていた。



 学園の敷地の裏手には、不要になった粗大ゴミが置かれている場所があり、机やイス、授業で不要になった教材などが雑然と置かれていた。

 月に一度業者が引き取りにくるらしいが、それ以外はほとんど人がこずに、放課後の訓練場所としてはうってつけだった。


 がらくたの中から、魔法の的になりそうなものを探していると古そうな青銅の鎧を見つけた。たしか、こいつはこの前まで廊下に飾られていたものだったが、新たに寄贈されたぴかぴか光る銀色の鎧に取り替えられていた。今ではこうしてガラクタ置き場行きになったようだ。

 年季を感じさせる汚れがついた鎧の表面を手の甲でカンカンと叩くと、重厚な金属の手ごたえを返してきた。


 よし、今日はこいつに訓練相手になってもらおう。

 わたしは、自分に身体強化魔法をかけて筋力を増強させると、よっこらしょと鎧を持ち上げた。

 近くにあった机の上に鎧をすわらせて姿勢を安定させると、わたしは鎧から距離をとり魔力を練り始めた。


 対象は頑丈な金属鎧、水を細く薄くしウォーターカッターのように射出した。

 鎧は水をはじこうとするが、表面にかかる水圧に削られていき、やがて真っ二つになった。


 ごろんところがった鎧に近づくと、キレイな断面をしているのが見えた。

 よしよしとうなずきながら自らの魔法の成果に満足し、次は風の刃による切断を試そうと鎧を持ち上げようとした。


「そこでなにをしていらっしゃるの?」


 突然かけられた声にびっくりしながら振り向くと、そこには一人の女子生徒がいた。

 広い額をみせるように栗色の髪を中分けにしている女子生徒で、宰相の娘であるアネーシャ・パルガルだった。

 彼女は公爵令嬢の取り巻きの一人だったが、そのステータスにおける知力は全キャラでもトップクラスであり、筆記試験では常に上位にいる。

 試験で上位をとるイベントのときは彼女が難関となり、プレイヤーたちの間では“デコちゃん”のあだ名で呼ばれていた。


「少々、魔法の訓練をしていましたの」


 おそらく魔法の発動は感知されていただろから、下手にごまかすと色々とつっこまれて知られてなくていいことまで話すはめになるかもしれないと思い、正直に話した。


「勉強熱心ですわね。たしか、オーディナリー様でよろしかったかしら?」


「はい、モブコ・オーディナリーですわ。デコちゃ……、パルガル様」


「デコ? なんのことですの?」


「いいえ、お気になさらずに。それよりも、パルガル様はどうしてこちらへ?」


 クラスは同じだが、なるべく公爵令嬢に目をつけられないように彼女とも距離をとっていたが名前は覚えれていたようだ。一応。


「パトリシア様が魔法の訓練をしたいとおっしゃられたので、なにか良い的になりそうなものでもと思いまして」


 彼女は話しながら、ガラクタの山に目を向け、その視線はさっきわたしが切断した鎧の残骸で止まっていた。


「あら? これはまたずいぶんとキレイに切られていますわね。オーディナリー様がなさったのですか?」


「いいえ、とんでもありません。わたしができるのはせいぜい初級魔法でしてよ。パルガル様のように上級魔法が扱えるのを目指して、こっそり練習していたのですわ~」


 その優秀さを示す広いデコを見せながら彼女はわたしをジッと見てきて、わたしは目線を反らした。


「そう、ですか。上級魔法並の魔力を感知しまして気になって見に来たのですが、どうやら勘違いだったようですわね。訓練のお邪魔してもうしわけありません、がんばってくださいませ」


 あははと愛想笑いを浮かべるわたしを置いて彼女は、ガラクタ置き場を後にした。


 ばれて、ないよね……? 一応、次から練習する場所は別のところにしておこう。




 ある日の魔法の実技訓練において、さらなる予想外の出来事がおきた。

 実技訓練では広い訓練場で、二人一組となって生徒たちが魔法を打ち合い、攻撃魔法の種類にあわせた防御魔法を展開するというものだった。

 扱える魔法の規模や魔力量に応じて、訓練の相手を選ぶのだが、魔法学園でもトップクラスの魔力をもつ公爵令嬢の相手がつとまる相手は数人しかいなかった。

 いつもだったら、彼女のとりまきの一人である宰相の娘が相手をしているのだが、公爵令嬢はあろうことかわたしを指名してきた。


「わたしの魔力量などでは。グランシエル様の相手などつとまりませんわ」


「毎回同じ相手では訓練になりませんわ。魔力の大きさ以外にも訓練することはございましてよ」


 ここで、彼女に自分の力を知られるわけにはいかない。なんとしても回避したい事態であった。

 しかし、周囲から視線を感じた。公爵令嬢の取り巻きである宰相の娘や財務大臣の娘がこちらを見ていた。その視線の意味とは、せっかく公爵令嬢が誘っているのに断るとかねぇよな、といったところだろう。


「力不足とは思いますが、精一杯つとめさせていただきますわ」


「よろしくってよ、オーッホッホッホ!!」


 向けられた視線に冷や汗をかきながら、これ以上拒むと男爵令嬢と公爵令嬢という力関係上好ましくないと考えて、相手をすることにした。


 最初はお互いに初級魔法を軽く打ち合っていた。打ち込まれた小さな火球を水の壁で打ち消し、飛来する石つぶてを突風で巻き上げた防いだ。

 しかし、徐々に公爵令嬢は魔法にこめる魔力を上げてきているのがわかった。


「グランシエル様、もう少しお手柔らかにお願いいたしますわ」


「あら? ごめんなさいね、つい力が入って。でも、あなたならまだまだいけるんじゃなくって」


 彼女は見透かすようにわたしの目を見つめた後、急激に大きな魔力を練り始めた。


 げっ、このひと上級魔法打ち出す気だ。


 彼女が掲げた手の平の上には人間の体をひとのみできるような巨大な火球が形成されていった。

 周囲にいたほかの生徒たちが巻き込まれないように一斉に逃げ始めた。わたしも逃げ出したかったが、公爵令嬢の視線は完全にわたしのことをロックオンしていた。


「よろしくって? いきますわよ」


 いやむりだから、よろしくないよ!! 心の中で叫びながら彼女にむかってブンブンと首を横に振った。しかし、彼女は微笑みを浮かべながらわたしを見ていて、まったくやめる気がなさそうだった。


 彼女がそのたおやかな白い手をスイと動かした。その優雅な仕草に反して、わたしの方に飛んできた火球はゴウゴウと凶悪な熱を撒き散らしていた。

 どうする、対処は可能だけど、ここで実力を見せるわけには……。悩んでいるうちにも熱はわたしの方に押し寄せていた。


 ええい、くそっ!! わたしが覚悟を決めて魔法を放とうとした瞬間、誰かが目の前に着地するのが見えた。サラサラの金髪をたなびかせ、細身の体をした男子生徒だった。


 

 次の瞬間、地面から分厚い土の壁がせり出した。


 

 火球が土の壁にぶつかると、あたりに振動と熱気を撒き散らした。

 

「そなた、怪我はないか?」

 

 黒く焦げた土の壁を背に振り向いたのは王太子だった。

 

「あら、さすがですわね。上級魔法をあっさり防いでしまうとは、魔法の腕もずいぶんとご上達なさったようですわね」

 

「パトリシア、キミの実力がすごいことはわかっているが、それは無闇にみせびらかすためのものではないだろう。いきなり急激な魔力な上昇を感じたから見てみたら、この始末だ。そなたも何故止めなかった」

 

「パトリシア様のご命令故に。それにこれは、殿下のためでもあるのですよ」

 

 王太子が宰相の娘を責めるように視線を向けるが、彼女はツンと澄ましたままだった。

 

「はぁ、まったく、方法が強引に過ぎる。誰しもがそなたたちのように強いわけじゃないんだ」

 

「お褒めにあずかり光栄ですわ」

 

 コロコロと笑う公爵令嬢を見ながら王太子は呆れたようにため息をついた。

 なんだ? 妙に意味ありげなことをいっているが、こんなイベントなどあったろうか……。


 しかし、これで王太子に顔を覚えてもらえたのは、不幸中の幸いだろう。あとで、助けてもらった礼とでもいって話しかければ、公爵令嬢も目くじらをたてることもあるまい。

 

 やったぜ、と内心で喜ぶわたしを公爵令嬢が意味ありげな視線を送っていたのに、このときのわたしは気づいていなかった。

 

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