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1. わたしってばモブキャラらしい

 わたしは、田舎に領地を持つ男爵家の次女として生まれ、平凡ながら優しい父と母に育てられ、平凡に成長し、王都の魔法学校でも平凡な成績で目立たず卒業していくはずだった。

 それが本来の“モブコ・オーディナリー”というキャラクターのありかただった。

 

 そうなるはずだったものを変えたのはわたし自身だった。

 転機が訪れたのは5歳のときであった。夢の中で見たこともない景色が見えるようになり、父や母に話しても夢のことだからと微笑みながら言われ、わたしもそうかそうかと気にしないで、兄弟や、領地の子供たちと遊んでいた。

 しかし、それは次第に変化をみせていった。知らないはずの経験が頭の中に浮かび、知らない言葉で話す人々の会話が頭の中で流れ、知らない感情があふれてきた。


 たった5歳の子供にそれはあまりにも重いもので、頭の中がシェイクされて、自分という存在があやふやになり、ここはどこ? わたしはだあれ? という状態で熱をだして、うんうんと唸りながら1週間寝込んだ。



 そして、目覚めると、高校生だった前世の自分と、5歳だった自分が合成され、あらたな自分が生まれた。


 

 思い出した前世の中にあるもので心にしみついているものがあった。それは、悔しさと羨望がない交ぜになったものだった。

 前世でのわたしは高校生とやらで、竹馬の友とでもよぶべき幼馴染の男子がいた。小学、中学と一緒になりそのままずるずると高校まで一緒になった彼とは兄弟のようなとても近しい存在として認識していた。

 頼りないが心根のやさしいヤツで、いろいろと手助けしてやったりして弟のような存在だと思っていた。なんとなくこのままずっと一緒に入れたらいいなと思って、うすぼんやりとこいつのことが好きなのかな~などと考えたりすることもあった。


 ところが、そんなあやふやな期待は急変した。転校生がやってきたのだが、見た目の派手な女子で、なにやら芸能活動をしているとのことだった。そういう方面に疎かったわたしは、周りが騒ぐなかで遠巻きに彼女を見ているだけで、幼馴染も同じような感じだった。


 ところが、知らないうちに二人は急接近して、傍目からみて相思相愛だと分かる状態になっていた。

 転校生がストーカーの男に襲われているところに、偶然居合わせた幼馴染が守ったらしく。それがきっかけとなり、二人はお互いのことを意識するようになったらしい。

 その馴れ初めを聞いたとき、なんじゃそりゃ、どこのラブコメの主人公だよとつっこみたくなった。そして、その物語の中でのわたしといえばただの脇役で、恋仲となった二人を見ているだけだった。


 恋人といちゃつく幼馴染とも疎遠になり、一人になった時間をつかってゲームをするようになった。主人公の女の子が大勢の男の子にちやほやされるもので、乙女ゲームと呼ばれるものだった。

 画面越しに見えるヒロインとイケメン男子との甘ったるいやりとりを見ながら思ったことは『わたしも主人公になりたい』ということだった。


 

 前世の記憶によってリニューアルされたわたしは、とりあえず父の書庫でこの世界について調べ始めた。少し気になることがあったのだ。

 それまで、外で遊びまわっていた娘が突然、書庫にこもるようになり父や母は心配そうにしていた。

 もしかして、熱でうなされている間に頭がおかしくなったのかもと思われていた。

 そんな視線を注がれながらも、わたしは黙々と調べ物を続けた。

 この世界は見たことがあった。それも前世の中で……。

 はずれていたならば、そのまま平々凡々とした自分を満喫していたが、3日間かけて調べた結果、予感は的中していた。



 ここはゲームの中の世界だった。


 

 国の名前から歴史までもが、前世でプレイしたことのあるゲームで語られたものと一致してた。

 その結論を得たわたしはハァとため息をつきながらゲーム内のシナリオを思い出していた。


 貴族たちが通う王立魔法学園に転校してきたヒロインが、学園の貴公子たちを相手にあっと今に逆ハーレムを形成してちやほやされるものだった。

 そして、わたしというキャラはヒロインと同じ男爵令嬢という立場でありながら、ヒロインたちのことを遠巻きにみているモブの一人だった。

 モブコなんていう名前をつけたゲーム制作会社にひとこと文句をいってやりたい。もうすこしひねれよと。


 

 この世界でもまたただの脇役でしかないのかと思うと、なぜだか無性に腹が立ってきた。

 

「主人公になりたい!!」


 夕陽に向かって叫びながら、その他大勢の一人で終わるなんて嫌だと心の底から感じた。

 その熱に突き動かされるように、わたしはこのゲームをクリアするための準備を始めた。

 

 この世界について知ってから、自分のステータスが見えるようになり、『知力』『体力』『魔力』『魅力』この4つの数値が脳内に表示されていた。

 かつてゲーム内でみたヒロインのステータスにくらべるとはるかに低いものだったが、かろうじて『知力』と『魔力』の数値だけは高めだった。

 

 以前プレイしたときゲーム内ではイベントの進行のほかに、自分のステータスを上げるための訓練メニューも用意されていた。

 訓練をするとゲーム内の時間が経過し、イベントを逃すこともあるため、目当てのイベントをこなしながら、ステータスも効率よくあげるというのがゲームの醍醐味の一つだった。


 ゲーム内にあった訓練メニューなどはないため、わたしは手探りでステータスを挙げる方法をさがしていった。


 

 はぁはぁと息を切らせながら、領内に広がる道をランニングしてみた。『体力』が少しあがった。


 本を読んで新しい知識を仕入れてみた。『知力』が少しあがった。


 父や母に聞いて魔法の練習をしてみた。『魔力』が少しあがった。



 いろいろと試した結果、ステータスに関連する行動をとることで鍛えることができるようだった。満遍なく上げていったが、初期値どおりに「知力」と「魔力」の伸びが良かった。

 全てのステータスを満遍なく上げることができないということはゲーム内でも知っていたので、上がりやすい二つのステータスを重点的に上げていくことにした。


 魔法の練習や本ばかりを読むようになった娘をみて、父や母はわたしを王都の魔法学園にいかせようかという話をしているのが聞こえてきた。

 地方にも学校はあるが、一般常識や算術などを教えるだけで魔法を専門に教えられるような教師はおかれていなかった。そのため、魔法の才能があるものは魔法学園にいって、その才能を伸ばすことができる。中でも、王都の魔法学園は貴族が多く在籍する学校で有名だった。


 なんとしても、ゲームの舞台となる王都魔法学園にいくために、わたしは訓練を続けた。


 その結果、『魔力』『知力』は順調に上がり『体力』もそこそこ上げることができた。これなら、魔法学園でも通用する実力は備わっているだろう。

 『魅力』については知らん。あれは体の成長によって女性的な魅力が増すと上がるらしく、母ゆずりの凹凸の少ない体ではほとんど伸びることがなかった。服装や化粧でも多少あげることができるので、平均よりは少し高めにはできると思う。


 

 そして、15歳となり、とうとうゲームのメイン舞台である王立魔法学園への入学となった。


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