プロローグ
この物語はある一人の少年の憧れ成長のお話である。
ある日黒ずんだ布きれ一枚にくるまった少年がいた。少年の名は「アリバ」一目見れば貧民街の子や奴隷にも見れるだろう。この世界「エイヤー」の冬はとてつもなく寒い体感温度はマイナス温度だと感じるだろう。そんなところに子供が一人でたたずんでいるのは異様にみえる。もはや異質だと思っていいだろう。そんな中少年の心の中では飢えに苦しんでいた。
「食べ物がたべたい」
あまりにも小さく生気を感じない声が発せられた。少年は六日前に落ちていたカビの生えているようなパンを食べて以来なにも口にしていないのだ。そんな状態の人間がまともな思考回路をしているわけがない。目の前を通った一組の老夫婦を見て少年は駆け出した。最後の力を振り絞り老夫婦の持ち物を奪い取ろうとしたのだ。荷物を奪い取ることの成功した少年は無我夢中に走った。人の少ない路地裏に逃げ込んだ少年はまるで獣のように荷物の中をあさり始めた。
「食べ物がない」
少年の心の中はもう空っぽだった。そんな時背後から先ほどの老夫婦が追いついてきたようだ。少年からはあきらめと絶望に満ちた目がうかがえる。老夫婦が手を伸ばしてきた。痛めつけられる。そんなことを覚悟した時だった。
「お一ついかがかな?」
優しく穏やかな声が聞こえた。少年に向かって発せられたその声は決して悪意などない純粋な優しさが伝わってきた。その手にはきれいな香ばしいにおいのするパンがあった。たった今悪事をした人間に向かってだ。少年の中に光いや希望といってもいいくらいの気持ちが沸いてきた。そして少年は一つ問う。
「どうして?」
そのたった4文字の問いだ。だが少ない単語だが少年の疑問を表現するには十分であった。
「君がとても苦しそうに見えたからだよ。とても苦しく痛い思いをしている目をしているからだよ。」
そんな老夫婦の言葉を聞いたとたん涙がこぼれ始めた。今まで決して自分のこと考えてくれる人間はいなかった。自分の気持ちを知ってくれる人間はいなかった。初めて優しさに触れた少年は嗚咽をながし涙を流した。