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翌朝、矢吹蒼甫は、ジェットコースター<バイパー>のキャットウォークに出来た、大穴から落下し、安全帯で高さ55メートルで宙吊りになっているところを、出勤してきた、北九州アミューズメントの社員に発見された。
消防に通報され、消防のはしご車で無事救助された。
落下し、安全帯で宙吊りになった衝撃で矢吹蒼甫は肋骨を二本ほど骨折していた。
炭鉱夫にシャベルで殴られたわけではなかった。
矢吹蒼甫は、大した怪我ではなかったが、搬送された病院で、経過も観察つつ、二三日入院することとなった。軽い労災保険金詐欺。しかし、それに値する恐怖は味わっていた。
入院最後の日、社長の平口と矢吹の先輩の建宮が果物を数個見繕って見舞いにやってきた。
「災難やったな」
建宮が言った。
「はい、」
「一晩中宙吊りで怖かったか?」
「あんまり覚えてないんです」
「そうか」
建宮はそう言うと、りんごの皮を向いてやった。
「あ、それぐらい、出来ますから」
矢吹は答えた。
社長の平口も口を開いた。
「矢吹くんをな、正式な社員にしようと思うとると」
「はぁ」
閉まらない返事を矢吹は返した。
「営業の笹さんがな、怒って、北九州アミューズメントに怒鳴り込んでな、うちの同僚を殺す気か、言うてな」
「はぁ、」
「すまんけど、労災の分は、古賀さんとこが出すらしい」
「これ、美味そうなりんごやで」
建宮は、そう言うと、一人で皮を向いて一人で食べだした。
矢吹蒼甫は、連絡取ったときにどう切り出すか、妻ゆみと娘麗華のことを考えていた。
出来れば、誤ってでも、二人と三人でやり直したいと思っていた。
<了>