12/13
12
宙に浮いた状態で矢吹蒼甫は、空中で浮かんでいた。
元妻のゆみが、キャットウォークの側壁の縁の上でしゃがんだまま、小指と親指の二本の指で矢吹蒼甫のベルトをつまみ、そして持ちあげていた。
ゆみは、微笑んでいた。出会った頃のような微笑みだった。
「あなたが、私と麗華の為に誰よりも頑張っていたことはしっています」
矢吹蒼甫は、ぼんやり頭の中、ゆみの声を聞いていた。
「あなたを許します、だからあなたを救えなかった私たちも許して下さい、これが人です」
そういうと、ゆみは、ゆっくりと屈みこみ、矢吹蒼甫に口づけをした。
誰よりも優しく、そっと、そっと。